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「神の子」  作者: 新竹芳
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第65話 マルチナ・アージャル

 国家騎士団郷土部所属の中佐を務めていると、赤毛の女性マルチナ・アージャルは自分の身分を語った。

 今回の騒乱終了後、国王と首相の救出に尽くしたことが評価され昇進・異動となった。

 騎士魔導士学校校長となったバスター・プロミネンス少将の直接的な部下、この学校の教官となったのである。

 辞令は1週間前に、勤務は来月からとなっており、今は引き継ぎに忙しいとのことだ。


 その忙しい中、フォルテがやっとディッセンドルフに会うためにこの学生会議役員室に訪れる連絡をオオジコバから受け、急遽ニシムロを彼女のもとに行かせた。

 できうることなら、ここでフォルテと会ってほしかった。

 時間の限られたディッセンドルフは、この込み入った説明を極力1回で終わらせたかったし、フォルテはこの学校とは無関係のため、この機会は逃したくなかった。


 マルチナが赴任する来月以降ではもう遅い。

 ディッセンドルフは、この時・この場に来てくれて感謝していた。


「説得に時間がかかった。彼女いわく、来月になればこの学校に常駐するのだからそれでいいだろうということでな。」


 もっともな話だ。

 それでもニシムロは連れて来てくれた。


「すまない、ニシムロ卿。」


「わかっている。「神の子」ディッセンドルフには時間がないことを説明した。言わなくて済めばと思ったんだが…。」


「ありがとう。そして、マルチナ・アージャル教官、おそらく初めましてということでいいですね。」


 ディッセンドルフに話しかけられ、他の人から見ても緊張していることが分かるマルチナが、その力強い瞳を向けた。


「はい、こうしてお会いするのは初めてです。あの時は騒動終息に多大な尽力をいただき、ありがとうございます。お目にかかった時にはしっかりと謝意を伝えようと思ったのですが、いまだあの時のことが信じられないのと……、メビウス卿とディグ卿のことで……。」


 言いながら視線が徐々に下がってしまっている。

 自分でも気づいたのだろう。キッと視線を戻し、口を開く。


「ディッセンドルフ殿は、本当にこの学校を辞められてしまうのですか?」


 その声にこの部屋が固まった。


 ニシムロはかなり困った顔をしてディッセンドルフを見た。


 ディッセンドルフはそんなニシムロに苦笑で返す。


「やはり、そのつもりだったのか、ディッセンドルフ。」


 静かにサーマルが言った。その言い方が違うため、[サーマル/サーシャネル]の主体が変わることにかなり慣れてきたなと、ディッセンドルフは思った。


「いろいろなことを急ピッチでしていたからな。」


「サーマルにはきっとばれてるとは思ってたさ。」


「なぜ、何故おやめになるのですか?」


 リエナンティが震える声で問いかけた。

 それはここにいる者の総意の質問だろう。


「理由は何個かあるのだが……。さて、その話は、事件の経緯とここに来てもらった中佐のことが終わってからだ。どのみち近いうちにそのことについては皆に言うことだったしな。」


「わかりました。」


 不服そうだがリエナンティは、一応納得したようだった。




「インデルマン卿との会見最中にディグ卿が急死した。そのため、「優剣翁」の名の通り、ナターシャの剣の師として教え始めた。ジルベル・フォン・カーサライトの養女になったこともインデルマン卿は納得した。この結果、カーサライト家で起こっていた数々の不明な事件の裏を探ろうとしていたインデルマン卿は中断を余儀なくされた。

 ナターシャはカーサライト家の暗部を知ることなく剣に打ち込んだ。「神の子」と呼ばれる私に一太刀でも入れるために。ナターシャの目的はインデルマン卿はよく知っていたが、今のナターシャを生かしているものが、その目的であることも理解していた。そのため、「神の子」との決闘を実行するかどうかは別にして、その目的をモチベーションとしての教育を行った。特に騎士魔導士学校に入学、しかも首席でと言うこともあり、かなり厳しく教えたらしい。だが、それによくついてきた。陰からラスプーチンの援助があったことも事実とはいえ、だ。

 さらにラスプーチンを自分の主と信じ込まされたサーシャネルは先に騎士魔導士学校に入学、誰にもその目的を知られることなく明るい少女としてこの学生会議役員に収まった。

 ラスプーチンはその本体をナターシャの復讐心の中に潜めながら、落ちこぼれの魔導士、「聖女」付きの神聖騎士たち、レオパルド連邦の政治家・軍部の不満分子の扇動を行っていた。本当に働き者だよ、ラスプーチンという精神体は。」


 ディッセンドルフの語る言葉に、ナターシャとサーシャネルは罪悪感に苛まれていたが、お互いに、そしてサーマルがフォローしている。


 この場が二人の糾弾の場所でないことは、本人たちが一番よく知っていた。

 知ってはいたが、心が軋むのはどうしようもなかった。


 その語られることに、オオジコバだけは微動だにしていなかった。

 いや、自分の思考に入っているようにサーマルには思えた。


 何を考えているのか?


 明らかに、先ほどのディッセンドルフの中退の話から、笑顔が消えていた。

 その体格と態度、そこに険しい顔にオオジコバを悪鬼と言う同級生たちの言葉をサーマルは思い出していた。

 入学時にディッセンドルフとやりあった経緯もあり、オオジコバは恐れられている。

 この役員室でのオオジコバしか知らないと、同一人物の話とは思えないほどに。


「この学校の結界がなくなり魔獣たちがこの学校に潜入した事件にはラスプーチンは関係していない。ただ、この時逃げた魔導士、コンシュ・ハゼロウと言う低級な人物を抱き込んだ。そして、レオパルド連邦軍が極秘で開発していた戦艦を使い、このジョバンニ・クリミアン連合王国を襲撃し、「神の子」の出方をうかがった。私が何もしなければ混乱を充てることが出来る。どちらにしても奴には好都合。新兵器を持った子供が使いたがっていたのも事実だったからな。あの国は魔導士が少なく、科学の力で対抗しようとしていた。魔導力もそうだが、その使用者に矜持がないと非常に迷惑な結果になるいい例だと思う。

 このレベッカ海峡での結果はラスプーチンにとって予想以上だったのだろう。やった本人が言うのもなんだが、あれほどのことが起こるとは思わなかったからな。」


 この言葉にニシムロガ嫌味な笑みをその口元に浮かべていた。


 サーマルもオオジコバも、ディッセンドルフの言葉に苦い表情を浮かべた。


 説明のようなものは受けたが、いったい何が起こったのかまで、正確には理解していない。

 だがその力が桁違いである、ということは理解していた。


「ラスプーチンにとってこの事件での「神の子」の力は、より魅力的に映ったということだ。そして、奴の計画が実行された。

 あの計画は、もし私一人であれば非常に厄介だった。最悪、この騎士魔導士学校そのものを消し去るくらいの決断を迫られるとこだったよ。それが皆の協力の下、何とか最悪の手段を取らずに済んだ。罪なくして死んだ者も多いので、こういうことを口にするのもどうかとは思うんだが。」


 そこで一息ついて、ディッセンドルフがこの場にいる皆に向かい頭を下げた。


「ありがとう。君たちなら、私がいなくなった後も安心してこの学校、そしてこの国、世界を託すことが出来る。」


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