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「神の子」  作者: 新竹芳
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第67話 騎士魔導士学校中退

 マルチナがある程度涙が枯れてきたのを見計らい、ディッセンドルフは[サーマル/サーシャネル]に視線を向けた。


「サーマルには悪いと思っている。これからのことはお前とサーシャに負担になるだろうからな。」


「僕は君がここを、いやこの世界を去ろうとしている理由を知りたいだけだ。お前の力が桁違いで、明らかにこの国どころか、この世界全てを変える力を持っている。だが、全くお前の未来が見えてこない。何を考えているんだ?」


 サーマルは心の熱量を懸命に抑えて、問いただした。

 自分でも、興奮することがサーシャネルに不安を与えることは理解していた。

 だが、自分の親友が、破滅に向かって突き進みそうな気がして、どうしようもできない。


「サーマルは【言霊】持ちではないから当然なんだが、【言霊】持ちでも「神の言葉」を明瞭に聞いた者が少ないらしい。あの「聖女」アンドリュー様ですら、自分の【言霊】を賜った時に、「神に仕えよ」とのことだけだったと聞いている。だが、俺はあのすべてを一変させられた日、「神の子」となった時に、かなりの言葉を叩きこまれた。」


 あの恨みしか抱けない「言葉」を聞かされた日を、忌々しい思い出したくもない言葉を心の深いところに打ち込まれた日を、ディッセンドルフはどれほど消し去ろうと試みたことか。


「これは俺の義父であるルードヴィッヒ侯爵にももたらされた「言葉」でもあるんだが、俺が18の年になるまで育てよ、というものだった。侯爵はその神の指示に従ったに過ぎない。」


「ディッセンドルフ、その言葉だけなら、あとは自分で生きて行けばいいだけだろう。お前がこの国に貢献した功績を考えれば、この学校を辞めたところで、どこでも生きていく可能性は多いはずだ。」


 サーマルの言葉に頷く。

 そう、出来ればこの友と共にマルヌク村の再建を行い、かかわりを持った人々の幸せのために生きてもいいのではないかと思った。

 ニシムロがここにいる、という意味を考えなければ……。


「俺にはそれは許されないらしい。神は、俺に人間としての幸せを許すことは無いという事を、警告されている。18になったらすぐにでも次の行動を起こさなければならない、というほどではないが、今引き継いでいることや、俺に関係した人のある程度の幸せが確保できた時点で、旅立とうと考えている。」


「神から、一体何を言われているんだ、ディッセンドルフ!」

「それを言うことはできない。」


 そこでディッセンドルフはサーマルに対して、自分への反論を抑え込んだ。


 サーマルもまた、これ以上は答えてはくれないことを理解した。

 自分の中にあるマグマのような熱量は行き場を失い、心の中に渦巻いているというのに。


「サーマル、本論に入りたい。今回、マルチナ中佐に来てもらっているのは、感動の対面をしたかっただけではないんだ。」


 涙をやっと抑えることが出来たマルチナが、自分の名を呼ばれたことに顔を上げた。

 そんなに化粧をしている方ではなかったが、流れた涙によりマルチナの顔はとんでもないことになっていた。

 抱かれていたフォルテが慌てて、自分の持っていた小さな鞄から取り出したタオルに魔術で水分を含ませ、その顔を拭いてあげている。


「この前渡した「マルヌク村再建計画」の概略は解っていると思うが、あの死体だらけの土地は、国の土木事業として正式に認可されている。その責任者は行政になるんだが、その窓口の担当がそこにいるマルチナ中佐だ。」


 その言葉にサーマルが赤い髪の毛の士官に顔を向けた。

 ディッセンドルフの人脈がいたるところで発揮されていることを痛感した。


「サーマルにはクラチモ村の住民の意向を聞いてもらうんだが、もし移住を反対する者がいた場合の説得も任せる。今度の冬が来る前に、ある程度の移住は完成させたい。マルヌク村のアンダストン邸は焼かれたが、住居はそれなりに残っている。急ピッチで土壌の再開発と住居など建物、施設の改修、設置を急がせているが、700人程度であればすぐにでも住めるはずだ。

