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「神の子」  作者: 新竹芳
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第68話 オオジコバとの闘い

 元の魔獣の森の伐採によって開かれた仮の修練場。


 そこにディッセンドルフとオオジコバが向かい合って立っていた。


 かなり離れて[サーマル/サーシャネル]が二人を見ている。

 他の者も二人の、たぶん最後の戦いを見たがりはしたが、あまりにも危険度が高すぎるため、仮校舎の学生会議役員室にいる。

 [サーマル/サーシャネル」は【言霊】持ちではないが、二人分の魔導力があり、自分の身を守れるとディッセンドルフが判断してこの場にいることを許された。


 前回、3年前の戦いでは、ディッセンドルフが構築した結界の中で暴れるオオジコバの余波を周りから遮断して行われた。

 その結果、全く周囲に損害を与えずに済んだ。

 だが、今回の戦いでオオジコバは自分の力を誇示するだけでなく、ディッセンドルフの全力を知りたいという願いもあり、極力人を遠ざけた。


 もっとも、他の人たちがそれで納得はしなかった。

 名目上、[サーマル/サーシャネル]が見た映像を役員室内のニシムロに思念転送を行い、その場で二人の戦いを見せるという事で落ち着かせた。

 だが、いくら二人分の魔導力があるとはいえ、そんなことを彼らはしたことが無い。

 さらにニシムロとのコンタクトで思念転送ができる気はしなかった。

 [サーマル/サーシャネル]が、というよりもサーマルは裏で、戦っているはずの「神の子」ディッセンドルフがニシムロに思念転送を行うと聞かされている。

 そんなことに魔導力を割く、ということがわかればオオジコバが激怒することがわかっていたからである。


 実際問題として、入学当時ですら、オオジコバの魔導力は「神殺し」の名に恥じぬだけの凄まじさを持っていた。

 この3年以上でさらにパワーアップしている。

 そして、これに対抗する「神の子」ディッセンドルフの力はさらに底が知れない。

 そんな状況下で悠長に戦いの映像を送る余裕はない、とサーマルは思っていた。

 [サーマル/サーシャネル]の身を守る事が最重要であるのだから。


「こうやって相対すると、思い出しますね、俺の入学式。」


「オオジコバ。あの時にこんなお互いが顔を見合わせた記憶は俺にはないぞ。お前が入学式で暴れて、慌てて俺がお前を止めに行ったんだろうが。」


「そうでしたかな。俺には「神」を殺すなどというこの【言霊】を恨んでいました。で、「神」ではない人が「神の子」の【言霊】を授かった。狂喜しましたよ。これが俺に与えられた力の意味だと。本当にコテンパンにやられましたが。」


