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「神の子」  作者: 新竹芳
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第37話 首相官邸

 首相官邸。


 今そこには、心神喪失状態のヘンナベルク・アントロング首相と、この国の国王マーベル・レジェ・ルツベル・クリミアンⅢ世がベッドに横たわっている。

 バスク・エリザクトは左手切断時の失血を何とか補い、今は病院に収容された。


 プロミネンスとウエストは別室で待機していた。

 そこにワクナ・ザートが隣にいる赤い髪の国家騎士団の制服に身を包んだ女性に労わられていた。

 マルチナ・アージャル少佐と名乗った赤髪の女性騎士がプロミネンスたちの危機を救った。


 ウエストの「人血影身」がフローラの対抗魔術で閃光を発した瞬間、床に穴を穿ち、6人を階下に移動、そこにニシムロが待っており、そのままこの官邸に空間転移していた。


「ニシムロ准士官殿。初めてお目にかかります。国家騎士団教導部に所属するマルチナ・アージャルです。肩書は少佐となっておりますが、ニシムロ殿には関係のないことですね。」


「うん、まあ、な。俺は傭兵でしかない。俺が認めて上官の命令しか聞く気がなってのは事実だが…。君がトツネルド・メビウス卿を告発した張本人だな。」


 その一言にマルチナの身体が強張った。

 その顔は悔恨と動揺が入り混じった極め柄不可思議な顔をしていた。


「何故、それを…。た、確かに、私は元陸軍幕僚本部武器関連管理長のヤーコイブ・ダグラスを武器横領の罪で告発しました。しかし、メビウス元少尉を告発したつもりはありませんでした。」


 声は強張り、言葉を紡ぐのにも苦労しているようには見えたが、しっかりとそう言い切った。


 ニシムロはそんなマルチナに優しい笑顔を向けた。


「うん、知っている。君が、メビウス卿を尊敬していたこともな。君は目をかけて君を育てていたメビウス卿の境遇に不満を募らせていた。それほどの実力を持っていたのに、上官のダグラスにいいように使われているのが、訳が分からなかった。」


 既にこの事は、ディッセンドルフから聞かされていた。


 「神の子」ディッセンドルフはわずかなメビウスの血液を通じ、過去に戻って干渉を行った。

 その世界でディッセンドルフは巡り合った人々の記憶をかなり探っていた。

 干渉できるときは全く遠慮なく、力を使っていた。

 だが、メビウスの血液を介しての干渉には限界があった。

 そう、「マルヌク村の惨劇」を止めることも、その首謀者を完全に無力化することもできなかった。

 さらに一人残ったナターシャを「死神」と呼ばれることを防ぐこともできなかったわけだが…。


 そして、ディッセンドルフはこのニシムロには珍しく完璧な信頼を置いていた。


 「守護者」の【言霊】持ちのバスラ・ニシムロという名が偽名であることもディッセンドルフは知っていた。

 それでも、この男が自分と最終の地に共に向かう事も疑っていなかった。


「ニシムロ殿の言う通りです。ダグラスの手伝いをしてることは解っていましたが、メビウス卿は雑用をやらされていたようなもの。多少の罰は受けるにしろ、将官の命令を拒める立場ではなかった。だから…。」


「まさか、除隊させられるとは思わなかった、という事か。」


 その言葉に頷く。


「ダグラスはメビウス卿にとっては恩ある人物だったようです。そこまで、私は思い至ることが出来ませんでした。単純に嫌なことを押し付けられ、唯々諾々と従っているものと…。」


「らしいな、キレヒガラ・ディグ卿もメビウス卿がマルチナ・アージャルを恨んでいたと聞いたらしいから。」


 その言葉に一瞬胸を握りつぶすような動きをした後、何かに気付いたようにニシムロに視線を向ける。


「ニシムロ殿はディグのこともご存じなんですか?いや、それよりもその二人のやり取りを何故、知っておられるのですか?」


 二人の会話はマルヌク村で行われたものである。

 そのことを知るものは、今は誰もいない。

 内容もさることながら、二人が会っているという事実を、一体だれが知っているのか?


