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「神の子」  作者: 新竹芳
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第30話 オックスとの闘い

 姿を現したオックスを確認すると、ディグが用意していた食料をすぐに近くの倉庫の扉の向こうにしまい、防御障壁を張ったバネッサとナターシャを庇う位置に移動していた。


 その動きを確認したメビウスは、剣を振り上げて、オックスに切りかかった。


 瞬時にオックスの巨体が横にスライド。

 メビウスの剣が空を切る。


 振り切った状態のメビウスに殆どそのモーションを見せずに、オックスの右手ががら空きの左脇を襲った。


 その衝撃のまま、メビウスの身体が弾き飛ばされる。

 柱の1つにそのままぶつかった。


「俺があの程度の落とし穴で死ぬとでも思ったか?生憎だったな。今、俺の身体は力に漲っていてな。誰にも負ける気はしねえんだよ。」


 言うが早いか、ぶつかった柱に倒れている筈のメビウスに再度襲い掛かる。


 オックスの丸太のような左腕を、大きな音を立てて殴りつけた。

 が、そこにメビウスは存在せず、直接金属で補強されている柱を歪めただけであった。


「あっぶねえな、オックスよお。俺でなかったら死んでたぜ。」


 メビウスは悪態をつきながら、慎重に移動し、オックスの標的を自分に向けさせる。


 その間にバネッサがナターシャを庇いながら倉庫の前に移動する。

 その前にディグが移動。

 二人を背にし、布陣を完成。


 その形態はオックスを挟撃できる位置取りに持って行った。


「ちょこまかとしやがって。そもそも最初の一撃で何故死なないんだ。気に食わねえな。」


「お前さんの身体に力が漲ってるように、俺も何故だか覚醒したみたいでな。酒がなくてもよく動けるんだよ。」


「はっ!酔っぱらいが。あのタイミングで防御障壁が張れる腕があるとは思わなかったぜ。」


 右手の指を開いたり閉じたりしながら、メビウスとの距離を詰め始めてくる。


 オックスの接近はメビウスにも当然分かっていた。

 間合いを図りながら、剣を握りなおす。


 防御障壁である程度のオックスの攻撃は抑えられたが、完全ではなかった。

 背中を柱にぶつけて痛みがまだあった。

 だが、そんなところを目の前の悪鬼となったオックスに見せるわけにはいかない。


 後、2歩、1歩、半歩……。


 オックスの後ろの回り込んだディグが跳んだ。


 メビウスに迫ってきていたはずのオックスがその場で左方向に回転した。


 オックスの拳にカウンターを合わせようとしていたメビウスは虚を突かれ、しばし理解が追いつかなかった。


 オックスは飛び掛かってきたディグの剣を握る腕を殴りつけ、その回転を止めることなく、メビウスに向かった。


 左手に衝撃を受けたディグは、簡単に弾き飛ばされた。


 オックスがディグを殴った鈍い音に我に返ったメビウスにも、左側から衝撃を受けた。


 その衝撃に何とか耐えたメビウスであったが、さらにオックスが右の拳をくり出した。


 正確にメビウスの顔面を狙ってきた。


 咄嗟に剣で前面を庇う。

 直後、その剣に拳を受け、後方に飛ばされた。


 瞬時に挟撃を狙ったメビウスとディグの目論見は破綻した。


 完全に化け物となっていたオックスに手玉に取られている。


 ディグは甲冑の上から殴られ、左手首が完全に骨折し、激痛がディグの身体を駆け抜けた。

 治癒魔法を自分でかけるが、すぐに治るような怪我ではなかった。

 剣を右手のみで握り直し、立ち上がる。


 オックスの巨大な背中は無防備に見えた。

 だが、それが自分を誘う罠であることも解っていた。

 先の失敗がいい例だった。

 これだけでかい体を、驚くほどの俊敏さで操っている。

 ディグには勝ち筋が全く見えなかった。


 オックスと対峙するメビウスもディグと同じ心境だった。


 今の所、怪我の類はなかったが、体力的にはかなり消耗させられている。


 力だけで言えば、オックスが圧倒的に有利であるようだ。

 それは認めよう。


 だが、とメビウスは思う。

 俺にも訳の分からない強大な力がある、と。


 自分の中にある筈の誰かの力。

 それに向かい、メビウスはその力を引き出そうと目論見を始めた。


 オックスとの睨み合いをメビウスがしている間に、ディグは小声でバネッサに命じた。


「その幼子と一緒に倉庫に入ってろ。最悪でも水と食いもんがそこにはある。」


「いえ、私はご主人様と共に戦います。」


「その子はどうする気だ?」


「ではナターシャだけ、この倉庫に匿います。騎士様、ここを守ってください。」


 一瞬、苦渋に満ちた顔をディグがしたことが、バネッサにはわかった。

 ディグは、しかし、見つめるその視線の強さに諦めた。

 軽くため息をつく。

 手首の痛みが意識され、さらに顔が歪むのが自分でも分かった。


「分かった。その子を倉庫に入れ、扉をしっかり閉めてくれ。ここは確かに、俺が守る。」


「ナターシャ、いい?私達があなたを守る。私たちがこの倉庫を開けるまで、出てきちゃだめよ。」


「うん、わかった。絶対、死なないでね。」


「約束するわ。」


 バネッサはそう言ってナターシャを倉庫に入れ、扉を閉めた。


「騎士様、お願いします。」


 ディグが頷く。


 バネッサは自分の周りに結界を張り、その存在を消し、速やかに移動を開始した。


 左手の痛みに耐えながら、ディグは倉庫の扉の前に移動、持っていた水を患部にかけ冷やす。

 落ちていた木材を腕から手の甲に当て、死体からはぎ取った血まみれの布をそこに巻き、応急処置をした。

 倉庫の扉の前に腰を下ろし、身体を休息させながら、魔導を患部に向けて再生治療を試みることにした。


 じっくりとそのオックスと呼ばれる怪物を見つめる。


「力だけではなく、明らかに魔導も使っているという訳だ。」


 ディグはオックスを観察し、体内に溢れる魔導力をしっかり感じていた。


 裏でこの惨劇を演出した何者かがいる。

 ディグはメビウスから聞いている裏に潜むものがどれ程の力を持っているのか?

