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「神の子」  作者: 新竹芳
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第46話 「闇の王」

 セノビックは、どんどん小さくなるフローラがこのままこの世から消える光景が見えていた。


 際限なく「神の子」の力を吸収していった結果である。


 だが、中途でその状況が変われば、幼子だけが取り残される未来も見えていた。


 その考察がディッセンドルフと共有され、ディッセンドルフの号令の下、その幼子の奪取がディッセンドルフの女騎士、アルテミスに託されたのだ。


 アルテミスは【言霊】持ちではない。

 だが、その努力で今の剣技を自らのものにした。

 魔導力も弱いなりに、その使い方を十分理解していた。


 今回、アルテミスはその魔導力をすべて足に使っている。

 この命令に剣は必要ない。ただスピードが必要だった。


 ドレスから空中に引き上げられた赤ん坊。

 アルテミス・ダナウェイは泥地を駆け抜け、飛び上がった。

 自らの魔導剣には、「神の子」の力が既に仕込まれている。

 その剣を閃かせる。


 国家騎士団上級の騎士の剣の威力をあっさり上回り、干からびた蔦のような赤ん坊の左腕が綺麗に切断する。

 そのまま空中で赤ん坊をキャッチ。

 黒い目をしたナターシャが動くよりも早く、さらに加速し、この戦場を駆け抜けた。


 追ってくる気配はない。


 さらに駆け、オオジコバとフォルテのもとへ。


「アルテミス卿‼よくやった!さすが国家騎士団のあばれう、っ!」


 いきなりオオジコバの顎に綺麗にアッパーカットが決まった。

 倒れるオオジコバを赤ん坊を左手に抱えたアルテミスが怒りの瞳で見下ろしていた。


「その二つ名、絶対に言うでないぞ、オオジコバ卿。」


 あまりの形相に、そばにいたフォルテも恐怖で体を動かせずにいた。


「わかった、すまない。」


 泥まみれになったオオジコバが、何とかそういうと、赤毛の女騎士は「フン!」と言って、赤ん坊を抱き直した。


 朽ちていく左腕に痛みがあるのか、赤ん坊が大きな声で何出した。


 立ち上がったオオジコバが赤ん坊に近寄り、右手を赤ん坊の左腕にかざした。

 柔らかい光が溢れ、そこに小さな左腕が再生された。


「おぎゃあ、おぎゃあ、ああ、ヒック。」


 泣き止んだ赤ん坊をアルテミスは、いたわりながら抱きしめた。


 オオジコバは、さっき見ていたフローラの右腕に現れたウロボロスの印が、赤ん坊からはなかったことを確認した。

 ディッセンドルフの術が見事に浄化を果たしていることを、嬉しく思った。


 アルテミスもまたその右腕を確認した。

 もう一度優しく赤ん坊を抱きしめながら、今駆け抜けてきた場所に目を移す。

 明らかにその体が大きくなったナターシャの背中越し、自分が仕える「神の子」ディッセンドルフの顔が不敵に笑っている姿をはっきりと捉えた。


 自分の護るべきその体には、微塵の不安もないように見える。

 そのことに、背筋に戦慄を覚え、アルテミスは自分の胸に眠った赤ん坊をもう一度、優しく抱きしめた。




 今、ナターシャの身体を支配しているモノ、自らを「闇の王」と呼称するそのモノは、今までにないほどの力に、恍惚の笑みを浮かべていた。


 今まで、極力「神の子」の前に姿を晒さないように気を使ってきた。

 だからこそ、このナターシャの心の闇にその体を隠し、ナターシャとの一体化も図らずに来たのだ。


 何故か?


