第39話 フォルテ・テンショウメイ・ゴルネイエフ
怒りをあらわにし、国家騎士団の騎士を排除して、決闘場に向かう。
しばしの間、あの狭い空間にいたストレスは非常に大きかった。
が、それが怒りの演技に信憑性をもたらしたと思った。
すぐにでも主のもとに向かいたかった。
ジルベル・フォン・カーサライトは自分の側近であるバートリー・エルジェーベトと共に風雨の酷くなっている屋外に出る。
その二人を守るようによく似た美貌を持つ銀髪の魔導士が前と後ろにつく。
雨が酷いこともあり、身に纏う魔導士特有のオーブのフードを被り、その特徴的な銀髪を隠し、美貌の生気のない顔をも隠す。
その4人の前にくすんだ赤い髪の毛が雨に濡れた女性が立っていた。
その女性は騎士が一般的に用いる剣、ロングソードを携帯していた。
が、防具は心臓を守るためだけの胸当てを付けているだけだった。
腰には短剣であるダガーが吊られていた。
明らかに速度重視のそのスタイルにバートリーは見覚えがあった。
スサノ・テンショウメイ。
自分が奸計を用い、その命を奪った騎士。
そのずぶ濡れの赤い髪もまた、その騎士を思い出すが、そこに立っているのは女性である。
ロングソードを持っていることから剣士であることは想像できるが、この騎士魔導士学校の警備にあたる騎士は、自分のような軽装備の甲冑か、フル装備の甲冑を着ている。
警備の騎士ではないわけか。
だが我々に対して立ち止まったまま。
何者か?
バートリー、そしてジルベルもそこに佇む女剣士を睨みつけた。
「そこの者、何をしているのか!カーサライト子爵様がその令嬢たるナターシャ・ジェルネンコ・カーサライトの命を賭けた決闘の場に向かう途中だ!道を開けよ!」
「見つけた…。」
その女性は、ボソッと呟いた。
その言葉と同時に、雨音が消えた。
「何が起こった?」
3人に守られているジルベルが驚愕を言葉にした。
「おそらくですが、自分の闘気に強力な魔導をのせて半結界を形成させたと思われます。」
バートリーがジルベルにそう説明した時だった。
距離が一気になくなる。
女剣士のロングソードが薙ぎ払われた。
二人の魔導士が左右に分かれ、バートリーの剣が女剣士のロングソードを弾きながら後方に跳ぶ。
ジルベルを庇う位置に瞬時に移動した。
「テロリストの一味…、ではないか。であれば我々を狙う訳がない。」
「子爵様、あまりそのようなことは…。」
赤い髪の女剣士、フォルテの耳にその小声が伝わる。
「やはり、ディッセンドルフ様の言っていたことは事実でしたか。」
フォルテはそう呟くと顔を上げ、ジルベルとバートリーに強い意志の籠った視線を向けた。
その碧い双眸が憎しみの炎と共に二人に対する強い意志を明示していた。
「ああ、その薄気味悪い目には覚えがあるよ。貴様、スサノ・テンショウメイの娘か。」
ジルベルの声がフォルテの耳に届いた刹那、フォルテの体内に無数の魔導力の干渉を感じた。
魔導戦の初期戦術である、体内破壊。
相手の身体を破壊できれば、それが末端でも、戦力は激減する。
ではあるが、初期にお互い掛け合う事からも解るように、魔導士、魔術師と呼ばれるものたちはその戦闘を念頭に置き無効化するのが常であった。
フォルテは剣士として、修行をしていた。
だが、メビウスに買われ、バネッサに会ってから、魔術の力を上げてきた。
ゴルネイエフ家に養子として引き取られ、オオジコバにさらに魔導力の底上げを受け、昨日「神の子」ディッセンドルフに巡り合い、過去最高の魔導力を手に入れた。
