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「神の子」  作者: 新竹芳
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第74話 襲撃Ⅱ

 ニシムロは森の中で、馬車の「聖女」を奪還する目的を持った5人の魔導騎士の姿をいち早く見つけた。

 皆、緑の迷彩柄のローブを纏っているが全員が男であることはその仕草から分かっていた。

 ニシムロにとっては5人を瞬殺することはそれほど難しいことではないのだが、ディッセンドルフは最低でも一人、出来ればこの襲撃部隊のリーダーを務める人物を生け捕りにしないといけないという縛りがあった。

 一番は全員生かして掴まえればいいわけだが、流石に5人を殺さずに無力化するのは骨が折れる。


 すでに彼らの正体は解っていた。


 魔導士としてはちょっと物足りなさそうだ。

 ニシムロはそう判断した。


 ここまで接近を許すとは、魔導に通じた者がいないという事か。


 ニシムロは迷彩色のローブの下に見えた「紋章」、その下に書かれた絵面から、「神の言葉」教のジョバンニュ支部のものだとは分かっていた。

 だが、どうも様子がおかしい。


 魔獣使いが既に先行してディッセンドルフ達の方に向かっている。

 であれば、魔獣が襲撃したタイミングで連携をとって、目的を遂行するはずである。


 相手がロメン法国ではなく「神の言葉」教の一支部であるのなら、目的は「聖女」アンドリュー・ビューテリウムであることは確実だ。

 ただその目的の手段が「誘拐」か「殺害」か?

 彼らの動きを見る限り、傭兵たちに襲わせた後で続けざまに魔獣に襲わせる。

 そこにこの5人が颯爽と登場し、「聖女」の危機を救うというところか?

