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「神の子」  作者: 新竹芳
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第83話 魔導人形との闘い Ⅰ

 光がこの暗闇を切り裂くように広がった。


 それは、如何にその隙を見つけるか考えていたバルトロマイ支部枢機卿にとっては好機であった。

 その光が、どうやら自分たちが待機させている馬車の辺りの様であったが、そんなことを気にしてる余裕はなかった。

 今まで貯めていた魔導力をその魔術に注ぎ込んだ。


 バルトロマイの周りの空間が揺らいだことを、ニシムロもアンドリューも気づき、それが何を意味するかもわかっていたが、そんな些細なことを気にすることはなかった。


「こいつは、魔導構成数式図か!」


 バルトロマイの後方に光り浮かんだ円形の紋様。

 それはこの時代には使いこなす人たちの居なくなった古代神語と図と数式で作られた魔術補助の装置。

 あるものは「召喚術の図」と呼び、ある者は「魔法陣」と呼ぶ。

 主に何かを引き寄せるために使われていたと解釈されていることが一般的だった。


 だがニシムロも、そしてその光と同時に出現したことを上空から見ていたディッセンドルフも、それが空間転移のための物であることを知っていた。


「たかが、支部レベルの枢機卿を逃がすにしちゃあ、大袈裟なしろもんだな!」


 ニシムロはそのままその光る紋様に向かって跳躍した。


 そして、空中で事の次第を見ていたディッセンドルフもその場に向かった。


 光る紋様自体が大きな魔導力を発していたが、そこに転移されようとしているモノが、並々ならない魔導力を周りに発していたのだ。


「あんな古代の魔術様式を使える機関なんざ、ロメン法国の法務庁クラスだろうが。やはりこの雑魚の後ろには教会の上層部が絡んでいやがったな!」


 雑魚呼ばわりされたバルトロマイ支部枢機卿は、転移先に起っている異常な事態に、出現したままの姿で身動きが取れなくなっていた。

 空間転移に多大な魔導力と体力を使い、目の前の超絶な魔導力になすすべもなかったのだ。


 待たせていた馬車の御者は既に逃げていた。

 馬車も、その光に焼かれるようにして、紋様に吸い込まれてしまっている。

 この魔導構成数式図はかなり大きいものだ。

 それ故、魔導力も多量に使われる。

 その近くにある物質を吸収し、ある意味燃料として使用できるように組まれているようだ。

 ニシムロは馬車が引きずり込まれるのを見て、そう推測した。

 もし、今の大きさより大きくなれば、この街の外縁部の建物も吸い込まれていたはずである。


 その光る紋様のすぐそばに転移したバルトロマイはある意味幸運であったのだろう。

 その吸引に耐えられる力はあったものの、魔導力を使い果たしていたが故、紋様の捕食対象にならずに済んだのだから。


「これだけの魔導構成数式図で、何をぶつけてくる気だ、教会は…。」

「さっき逃げ出した御者も、この街に対する大規模結界を敷いていた一人なんだろうな。結界強度が格段に落ち始めた。ヘタすっと、町の人間が騒ぎ出すぜ、大将。」

「そうか、時間がないか。まあ、もし大騒ぎにでもなれば、その隙に……。いや、チャンスか…。」

「ん?どうした、大将。」


 自分の横で急に考え込み始めたディッセンドルフに、声をかけつつ、光が落ち着き始めた地面に描かれた紋章を凝視する。


 ディッセンドルフもそれには気づいているが、どうもその先に視線が注がれている。


「どうやら、一時的な門ではなく、定着化を図っているようだな、これは。」

「だろうな。一時的に数名の人間を運ぶ程度なら、こんな大きさの魔導図はいらんからな。」


 ディッセンドルフが略した言い方で紋章について語った。

 結構この魔導構成数式図について、ディッセンドルフは深い知識を有してそうだが、一体いつ知ったのか?