体内に対する魔導力は反射的に無効化した。
バートリーが後退するのに呼応するように、二人の魔導士が接近してきた。
体に外部からの衝撃が来た。
攻撃魔術を変えてきたことをフォルテはすぐに察した。
ロングソードを盾代わりに防御した。背の低い魔導士がフォルテの下半身に向かい右手を伸ばす。
と感じたときにはその手が細長い槍に変貌し、太ももに突き刺さそうとしてきた。
腰に吊るしていたダガーを左手で抜き、その槍に対応、掬うようにダガーを動かし、魔導士の槍を弾き顔面をも切り裂くように動かす。
さすがにフォルテの動きの意図を正確に読み取ったその魔導士は、体を起こしてバック宙し、回避した。
その拍子に目深にかぶっていたフードが外れ、雨に濡れて妖しく光る銀髪が広がるように露になった。
そして、フォルテと同じ色ではあるが生気のない碧い瞳が、フォルテを見つめる。
その顔を見て動作の止まったフォルテに、もう一人の痩せた背の高い魔導士が何もない空間を右手で薙ぐ。
その動きからコンマ数秒遅れて光が現れ、半月のようなその光がフォルテ目掛けて飛翔する。
何かに気付いたフォルテは、その半月光を潜り抜け、背の高い魔導士の脇を抜けた。
その抜ける刹那、ダガーを揮う。
その魔導士は弾かれるようにそのダガーから体をよけた。
しかし、フォルテの狙いは魔導士の殺傷ではなかった。
背の高い魔導士のフードのみが切られた。そこに先程の魔導士と同じ銀髪が拡がった。
生気のない瞳の色は父と同じダークブラウン。
その顔を見て、フォルテの中に、歓喜と絶望が渦巻いた。
「お母さま……、ピアニッシモお姉さま……。」
生きていてくれたことは嬉しい。
しかし二人とも、先ほどからの魔導戦が出来るほどの魔導力はなかったはずだった。
さらにその美貌には一切生気を感じられない。
フォルテとの再会は、かれこれ8年になる。
10歳の時の自分しか知らなければ、二人がフォルテと分からないのもやむを得ない。
だが、自分が掛けた言葉にも一切反応を示さない二人に対して、絶望が心を支配してくる。
「死霊使い」。
すでに死んでいる二人を魔術で意のままに操る禁断の魔法。
人と死者に対する冒涜の術。
「はッ、やはりあのクソ騎士、スサノ・テンショウメイの娘、フォルテ・テンショウメイであったか。」
二人の女性魔導士と一人の騎士に守られた、小太りの男、ジルベル・フォン・カーサライトが尊大な態度でフォルテの父を貶すように頷いた。
「せっかく命だけは助けてやったのに、その恩を忘れ、このわしを襲うとはいい度胸だ。その礼に、お前の母と姉の真なる姿を見せてやる。セレナーデ!ピアニッシモ!その魔導衣を脱いでお前たちの姿を愚かなその小娘に見せてやれ!」
二人の魔導士は立ち上がり、バートリーの前に歩んできた。
そしてフォルテを何の心の機微を見せない瞳で見ながら、身体を隠しているオーブをするりと脱いだ。
そこには一糸まとわぬ姿があった。
背の低いフォルテの母、セレナーデの胸の方が幾分大きく、その先がこげ茶であること。
背の高い姉のピアニッシモの腰の括れがより細く、胸の頭頂部が桜色のことぐらいが違うくらいで白い肌も、股間を覆う銀の陰毛も含めて十分に美しいものであった。
しかし…。
「どうだ、フォルテ!この二人の美しさは。お前のようなうす汚れた赤髪女などには、どんなに努力しても手に入らぬものだろう。この二人は儂が精魂込めて作り上げた美術品だ。そして儂に、身も心も捧げた忠誠の僕だ。このわし自らが何度となく精を注入してやってな、ハハハハハ。」