「そうだな、君が知る由もないことだ。ディグ卿は君に大きな感謝の心を持っていた。そして君からメビウス卿のことを聞いていた。ディグ卿はメビウス卿に逢った時に、マルチナ君に対する誤解を解きたいと思っていたらしい。その前に二人とも殺された。今回の一連の襲撃を操っているものにな。」


「だから、ニシムロ殿が国家騎士団経由でこの騎士魔導士学校の警備に自分を推したのですか?」


「私というよりも、ディッセンドルフだがな。レベッカ海峡事件での奴さんの活躍は、騎士団上層部は充分解っている。彼には恩もあるし、それ以上に彼の力に恐怖も持っている。大抵のことはフリーパスでの実行に移るさ。」


 マルチナは今いる部屋にいるものの顔を見る。


 騎士魔導士学校の教官、プロミネンスとウエスト、魔法師団第3大隊副隊長ワクナ・ザート、そして伝説ともいえる【言霊】持ちの傭兵、バスラ・ニシムロ。


「にしても、外壁担当の騎士を一瞬で倒せる力、さすがだな。」


「それはすでにどの騎士が行動を起こすか分かっていたからです。情報の提供をありがとうございます。」


 そういいながら、甲冑を着ていない、野戦服の身のニシムロをもう一度見た。


「甲冑なしで、3人の息の根を止め、一人を捕虜にして情報収集。なんといっていいのか…。」


「気にすることではない。当初の計画では外の敵も俺がやる予定だったんだが、計画が狂っちまってな。だがあんたの能力が思ってた以上に高くて助かった。空間転移が出来るほどにな。」


「そんなことを私はやったことはありません。その、その「力を分ける」というものは簡単にできるものなのですか?」


 いまだ、マルチナは自分のやったことが実感を持てなかった。


「ああ、奴らの敵のやっていることだ。敵の首謀者はその力がどこまでできるか、マルヌク村で試してやがる。その結果が「マルヌク村の惨劇」ってことだ。今回は結構な数を運ばなければならなかった。俺一人では一度では無理だったんでな。特に相手は上級騎士1位のザスルバシと魔法師団の魔女と言われるフローラだったからな。それでもアナザミリー・ウエストが禁断の「人血影身」を使ってくれて目くらましができて助かった。」


「お、恐れ入ります。あれだけの力を使っても、あっさりと消されてしまいましたが…。」


「大丈夫ですよ、先生。この官邸まで跳んだので、国王も首相ももう大丈夫でしょう。プロミネンス教官もウエスト教官も、ワクナ嬢もゆっくり休んでください。」


 ニシムロの傷跡が痛ましいゴツイ顔に笑みが浮かんだ。

 その強面の顔にも関わらず、その笑顔は優しかった。


「捕虜にしたジルから、強制的に今回の目的を得た。そんなに多くのことは知らないようだったが、ディッセンドルフの予測を大きく超えることはなかったよ。とはいえ、一時的にディッセンドルフの意識が途切れて、急遽変更したとこはあったがな。」


「何が分かったんですか、その捕虜から。」


 ウエストが、その疲れ切った体を起こし、不安そうにニシムロに聞いてきた。


 渾身の力で上級1位と魔法師団最高の魔女と戦ったプロミネンスとウエストは休んでいてもらう。

 もう限界であることは、はた目からでも分かった。


 教官としての矜持を持っている。

 その眼はまだ負けていなかった。


 だが、ディッセンドルフとの約束もあった。

 この闘いが終わった後の騎士魔導士学校の立て直す人材を失う訳にはいかなかった。


「この騎士魔導士学校の入学式に国の重鎮が集まる。そこを狙って、数か所でテロを起こす。そして、警護の当たっていた上級騎士ザスルバシと魔法師団第3大隊隊長のフローラが国王と首相を確保し、この国を支配する。なんて雑な計画だったようです。」