 クラチモ村の住民が移住を承諾してくれれば、国家騎士団と魔法師団を向かわせ、大規模な魔獣の掃討を計画している。そのことも交渉の材料にしてもらいたい。」


「国が全面的にバックアップしてくれるんだな。あんな貧しい寒村の人たちのために。」


「当然だよ。あの村は俺の親友の大切な村だ。その住民には最大の貢献をしたい。」


「ディッセンドルフ……。」


 ディッセンドルフがどこにいようと、友人であることには変わりはない。

 もし、万が一にでも自分が役に立てることがあれば、すぐにでも駆け付ける。

 とてもじゃないが、恥ずかしくて言えない心情だった。

 しかし…。


「それくらいわかってる。だからこそ、このマルヌク村の再建こそ、君の手腕が期待されるところだ。」


 すべてを見通せる「神の子」。

 今までも俺の心は駄々洩れだったわけか。


 急激に恥ずかしさを覚えるサーマルであった。




 さらに、この学校での細かいことがディッセンドルフから学生会議役員に提示されていく。

 政府との交渉が必要な案件も、この学校の再建が行われてる現在、様々にあった。

 マルチナ中佐は、軍の教導部にいた経験もあることから、そのままこの学校の教官を兼務することになっていることもあり、常駐してくれる。

 サーマルに限らず、すべての案件については窓口となるマルチナ中佐に相談するように伝えた。

 また、マルチナにはディッセンドルフの名を使いことを円滑に進めるように助言する。


 その間、オオジコバは一切その口を開かなかった。

 もっとも、今検討されているような事務処理にかかわる話には、オオジコバはあまり関心を示さなかったし、好きでないこともここにいる全員が承知しており、その沈黙を不自然だとは感じていなかったのは事実である。


 彼はディッセンドルフの言葉を考えていた。


 ディッセンドルフがどうやらこの学校を辞めて、この国を出ていくらしい。

 それが「神の言葉」だと言った。

 であるならば自分に授けられた【言霊】をどう考えるべきなのか?

 「神殺し」の力とはいかなるものなのか?


 「神の子」に対して3年前に行った攻撃は完全に抑え込まれた。

 それがどういう意味を持っているのか?


 確かに自分の【言霊】は「神殺し」だ。

 だが、その力は「神の子」の前であっさりと破れた。

 当然神に対して通用するはずのない力という事だろう。


 では自分の存在意義とは、何なのだろうか?


 ディッセンドルフは何かの目的をもって、今の彼に関することをすべて残る者たちに任せようとしている。

 オオジコバにはそう思えた。

 だが、自分に対しては、なにもそのようなアクションを起こしていないことも気になる。


 すでにオオジコバの頭では整理がつかなくなっていった。


 この騎士魔導士学校の再建と、サーマル先輩の出身地クラチモ村の住民の救済も兼ねたマルヌク村の再建。

 メビウス卿が絡んだ物事の幕引き。

  以前はディッセンドルフに張り付くようにいた「聖女」アンドリューの不在。

 これは何事かの頼みごとをディッセンドルフが行ったことにあるのだろう。


 結局、オオジコバは自分が理解できる範囲の決断をした。


「ディッセンドルフ会長、いいですか?」


 [サーマル/サーシャネル]との会話が一段落したところを見計らって、オオジコバが手を上げて、発言を求めた。


「どうした、オオジコバ。」


 久しぶりに真剣な眼差しを向けてきた後輩にディッセンドルフが応える。


「俺と本気の決闘をしてくれませんか?」


「入学式の時のリターンマッチという事か?」


 決闘の申し込みに軽く笑ってディッセンドルフが言う。


「先輩の本気の力を俺に見せてください。俺は先輩を殺す気でかかります。」


 入学式の時もそうだったが、ものの見事に返り討ちにされたのではないか?

 サーマルは思ったが、口には出さなかった。

 それが何を意味しているかもわかっていたから。


「わかった。この地を去る前に、お前の心残りを潰してやろう。」


 ディッセンドルフがとオオジコバの再度の戦い、そして最後の戦いが決まった。


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