風雨の強い中に全裸を晒す美貌の女性。
だからこそ、この光景が幻想であることをフォルテはしっかりと認識していた。
今の二人のあでやかな銀髪は、この風に一切揺らめいてはいなかった。
その肌には一滴もの雨水が降ることはなかった。
そう、これは魔導による幻想でしかなかった。
「二人を連れてきて正解であったな、バードリー。主のお言葉にはいつも驚かされるぞ。」
「誠に閣下の申す通りですな。テンショウメイの娘が生きて我らを襲ってくるなど、誰が想像できましょうか。」
ジルベルとバートリーが笑みを浮かべ、フォルテを見た。
「ここで涙の再会もできたわけだ、フォルテ・テンショウメイ。お前も、まあ我々の力があれば多少は美しくなるであろう。我々に剣を向けたことは不問にしてやる。母と姉と一緒に来るといい。」
世にも悍ましい甘言をジルベルはフォルテに言い放った。
ディッセンドルフの思念波が経由して、セノビックの「正義の目」がフォルテに発動していることを二人は知る由もなかった。
「旦那様の素晴らしいご提案よ、フォルテ。一緒にいらっしゃい。」
母のセレナーデもどきが言う。
「そうよ、フォルテ。ジルベル様もバートリーさまも優しい紳士よ。あなたの知らない気持ちいいことを、きっと一杯教えて下さるに違いないわ。」
姉だったピアニッシモが右手を差し出し、フォルテの手を取ろうとした。
フォルテはその右手の二の腕に着くような豊満な胸がかすれて消えていき、切り取られたような胸の傷が見えていた。
二人が自分に向けて発した声とは別の心の声が胸に届いていた。
「フォルテ、逃げて‼」
二人の心の声は、その言葉を繰り返し吐いていた。
そう、母も姉も死んではいなかった。
だが、死の一歩手前で意識は繋ぎ止められており、そのボロボロの身体は魔導力により何者かに操られ、体の痛ましい数の傷も見えないようにされている。
きっと、この裸の上にオーブ1枚という姿も、何時でもこのケダモノの男たちの慰み者にされるためであろう。
既に二人とも魂は天に帰っているのであれば、話は簡単であった。
この操り人形を瞬時に破壊し、家族の仇を討つだけだったのだから。
だが母、セレナーデ・テンショウメイも、姉、ピアニッシモ・テンショウメイも生きている!
綺麗に見える母の裸体は、左胸を火棒のようなもので焼かれ、陰毛も焼かれ、右目は潰され、腹に「ジルベル」という焼き印を押されている。
数か所に打撲による痣があり、鼻骨がおられていた。
そして男の性器をしゃぶらせられるためであろう、歯が全て抜かれていた。
さらに子宮も破壊されていた。
姉の身体も母と大差の無いいたぶられようであった。
特に左の胸を剣で切断されているような傷跡が、女性である自分をも戦慄させられた。
逃げられないようにするためなのか、右足の足首から下はなかった。
魔導の力で、そこに足があるように形作られ、歩けるようにされているようだった。
既に二人とも操り人形の状態であるため、逃げられない状況は続き、性玩具にされるときだけ、その感情を出させられることは、フォルテにも容易に想像できた。
この二人だけなのか、さらに何人ものケダモノが母と姉を人間の尊厳を踏みにじっているのかはわからない。
だが、確実にジルベル・フォン・カーサライトとバートリー・エルジェーベトが主犯であることは間違いなかった。
だが、どうすればいい?