 ふと、ニシムロは思ったが、「神の子」となった時に、大量の情報も一緒に「神」より賜ったのだろう。


「でかいのが出てきそうだが、今、大将が仕掛ければ門は壊せるぜ。」


 このニシムロの問いかけに、冷笑で返した。


「何故そんなことをする必要がある?教会はこれからここに持ち込むものを、また連れ戻そうとしている。だからこそ定着化したんだろう、この魔法図をさ。だったら。」

「はい、はい。わかったよ。門が開いて出てくる、教会の「虎の子」を無力化すればいいんだろう。全く、うちの大将は本当に無茶するな。」


 ディッセンドルフが何を考えているかを確認したニシムロは、その頭らしきモノが出始めた所に向かって飛び込んだ。

 既に出てくるものの見当はついているらしい。


 そのまま持っている剣を出てきている部分に振り下ろして打ち込んだ。


 瞬間、強烈な光がその紋様を守るように輝き、打ち込んだニシムロの剣ごと、引き込もうとした。

 ニシムロはその力に逆らいながら、そのまま魔導構成数式図の反対側の木々の中に転がり込む。


「ニシムロは無茶をする。そうなることは解っていただろうに。それに、出てきてるこいつを完全に出し切らねば、閉ざされちまうかもしれんだろうに。」


 ニシムロが無事なのを確認したディッセンドルフが、そう呟いた。

 シーツの前をくくり、走りやすい長さにカットして、急ごしらえの服を作ったアンドリューと、その「聖女」を守るようにマルスが紋様の見えるところまで近づいて来た。


「アンドリュー、こいつにあまり近づくな‼」


 5m程度上空に浮いているディッセンドルフが警告を発した。


「ディッセンドルフ様、こ、この紋様、「神の言葉」教の古代魔法陣ですか?」

「のようだ。こんなものを操れるのは、総本部の上位幹部くらいだろう。バルトロマイ支部枢機卿を裏から操っている奴らの仕業だ!」

「ああ、やはり、「敵」がいるんですね。私たちの結婚を認めないものたちが…。」

「その程度の奴らならいいんだが…。」


 ディッセンドルフのもの言いに、アンドリューはかすかな違和感を覚えた。


 だが、今はそれを問いただすような場合ではなかった。


 その紋様から、巨大な人型のモノが全身を現した。


 石と金属で覆われたそれは、頭部・胴体・腕部・脚部とあり、その2本の足で立っていた。


「魔導人形か。しかもこいつらは神殿にある強化守護神じゃねえか。」


 反対側の木々の中から姿を現したニシムロが、その者の正体を叫んだ。


「強化守護神…、魔導人形……。総本部の「神の部屋」を守るとされる12神体が、何故、ここに。こいつの発動には教会3高位神官、教皇・法王・枢機卿でなければできないはず……。わ、私が聞いていたこととは、違いすぎる。何が……、何が総本部で起こっているんだ……。」


 バルトロマイが、現れた巨体の石像に呆然とそう呟いた。


 だが、その魔導人形については「聖女」アンドリューも聞いてはいた。

 だが実物は見たことがない。

 その写し絵を見ただけだ。

 もし仮にバルトロマイ支部枢機卿が言っていることが事実であれば、ジョバンニュ支部長の自分の知らないところで、何者かの意思が、それも悪意が蠢いていることになる。


「何故、バルトロマイ支部枢機卿がこの石像を知っているのですか?」


 そのアンドリューの声に、初めてそこに「聖女」がいることを知ったように驚く。

 が、もう逃げることが出来ないという事を悟ったらしいバルトロマイが口を開いた。


「もともと私は、異教徒殲滅部隊で働いていた。」

「えっ!」

「そして、レオパルド第三支部、旧ランス支部の大司教だったラオス・フォン・フィンスナイ様に拾っていただき、そのままジョバンニュ支部に内偵として派遣された。」

「何故、内偵をする必要があるんですか!同じ「神の言葉」教なのに。」

「ラオス様は大まかな未来を見通せる「時の響き」という【祝福】、こちらで言う【言霊】持ちだった。将来的に「聖女」と強力な【言霊】持ちが出現することを見ていたんだ。だが、そのものが結託して「神の言葉」教を、そしてこの世界を破滅させるとも言われた。」

「そんな、そんなことは私は考えた事もないです。」


 否定するアンドリューを、しかし、バルトロマイは見ていなかった。

 アンドリューの声も聞こえていたかも怪しい。


「ラオス様は、殲滅部隊にいた私に出来る限りの「神の言葉」教のことを教えて下さった。その中には、「聖なる円」で守られた「神の部屋」や、魔導力で動く魔導人形、その中でも教会の深部に隠された「神の部屋」や「神の聖櫃」を守るために作られた強化守護神と呼ばれる12の神体も設置されていたんだ。その一つをこんな場所に派遣するなんて…、大司教様は一体何を考えておられるんだ!」


 その円筒形の頭部のような出っ張りに、7つの目が開いた。

 その円筒が回転し、7つの目がバルトロマイに注がれる。


 その視線に耐えるように見返すバルトロマイは、その巨大な魔導人形が何を求めているか、唐突にわかってしまった。


 バルトロマイはたまらず、身体を反転して逃げようとした。


 遅かった。


 その魔導人形の手から突き出ていた5本の指のようなものの一つが、一気に伸びて逃げるバルトロマイの背中を貫いた。

 確実に心臓を射抜かれたバルトロマイは、最後の執念で突き刺した魔導人形を凝視した。

 そして、その魔導人形を操っているであろう高位聖職者をその視線で焼き付かせたいと切に思ったが、その想いは果たせなかった。


 バルトロマイの悲劇は即死しなかったことにある。

 なまじ魔導力があるために、このいくばくかの時間に使い切っていた魔導力の再生が行われていた。

 そして心臓を破壊されたことが、生への欲求となり、自分の心臓の修復を始めていたのである。


 魔導人形は刺し貫いたバルトロマイの身体をそのまま持ち上げ、頭部迄近づけた。

 その時頭部の円筒の真ん中あたりが開き、そのまだ意識のあるバルトロマイの身体を食べ始めたのだ。


「ぎゃあああああああ~~~~~~~。」


 断末魔の悲鳴と、身体が何かに押しつぶされる嫌な音が周辺にまき散らされた。


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