 だが、そう考えると道を遮断してそこに2名配置しているのは…。


「ああ、そういう事か。」


 ニシムロはここにいる5人の騎士たちの浅はかな考えに頭を痛めた。


 土砂崩れを起こし道の通行を一時的に止め、反対方向からの通行を遮断しただけで、ディッセンドルフ達に対する挟撃を行うという大それたものではなかったのだ。


 「聖女」アンドリュー・ビューテリウムの支部長職からの離職を単純に引き留めるためだけの実行とみて間違いがない。


 ジョバンニュ支部の一部の「聖女」信奉者が起こしたつまらない実力行使なのだ。

 だから「聖女」と同行しているモノたちの素性すら知らないに違いない。


 この者たちに魔導に秀でた者はいない。

 しかも騎士としてはいいとこ中の下といったところだろう。

 ここで待機していて、魔獣使いの合図を待っているに違いない。

 既に傭兵も魔獣も魔獣使いも無力化されたことにも気づいていないのだ。


「まいったな、こりゃ。」


 ずぶの素人相手に戦う気が失せてしまった。


「遅くないか、老師からの合図。」


 いたたまれないようで、そう声を出したものがいた。

 やっぱり合図を待っていたのだ。


「いや、イルアス老師に間違いはないはずだ。「聖女」様には我が国で我々を導いてもらわなければ困る。きっと我々の真摯な言葉に耳を傾けてくれるはずだ。」

「だが、このような芝居で騙していいものか。それよりも、返り討ちに遭ってるという事はないのか。」

「イルアス老師様に限ってそのようなことはないはず。何と言っても多数の魔獣を意のままに操れるんだぞ。あの舞虎ですら。」


 どうやら、このグループにトップがいないことが分かった。

 まさか魔獣使いの魔導士がこの件の首謀者だとは思わなかった。

 ニシムロも、そしてディッセンドルフもあまりに雑な計画に的を外してしまったらしい。

 また、聞いている限りの言葉使いから15歳前後ではないかと思われる。

 さすがに命を取ろうとは思えない。


 だが、とち狂ったやつの接近にニシムロは気付いた。


「やばい!おまえら逃げろ!」


 ニシムロは纏っていた気配非感知結界を解除して、5人の前に飛び出した。


 突如現れたニシムロに驚いてその場を動けない少年兵5人を守るようにして、迫ってくるオオジコバの剣を止めた。


「裏切るのか、ニシムロ卿‼」


 「聖女」殺害を目論んだと勘違いをしているオオジコバが叫んだ。


 どうやら自分はいつもオオジコバに勘違いされる運命らしい。

 そう内心で苦笑しながら、ニシムロは後方にいる少年たちを守るための防御障壁を張った。


「やめろ、オオジコバ。こいつらを冷静に見ろ!」

「崇拝するアンドリュー様が殺されそうになったんだ。冷静になどなれるわけがないだろうが!「聖女」殺害を企てた者には俺が天誅を下してやる!」


 オオジコバの剣を何とか受けているニシムロの頭上から、後方にかけて光が貫いた。


「稲妻か‼」


 高圧電流の雷がニシムロが張った結界を直撃した。

 が、ニシムロの結界に損傷はなかった。

 中の少年たちも当然無傷ではあったが、地面にひれ伏し、恐怖に怯えている様子が、後ろを振り向かなくともニシムロにはわかっていた。


「また魔導の腕を上げたのか、オオジコバ。俺と戦いながら他に対して魔術を使うなど、とんでもない高等技術じゃねえか。」

「ニシムロ卿も、あの雷を完全に抑える結界を、自分以外の場所に張っている。あんたにそんなことは言われたくねえよ!」


 オオジコバは軽くバックステップし、一度ニシムロから離れた。


 二人は睨み合った。


「やっぱりあんたは、裏切り者なんだな。そいつらを使って先輩のいく道を妨害しようとしていやがる。」

「だから、よくあいつらを見ろって言ってんだ。」


 が、すぐさまオオジコバの剣がニシムロ目掛けて襲い掛かる。

 さらに土の中から槍状のモノがニシムロの足元から襲ってきた。

 それは後方の結界にも同様に襲い掛かる。


 ニシムロはその物を一瞥しただけで、オオジコバの頭上に無数の光弾を降らせた。


 土の槍は瞬時に消え、光弾の何発かはオオジコバに被弾した。


「本当にさ、少しは状況を把握しろってんだよ。」


 だが、ニシムロの声はオオジコバには届かない。


 数発の光弾も決して威力の低いものではない。

 にもかかわらず、オオジコバはその損傷を完全に無視して、ニシムロに剣をくり出していた。


 振る、薙ぐ、突く。


 一時も休まずにニシムロに剣を振るう。

 その動きにニシムロは対応しながらも、後方の結界の強度を強めていく。


 オオジコバはその結界に対しても魔術を仕掛けていた。


 炎であぶり、雨を降らし、光弾をぶつけ、空間断裂までも使った。


「さすがは「神殺し」の【言霊】。その魔導力は底が知れないな。」

「ふざけるな!貴様の方こそ、いつも余裕ぶって人を見下しているじゃねえか‼」

「それが本音か?「神殺し」を賜ってからの不満が爆発しそうだな。」

「うるさい!さっさとあの5人を殺して、アンドリュー様に差し出す!」


 ニシムロは度重なるオオジコバの魔術の攻撃に平伏す5人の少年を見て、今度は真剣にオオジコバを見据えた。

 加速度的に剣筋が早くなるオオジコバの攻撃をかいくぐり、鳩尾に拳を叩き込んだ。

 まずはこの攻撃を緩めないと会話もできない。


 オオジコバはその身体全体を魔導により硬質化しており、多少の攻撃は弾くようにしていた。

 ニシムロは自分に対する剣での攻撃、少年たちへの魔術の攻撃にさらに己が身を守る魔導を使っていることに少々驚いた。

 これならディッセンドルフの攻撃の槍の手として申し分ないであろう。


 だが、光弾とは違い、自分の魔導の力も込めた拳は、硬質化されたオオジコバの防御を易々と通り抜けて内臓に対し少なくないダメージを与えた。


 オオジコバはニシムロの一撃に数歩下がった。

 剣は落とさなかったものの、攻め込むことが出来ないほどのダメージである。


「お前の剣は早いから避けるのも大変だ。ちょっと時間がかかったが、冷静になってあいつらを見ろって言ってんだよ。」

「グッ、いつも人を小ばかに…。って、あれが襲撃者?」

「はア~、やっと見てくれたか。」


 オオジコバの怒りが収まったことを確認して半透明に囲っていたニシムロの結界を解いた。

 腰が抜けて立てなくなった少年が、恐怖におののく目をオオジコバに向けている。


「ガキ、か?だがなんで。こいつらで俺たちに勝てると思っていたのか?」


 年齢的にはオオジコバもこの少年兵とそんなには変わらないと思うのだが。

 オオジコバを見てその実年齢を当てることなどできる人間はいないだろう。

 筋肉隆々の大男。

 ニシムロと一緒にいると目立ちづらいが、単体ではまず近づくものは皆無といっていい。


「魔獣使いの老人に言葉巧みに操られていたのだろう。まあ権能ではあるのだろうが、魔導力はほとんどないに等しい。彼らは囚われた「聖女」様を助けるために老人について来たらしい。」


 結界に入れている間に簡単にその心をニシムロは読んでいた。


「また俺の勘違いってことか。本当に自分の短絡思考に嫌気がさす。」

「これに懲りたら、少しは人の言う事を聞くようにしろよな。」

「分かりましたよ、ニシムロ卿。」


 憮然とした態度でオオジコバは、いまだ恐怖の目で見る少年たちの前に行き、恫喝し始めたのを見て、ニシムロは頭を抱えた。

 仕方なくその場まで行って、少年たちに一緒に来るように諭すと、素直に従う。

 が、極力ニシムロの陰に隠れるように少年たちは動き、その反応にため息をついた。

 顔に大きめの傷がある自分が、子供に好かれることになるとは思いもしなかったのである。


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