フォルテに迷いが出た。
まだ生きている母と姉に剣を向けることが出来ない。
「その反抗的な目、お父様のようで腹立たしいわ。貴方はいつもお父様に可愛がられて、私は放っておかれた。しかも無謀にもバートリー様に決闘を申し込んで無様に殺された。姉妹のよしみで誘ってあげたのに、相変わらずひどい子だわ。」
ピアニッシモもどきが言う。
「本当ね。私は嫌々あんな才能も金もない男の所に嫁いだ。でも、今はジルベル様に愛されて幸せだわ。そんなことも解らないバカな娘は、ここで死ぬがいいわ。」
母もどきが何かを言っている。
母の美しさに惚れ、何とか自分の物にしようとしたジルベルが自分の騎士同士の決闘を申し込んだ。
さらに姉のピアニッシモを誘拐し、父のスサノに負けるように脅迫。
負けた場合の約束を反故にして、父を惨殺。
母と姉を凌辱。
さらにフォルテを奴隷商に売り飛ばしたケダモノたち。
母と姉に言わせたことは、自分たちの犯した罪を隠匿し、上書きしたものだ。
二人の言葉の裏から、二人の魂の言葉がフォルテの胸を打つ。
「私たちを殺して!天に返して!」
裸の女性が二人、フォルテに迫る。
「死になさい、フォルテ。」
「そうですね、お母様。私たちが殺してあげる。」
魔導を込めた両手をかざし、セレナーデとピアニッシモがゆっくりとフォルテに近づいて来た。
殺せ、ない。
フォルテが片膝をつき、顔をうなだれた。
二人を前に、纏っていた闘気が失せた。
この場を覆っていた半結界が崩れた瞬間だった。
消えたはずの闘気がこの一帯の空気を震わせた。
フォルテが驚き、前を見た時だった。
小さな、でも大きな背中がフォルテの前に出現した。
背だけで言えば、低めのフォルテよりさらに低いだろう。
頭の髪の毛は見事に白かった。
老人にしか見えない。
その両手には、その体格にはとても合わないツヴァイハンダーを、それぞれに持っている。
通常両手で使いこなすはずのこの剣を、片手で持っていることからもその力がとてつもないことが伺える。
小柄なその体は、しかし、見た目とは別に大きくフォルテは感じていた。
「よく頑張ったな、フォルテ・テンショウメイ・ゴルネイエフ。セレナーデ・テンショウメイとピアニッシモ・テンショウメイは私に任せなさい。悪いようにはしない。」
フォルテは全く見知らぬその老人の言葉を、直感で信じた。
突然現れた老人に、フォルテに迫っていた二人の足が止まった。
「マンチェス・インデルマン卿!何故、ここに‼」
現れた老人に、バートリーが叫んだ。
「親切な若者がワイに教えてくれたわ。このうつけもんが!ワイの無責任さを痛感させられたわ。恥ずかしゅうて、そのもんには、ただただ、謝るばかりや。今更だが、責任の幾分かを果たしに来たんだが。」
老人がバートリーに怒りをぶちまけた。
これが、かの「優剣翁」なの。
フォルテは伝聞でしか知らなかった伝説の人物の後ろ姿を見つめた。
あの父とこの卑怯者、バートリー・エルジェーベトの決闘の時には遠い国に修行に行っていたと聞いていた。
「ふん、インデルマン。時代はすでに変わったということが分からんらしいな。まあいい。ここで朽ちるのもお前の運命だ。行け、セレナーデ、ピアニッシモ、バートリー。」
「老いぼれはさっさと引退すればよいものを。」
バートリーが剣を抜いた。
「おっと、勘違いすんなや、ばかどもが!お前たちには、フォルテが相手をするさ。仇討ちだかんな。ワイはその環境を整えるだけさ。」
言うと同時にインデルマンの足がセレナーデの腹に食い込み、ピアニッシモの肩にツヴァイハンダーを突き刺し、そのまま地に突き刺す。
腹を蹴られたセレナーデはそのまま突っ伏し、その肩に残った剣を同様に突き刺した。
「なにを!」
フォルテの声に冷酷な表情で返す。
「分かってるだろう、フォルテ・テンショウメイ!既にこの二人の身体が、酷い状態だという事を。せめて、お前の仇討ちを見届けさせろ。」
インデルマンの言葉に地面に縫い付けられている二人を見たフォルテは、心のスイッチを切り替えた。
そう、二人にはせめて、自分たちに地獄を見せた相手に対する復讐を見せる事。
それこそが今やるべきこと。
マンチェス・インデルマン卿が姿を現さなければ、こんなことも考えあられずに、殺されていたに違いない。