 答えは非常にシンプルであった。

 恐怖である。


 「神の子」にこの敵意を見抜かれれば、すぐにでもこの体、正確には人に寄生して生き続けた精神体は、一瞬で消されてしまう。

 それほどにこの「神の子」のパワーは強大であった。


 「闇の王」自身、自分の力には傲慢なほどの自信があった。


 その体を失ってからも、多くの者どもを従え、殺戮の限りを果たしてきた。


 すでに自分の出自も覚えてはいない。

 授かった「神の言葉」は「心の海」であった。


 全くその意味を解することはできなかったが、力の意味は分かった。

 人心操縦術。

 人の心を自在に操る力。

 この力を他人に知られることの危険性は十分理解し、うまく立ち回った。


 結果的には「神の言葉」教において、司祭の地位を手に入れた。

 人のためになろうと思ったことは一度たりともなかった。

 だが、そのような振りはした。

 そのころから、欲望はさらに大きく深くなった。

 自分の力は高潔な心の物には全く通じない、という事は解ってきたが、自分と同じように欲にまみれた人間には効果覿面であった。


 さらに強い意志を持つ者には通じないこの力も、少しの隙があれば潜り込み、完全ではなくとも自分の望む方向に向かわせることはできた。


 金も女も、そして権力も自分の思うように扱えると自負していた。

 そして更なる巨大な権力、法王の地位が目前のところまで来た、そう思ったときに、足元をすくわれた。


 気が大きくなると、足元が見えなくなる。

 それを痛感した。

 自分から見れば雑魚の奴隷の女。

 痛めつけ、犯し続け、そうされることを喜びとしている、卑しい女だった。

 だが、それは擬態であった。


 強い意志の物に自分の力は届かない。


 自分を貶めることだけを考えた女にも通じなかった。


 自分の今まで行ったって来たことを法王に告発した。

 法王は「真理」と「誠の行い」の二つの「神の言葉」を持っていた。

 法王となることを「神の言葉」に認められると「真理」の「神の言葉」が付与されるという噂は耳にしていた。


 その力は、奴隷の少女を偽っていた法王の孫娘の言葉を真実であると認めたのだ。


 自分は「神に言葉」教に追われ、最終的に「真実の刃」という「神に言葉」持ちの司教により、肉体を奪われた。

 だが、自分はその精神体を、自分の討伐隊に加わった、神聖騎士の一人の心の闇に逃げ込み、法国軍の追撃を躱した。


 暫くはその姿を見せずにやり過ごし、この男が一時的に故郷に帰った時、この男の美しい妻を見て、体を奪った。

 この時に男の能力を吸収できた。

 妻を犯して殺し、法国の手の届かないところまで逃げおおせた。


 幾度かの乗り移りを繰り返し、自分の力は強力になった。


 その頃には法王にはなれなかったが、この世界の王になれるのではないかと思った。


 それには数多くいる「言葉」持ちが邪魔だった。


 ランス帝国の大臣の一人に乗り移った。

 この男の魔導力は大したことは無かったが、金、女、酒、権力にとどまることのない欲望を持っていた。

 非常に相性が良かった。


 その地位を利用し、さんざん美女を誑かし、または脅迫して犯し続け、財産を持つ魔導士や、聖騎士のを葬り、その財産を横領した。

 金が集まれば、さらに権力基盤が万全となる。


 さらに邪魔者の「言葉」持ちを排除するための噂の流布を開始した。


「「言葉」持ちは悪魔だ。その力で善人たちの財産を横取りし、その美しい妻子を犯し、反対する者、または娯楽で殺していく。」


 全くよく言ったものだ。

 自分が今までやっていたことを、「言葉」持ちの魔導士や、魔導力の強い権力者に転嫁に成功した。

 なぜなら、今自分が憑依している人物の魔導力は極めて弱かったのだ。


 その結果は歴史が示している。


 「悪魔狩り」に発展した。


 最終的に自分が憑依していたその男は殺され、俺はまた別の強欲の男、ランス帝国皇帝の側近に取りついた。

 皇帝を焚きつけ、魔導士の確保という名目で、自分を追放したロメン法国に復讐を果たそうとした。

 これはものの見事に失敗した。

 それほどまでに「言葉」持ちの力は強かった。

 だが、自分はさらに多くの「言葉」持ちの力を吸収できたので、悔しくはなかった。


 このころから、負けたり失敗して復讐心を持つ者を憑依せずに心に囁き、自分の思うままに操れるようになっていた。

 ランス帝国があっさりレオパルド連邦に統合された。

 その混乱に乗じ、多くの聖騎士や、魔導士に多くの囁きを施した。


 自分は大陸で自分を信奉する勢力を増やしつつ、島国をも自分の影響下に入れるために、レベッカ海峡を渡った。


 大陸側は、ジョバンニュ・クリミアン連合国への侵攻に失敗し、手痛い思いをしたことにより敵対をせず、ともに協力する道を選んだようだが、この国は大陸側とは異なり、「言葉」持ち、この国では【言霊】持ちが多くいた。