「やっぱり、国王と首相がターゲットという事ですか?」


 マルチナが引き継ぐ。


「いや、それはダミーさ。だからジルのような信用できない奴はその程度しか情報を渡されていない。」


「な、なんでそれがダミーだと、わかるんだ?」


 プロミネンスが荒い息で苦しそうに聞いてきた。


「ディッセンドルフの予測です。実際問題として、ザスルバシとフローラは完全に無視して、ディッセンドルフとナターシャの決闘場に向かったと聞いてます。」


「そ、それは…。」


「奴らの狙いは「神の子」ディッセンドルフです。」




 フォルテ・ゴルネイエフはくすんだ赤毛をなびかせ、上級国民の保護者が避難している場所を目指していた。

 そこに目指す人物がいる。


 ゴルネイエフ家の養女となった後、フォルテは剣と魔法の研鑽を続けていた。


 ゴルネイエフ家は非常に優しくしてくれた。

 順番は逆なのだが、オオジコバは一応義弟という事になった。

 その義弟は「神殺し」などというもの騒がせな【言霊】持ちであったが、今では温和でやさしい人柄になっていた。


 フォルテはこの屋敷に来た時のオオジコバを思い出す。

 「神殺し」の【言霊】持ちとなって、さらに両親から捨てられ、このゴルネイエフ家に養子として引き取られていた。


 荒れていた。


 だが、騎士魔導士学校の入学式でかなりの騒ぎを出したと、義父から聞いていた。

 その時からオオジコバは態度が変わっていった。

 さらにレベッカ海峡事件での「神の言葉」教からの勲章はオオジコバを人格者へと変わっていった。


 そして、【言霊】持ちのオオジコバは本当に強かった。

 この強さを封じ込め、他にほとんど被害を出さずに無力化できる「神の子」にフォルテは心底驚愕した。


 フォルテはもともと実の父、ダイナシン・アル・アンダンテ男爵家の筆頭騎士、スサノ・テンショウメイに剣を習っていた。

 銀髪でお淑やかな母似の美貌の7つ年上のピアニッシモは母のセレナーデの特徴をよく継いでいた。

 スサノはフォルテの剣の才能に惚れ、自分の剣技をすべて伝える気でいた。

 その時にあの決闘が起きた。

 その時には姉のピアニッシモの行方が分からなくなり、相手の子爵の騎士と決闘になってしまった。


 フォルテが母と姉に会ったのは、父が殺され、子爵の地下牢に繋がれた時だった。


 そこに全裸にされ、欲望をたぎらせた子爵とその騎士に犯されていた。


 次の日にフォルテは背の低い醜い男に手錠と足かせをつけられたまま、地下牢を出された。


 馬車に乗らされ、その男に犯された。

 その時に自分がその男に命を助けられたことを聞かされた。

 また、父があの騎士に負かされた理由が、姉を人質に取られていたことと、自分がこの奴隷商に売られたことで、母と姉が自分の命のために自死も許されず、あの屋敷の男どもの性奴隷となることを認めたことも聞かされた。


 しばらくはその奴隷商と行動を共にし、夜には抱かれた。

 フォルテは売り物でもあったのだが、年齢が若すぎたため、その性癖のあるものに巡り合えず、売られることがなかった。


 2年以上一緒にいた。

 そうなると奴隷商も情が湧いたのかもしれない。

 手錠も足かせも外れ、簡単な経理の仕事も手伝うようになっていた。


 その頃から、剣の練習を再開した。

 今まで2年以上使わなかった木剣の練習を奴隷商は許した。

 うまくいけば護衛としても使えると思ったのかもしれない。


 剣の練習を再開して1年、勘が戻ってきたと思った時、奴隷商から逃げ出した。


 ある意味恩もあったが、自分の肉体をいいように扱った奴隷商を許す気持ちもなかったのだ。

 当面の金も長年の給金として頂戴した。


 その結果、マルヌク村に辿り着いた。


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