ロングソードを右手に、ダガーを左手に構え直し、その鋭い眼差しをバートリー、そしてジルベルに向けた。
バートリーは剣を構えた瞬間、胸当てに巨大なハンマーがぶつけられたような衝撃を受けた。
さらにバートリーはぬかるんだ土に足を取られた。
背中から斃れ、すぐに太ももをフォルテのロングソードが貫いた。
一瞬の事だった。
バートリーが太ももの激痛に立ち上がろうとしたところを、ダガーが左目を貫いた。
これは母、セレナーデが目を潰されたことに対する恨みだった。
倒れているバードリーの握っている剣を奪い、高々と振り上げ、胸目掛けて突き刺した。
フォルテの魔導力を込めたその剣は甲冑を易々と貫き、心臓を貫いた。
その圧倒的な戦闘力の差に、普段子爵として尊大に振舞っていたジルベルは腰を抜かして、泥だらけの地面に尻もちをついていた。
フォルテは太ももを刺していたロングソードを抜き、目を貫いていたダガーを抜き取る。
その2か所から血が溢れた。
「自分の弟子だが、闇の力に落ちた者の不甲斐なさに呆れるわ、こやつ。」
インデルマンが、瞬時に終わった戦いに感想を漏らす。
「つうより、「神の子」の力が絶大だっちゅうことやな。いや、そもそもの修行における真面目さ故、なのだろうな。なあ、ジルベル!」
まるで死神がディスサイズを構えて向かってくるような眼をフォルテに向けているジルベルは、何とかその死の手から逃れるべく、懸命に泥だらけになりながら這いつくばっていた。
「そんなバカな!そんなバカな!そんなバカな!そんなバカな!俺たちは主から特別な「力」を与えられていたはずだ。こんなことが起こる筈がない。おれはえらばれたものなんだぞ!そんなバカな!」
「お前の祖父、ヴ―ストリア殿も父、ガウェインも素晴らしい当主であった。その子孫でさらにワイの弟子なのにな。何を間違えてしまったのか…。人の妻に横恋慕した挙句、もう一人のワイの弟子を誑かせて、その娘を誘拐。脅迫して、子爵の面子が立てばよいなどと甘言を弄し、完全に約束を破った。フォルテ卿の母姉を凌辱の限りを尽くした。しかも奴隷として売り払ったフォルテ卿の命を盾に自死すら許さなかった。」
インデルマンの過去の暴露に、青い顔をしたジルベルはその自重故、動けなくなった体で荒い息をついていた。
おかしい。
主の力でこの体重でも騎士以上の力を出せたはずなのに。
ジルベルは自分の身体に起っていることが理解できずにいた。
「その「主」とやらから、力を貰ったんやな、ジルベル。それが永劫に続くとでも、思ったんか?そいつは自分のエゴのために、他の者なんぞ、どうでもいい、思ってるちゅう風には思わんのかの。」
驚きの顔と同時に、何故か納得しているような眼をしていた。
「そうゆうこっちゃ。見捨てられたんよ、お前さん。」
起き上がろうとしていた力が抜けていくのがインデルマンにもわかった。
「ナターシャが来たころか、その「主」が来たんも。」
ジルベルが目を逸らした。
「そうか、やはり、そうか。それが分かっていれば…。ディグ卿も既にあの時には死んでいたという事か。」
ハーマス交易情報商会の令嬢、サーシャネル・ハーマスが連れてきた騎士と幼女。
その後の領内の雰囲気。
だが、すでに自分が帰国した時の屋敷内の雰囲気の違いに比べてはかすかだったことと、それを放置した自分の罪だ。
ナターシャの無謀とも思える「神の子」への決闘の申し込み。
すべてが一つの真実に繋がっていくきっかけは、「神の子」ディッセンドルフの無礼な接触からだった。
倒れているジルベルに近づいていくフォルテを見守る。
インデルマンの騎士の勘が、よからぬことが起きることを告げていた。
憎しみに満ちた紺碧の双眸をジルベルに向け、剣を振りかざした。
その醜い顔面に剣を振り下ろした。
カエルを踏んづけたような悲鳴と同時に血飛沫が上がった。
終わった。
フォルテがそう思った時だった。
血しぶきをあげていたはずの顔面から、黒い霧が湧いてきた。
その霧はバードリーの傷口からも上がり、フォルテに襲い掛かってきた。
「これか!」
インデルマンが跳躍し、フォルテの前に立つ。
二つのツヴァイハンダーをクロスさせ、迫りくる黒い霧状からフォルテを守ろうとした。
フォルテにも聞こえないほどの小声で、一言詠唱する。
微かに輝くツヴァイハンダーと黒い霧が接触した。
ドゴォン!
大音響が周囲に鳴り響いた。