 自分はその力をさらに吸収するべく、挫折した者どもを臣下に入れる努力をした。


 そのころから自分は「闇の王」と呼ばれ始めた。

 さらに「我が主」と呼ぶものが出てきた。

 欲望を持つ者だけでなく、人生に絶望を感じていた者共も、そこに偽の光を見せ、自分を、この「闇の王」を、信じるように仕向けてきた。


 その者の中には蛇が自分の尻尾を飲み込んだ図、ウロボロスの印をその体のどこかに発現させるようになってきた。

 これは「闇の王」に絶対の服従を誓う証拠でもあった。


 だが、その印も10以上になると、初期の者が消えていくこともわかってきた。


 自分の力がどこまで使えるか、試すことにした。


 マルヌク村はその条件に非常にマッチしていた。


 比較的外部との交流が少なく、「神の子」の誕生により、その実の両親に権力が集まり始めていた。

 ここで、酒と魔導薬を使い、村人たちを自分の思い通りにうごかせるかどうかみてみようとした。


 8割がたは成功した。

 だが、そこに異分子が侵入した。


 トツネルド・メビウス。

 憑依していた騎士の同僚でしかなかったはずだ。

 国家騎士団から追放され、傭兵に身を落とした男。

 ジェイコブの友人でもあった男だった。

 そんな世の中を逆恨みしていそうな男だったから、マルヌク村の護衛という仕事を餌に誘ったはずだった。


 だが、奴の中の強力な魔導を持つ存在が巣食っていやがった。


 さらに、酒と魔導薬で欲望に素直になっていた奴らを、操るために、自分の一部を薄く大気中にばらまいたのだが、その行為が失敗だった。

 「闇の王」の一部を欲望に膨れ上がった者どもに喰らわせることにより、効率よく、「闇の王」の軍団を作れると踏んだのだが…。


 結果的には、欲望をさらに増大させ、無秩序の空間を作ったに過ぎなかった。


 村人のほとんどが、「神の子」を得た事によって一気に金持ちになったアンダストンに対して、羨望と憎悪、殺意すら持っていた。

 「闇の王」の一部を取り込んだ村人は欲望の赴くままに行動し、最後には殺し合いとなった。

 やはり操れるのは10人前後という事を確認したのみであった。


 しかし、その「闇の王」の力を拒否した奴らがいた。


 国家騎士団からマルヌク村に派遣されてきた騎士、キレヒガラ・ディグ。

 子供のナターシャ。

 奴隷のバネッサ。

 だが一番腑に落ちない男がいた。

 トツネルド・メビウス。

 こ奴は真っ先に闇に落ちるはずだった。

 強力な力を有したものがその奥底に佇み、この村での状況を観察していた。


 今ならそいつが誰だかはっきりとわかる。


 「神の子」ディッセンドルフ。


 一体どのような魔法を使えば騎士魔導士学校にいるはずの「神の子」がこの男の心に潜むことができたのか?


 この男と、奴隷の女、騎士により、ジェイコブの身体は破壊されたが、ナターシャの心の闇に憑依することはできた。

 そして、この幼女を守るために死んだ騎士、キレヒガラ・ディグを操ることにも成功し、ハーマス交易商会のサーシャネルを完全に支配下に置けた。

 そこからカーサライト子爵の強欲たちをも取り込めた。


 すでに「闇の王」という呼称を使い、われに従うものを集めた。


 大陸の方にも打っていた手が動き始め、革命一歩手前まで持ち込めていた。


 レオパルド連邦に革命を起こし、我が手中に収める。

 さらにこのジョバンニュ・クリミアン連合王国に戦争を仕掛け、この一帯をまず「闇の王」の支配下にしようとした。


 だが、やはり「神の子」に阻まれた。

 しかも、想像もつかない力で。


 「神の子」の大いなる力。

 これは非常に魅力的だ。


 既にナターシャの心の奥に息をひそめていた。


 絶大な力を持つ「神の子」に見つかれば、瞬時に消されることは容易に想像できた。


 マルヌク村での「神の子」の力には制限が掛かっていたように思う。


 そのため、細心の準備を行い、この決戦の場にいる。


 何か所かで事を起こし、注意を散らし、友人を人質にした。


 各所で起こした騒動は、しかし次々と抑えられていったが、その間にディッセンドルフに少なくない隙を作ることが出来た。

 ザスルバシが、フローラが、サーシャネルが、ハゼロウが、「神の子」の力を削いでくれた。


 そしてフローラが奪った「神の子」の力は我、「闇の王」の力を自分でも分かるほどに増大させた。

 と同時に、フローラがその力の吸収に限界があり、急激な若返りを招いたのもこの目の前で見せつけられた。


 「神の子」の力を得るには、その器であるディッセンドルフを奪わなければならない。


 目の前にその器があった。


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