 そう言って当時の自分に対して、オオジコバは笑っている。


「先輩が俺を信じてくれて「聖女」様の戒めを解いてもらえましたから、先輩の旅立つ前にこうやって戦えることがうれしくてなりません。」


「戒め、俺に対して一切の敵対行動が出来ない状態を解除させなければよかったと、今、俺は本当に後悔しているよ。こんな面倒なことが起きるならな。」


「先輩からしたらそうなのだとは思ってます。俺なんかに負けるわけがないと。でも侮らないでくださいね。3年前とは違います、俺の力は。」


「そのことは充分に感じてる。だが、俺を本気にさせたら、死ぬぞ、オオジコバ。」


「それこそ本望です。もし生き残ったら俺の願いを聞いてもらいたいのですが。」


「単純に俺を倒したいんじゃないのか?」


「当然、倒しに行きます。俺の全身全霊で全力で。それでも先輩を倒す自身は欠片もありません。先輩を本気にさせ、なおかつ俺が生き残った時の話です。」


 以外にも真剣な目でディッセンドルフを見ていた。

 3年前の狂気に満ちた目ではなく。


「ああ、わかった。俺に出来ることなら叶えてやるよ。」


「ええ、先輩でなければ無理ですから…。そろそろ行きますか。」


「で、条件は。何でもありか?」


「先輩相手に条件も何もないですよ。条件付けたらそれを理由に手抜くでしょう、先輩って人は。」


「なんか、そう言われると無性に腹が立つな。可愛い女子の後輩なら嬉しい言葉なのに。」


「この状況下でそんな冗談が言える人だとは知りませんでした。なんか、人間ぽいですね。」


「俺はれっきとした人間だ。何だと思ってたんだ。」


「いや、いつも冷静で、人を他人とも思わない冷血漢かと。ハハハ、冗談ですよ。こんな言い合いが出来るのも嬉しくなってしまいますよ。」


「俺はちっとも面白くないよ。では、剣はなし。魔法だけでやりあう。殺されるか、負けを認めるか、戦闘が続行不可能で終了。いいな。」


「それ、全部俺のことだと思ってますよね。まあ、いいでしょう。俺が先輩に一泡吹かせればいい訳だから。じゃあ…行きます!」


 オオジコバがそう言うと同時に大音響が大地に響いた。


 修練場のあたりの土地が抉れた。

 二人が消えた。


(サーマル、上だ!)


 ニシムロの思念が[サーマル/サーシャネル]の頭蓋骨内部に響く。


 二人は仮校舎よりかなり高く飛んでいた。


 ディッセンドルフに対してオオジコバの手が何本にも見える程に突き動かされている。


 抉られた土地が土の塊となって落ちてきた。

 [サーマル/サーシャネル」は慌てて周りに半透明の結界を展開させた。


 そこからは二人が異常な高速で空の中に現れたり、消えたりしており、追い切れていなかった。


 一体、二人の戦いは、二人は何をしているんだ?


 サーマルは目で何とか二人を追いながら、自分の力の無さを痛感していた。


 そしてオオジコバもそれは同じだった。


 長期戦、持久戦になれば魔導力が無尽蔵なディッセンドルフにかなうわけがなかった。


 いくら【言霊】を持っている者が、自分の肉体をエネルギーとしていない、と言われてもそのレベルが違い過ぎる。


 だからこそ、最初の一撃、そこからの続けざまの攻撃でなければ勝てないと判断した。


 始まりと同時に周りの土地をえぐるほどの広範囲に魔導力を叩きこんだ。

 と同時に宙を舞い、ディッセンドルフの上を取ろうとしたが、すでにディッセンドルフがとんでいた。


 不安定な空中で接近戦に持ち込み高速で槍となった自分の両手を、ディッセンドルフに向け連続で撃ち込んだが全て躱された。

 すぐに距離を置き、多数の光弾を撃ったが全て無効化。

 最初の一撃と同時の内部破壊はあっさり消され、カウンターでこちらもやられた。

 大体は消失できたが、数か所破壊され治癒をしているうちに、ぎりぎり躱せる程度の空間断裂がとんできた。


 明らかにディッセンドルフはオオジコバを試していた。


 オオジコバは一度ディッセンドルフから離れるため、伐採が行われていない森に身を伏せた。


「くっ、わかっちゃいたが、先輩は化け物だ。」


 少し息を整えた時だった。


 次々と、この残った森が爆発し始めた。

 ディッセンドルフがオオジコバの周りを爆撃してきたのだ。


 そのディッセンドルフは小高く突き出た高みからオオジコバを眺めていた。


 そう、完全に丸見えなのだ。

 誘っているのは間違いない。


 自分の最大の魔術を、最大限の魔導力で先輩にぶち当てるしかない。


 ディッセンドルフがオオジコバの力量を侮って、その身を晒している今が最大のチャンスであると、オオジコバは考えた。

 たとえこの命が尽きようとも、今を置いてもうこれだけの機会はない。


 数か所の森を爆撃してオオジコバを炙り出そうとディッセンドルフは眼下の森林に目をやっていた。

 この森林はディッセンドルフにとっては全く遮蔽物の役には立っていなかった。

 オオジコバの意識が手に取るようにわかるのだ。

 それをこの爆撃でオオジコバは認識したはずである。


 隠れることが出来ない木々の間からディッセンドルフの様子を窺うという事に意味がないと思えば、どこかで出てくるしかないのだ。


 森林の木々の中を多少移動するオオジコバの意識が微かに薄くなっていくのがわかった。


 オオジコバは何をしようとしている?


 その瞬間、ディッセンドルフを挟み込むように左右からオオジコバが空中に出現した。


「空間転移、いや、分身か!」


 二人のオオジコバは右手を鋭い槍と変化させてディッセンドルフに襲い掛かった。


 分身である、と瞬時に判断したディッセンドルフがその二人を紙を切り裂くように両断した。

 切られたオオジコバの身体が霧散しながら地に堕ちる。


 この二人と時間差でディッセンドルフの真上にさらなるオオジコバが現れた。

 そのオオジコバも消失させるために真上を見上げたディッセンドルフの足元が急にその実体をなくした。


 ディッセンドルフのいた場所が急にその強度が消え、泥状に変わってゆく。

 ゆっくりとその泥がディッセンドルフの足元を絡め捕ってきた。


 ディッセンドルフの意識が足元に言った瞬間、真上にいたオオジコバが空間断裂を仕掛けてきた。

 ワンテンポ遅れてその断裂をそのまま術者返しを行うと、簡単にオオジコバが消えた。


 が、その時にはディッセンドルフの意識がオオジコバを捉えていた。


 泥状の地面から自らの両手を槍と化して、ディッセンドルフの腹部を刺し貫こうとした。


 ディッセンドルフの足を絡めとっていた泥をカウンターで無効化し、足を抜く。

 そのまま宙に向かって、その二つの槍を躱そうとした。

 が、オオジコバの左の槍の先端がディッセンドルフの頬をかろうじて触れた。


 その刹那、ディッセンドルフの身体が消えた。

 と同時に巨大な質量がオオジコバの体にかかり、泥の中に頭から突っ込む形になる。

 瞬時に泥が土に戻り、オオジコバは動かなくなった。


「やり過ぎではないですか、ディッセンドルフ様。」


 薄いローブを身に纏った「聖女」が、空間から出現し、軽やかに、自然に、ディッセンドルフの隣に並ぶ。


「そういうな、アンドリュー。」


 ディッセンドルフは「聖女」アンドリュー・ビューテリウムに敬称をつけなくなって、すでに数か月が経過していた。

 その女性が自分の完全な僕として認めたためである。


 自分が取り込んだ「心の海」には多くの「聖女」崇拝者の魂があった。

 それを踏みにじるようにしてきたラスプーチンから解放された魂たちは、その「聖女」が崇める「神の子」を自然に崇拝しその心をディッセンドルフに積極的に差し出したことが理由の一つであった。

 が、これからの行動にこの「聖女」アンドリューは絶対に必要であり、誰がアンドリューの主であるかを行動と言葉で知らしめておく必要があったからだ。


 二人は足元で首を地中に固められ、窒息死目前のオオジコバの身体を見ていた。


 その体をディッセンドルフは強引に引き抜いた。

 巨大な見えない質量に押しつぶされた内臓や、固まった土によって塞がれた気管を、アンドリューが癒していく。

 もともとこの力は「神の巫女」としての能力だったが、さらにディッセンドルフの送る魔導力により、強力な修復の力として展開していくことが出来るようになっていた。


「ちょっと危なかったですね。呼吸もそうですが、重要な内臓器官に致命的な損傷がありました。」


「オオジコバはもう少し防御に力の割り当てを割いた方がいいな。自分の絶対の技を避けられた時の対応がなってない。」


「そんな無茶な。「神の子」相手でなければ、分身の空間転移の時に勝負が決まってましたよ、本当に。」


 泥だらけのオオジコバの胸が規則正しく伸縮を繰り返している。


「こいつは俺が学校の医務室に連れておくぞ。役員室で見てたやつらが気が気でない様子でな。」


 二人の後方から現れたニシムロが、ディッセンドルフに声を掛けた。


「頼む、ニシムロ。」


 ニシムロはオオジコバを抱えると、そのまま姿を消した。


 [サーマル/サーシャネル]は、ただ茫然とその光景を見ていた。


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