 それを考えるだけで絶望的になる。


 それでも、このオックスを何とか退ければ、この程度の痛みなら脱出は可能なはずだ。


 ディグはまず、自分のコンディションを整えることを考えた。


 オックスの後ろでナターシャが倉庫の中に匿ったのを確認したメビウスは、目の前の怪物に集中する。


 そして見えた。


 怪物オックスの背後に大きな力を与えているのの影を…。


 オックスの握り知られた右の拳が脈打ち、さらに大きくなる。


 メビウスには、オックスがこの一撃で自分の息の根を止める気でいることを察しった。


 先の怪物の放った拳の衝撃に耐えた剣をオックスに向けた。

 こちらもできうる限りの魔導力をその剣に注ぐ。

 そして怪物の身体を、その筋肉の動きを注視する。


 タイミングを合わせて、その体を切断するために…。


 怪物の口元が笑ったかのように歪んだ。

 怪物の筋肉に動きが見えた。


 くる!


 メビウスの身体が少し沈み、その衝撃に気を集中させた。


 その瞬間、メビウスの視界をかすかな違和感が支配した。


 来る!と思った怪物の右の拳が、メビウスとは違う場所に目掛けて放たれた。


 そこの空間には何もないはず…。


 いた!

 これが違和感の正体。


 結界を張り、メビウスに近づこうとしたバネッサの左わき腹を怪物の拳が抉った。

 そのままバネッサの身体は跳ね飛ばされ、床を転がる。


 反射的に体が動いた。


 メビウスの足に込められていた力が解放され、怪物の前を疾走する。


 倒れているバネッサのもとにつき、状態を確かめようとした。


 かなりのスピードで駆け付けたはずだった。

 しかし、気付いたら怪物がすぐ横で笑っていた。


 奴の左拳がメビウスの顔面に叩きつけられた。

 そのまま転がるように怪物が入ってきた壁の穴までに至った。


 怪物は倒れているバネッサを一瞥すると、また高速でメビウスのいる場に移る。


(くっ、寸前に身体に障壁を張ったが、衝撃までは吸収できない。体がうまく動けん)


「こんなに魔導力はなかったはずだが…。ここまで俺の拳を撃たれて顔が四散しないとは…。だが、さすがにここまでだ、メビウス。お前を殺して、この村の富は全て俺のものだ。」


 口を開き下簸た笑いをする。

 既に言葉を喋る獣に他ならない。

 口からは大量のよだれが溢れている。


 ここ、までか…。


(あきらめるな!この虐殺を操ってる者の正体を見るまでは、戦え‼)


 自分でない思考がメビウスの心を動かし、振り下ろされた拳をかろうじてよける。


 なんだ、今の声は!


 メビウスは、よろけながらも立ち上がり、剣を構えた。


「まだ、戦おうというのか、メビウス。ふん、見るからによろよろじゃないか。逃げた方がいいんじゃないか?まあ、逃げれば、そこの赤髪を嬲るだけだが。まだ息はあるぜ。」


 怪物が煽ってくる。


 脚の筋肉が震える。

 それをこらえて、奴が大きく開けている口に目掛けて剣の刃を突き立てようと、一歩踏み出そうとした時だった。


 後ろから風を感じた。


 その風はメビウスの脇を掠め、怪物に襲い掛かった。


「な、に…。」


 怪物、いやオックスは茫然と、自分の左腕を見ようとしたが、そこには何もなかった。

 少し遅れて、ドサッという音が響く。


 オックスの左腕が床に落ちた音だった。


 その風がオックスの周りを駆け抜け、気が付いたらメビウスの左脇に見知った人物が立っていた。


「ジェイ、コブ、か?」


「はあ~、こんだけでかいと、さすがに腕みたいに切断って訳にはいかねえか…。」


 何とか足の震えが収まってきたメビウスは横に立つ人物に視線を向けた。


「派手にやられてたな、トツネルド!全く、お前ならこんな奴、さっさと片付けてくれると思って隠れてたのによお。」


 風を纏って現れた男、ジェイコブ・ヨハンソンがメビウスに愚痴をこぼしてきた。


「ジェイコブか、今頃…。」


「助けてやったんだから、感謝ぐらいしろよ、な!」


 背中を深々と切られながらも、オックスは立ち続け、メビウスとジェイコブに激しい憎しみの視線をぶつけてきた。


「こいつ、オックスか?」


 ジェイコブがメビウスに聞いてきた。


「ああ、そうだ。この化け物の姿から、よくわかったな。」


「お前に対する喋り方でな、そうかな、と。」


 残っている右腕を振り上げる。


「ゆる、さん!」


 ついさっきまでとは明らかに力のなくなっているオックスの右腕を振り下ろしてきた。


 ジェイコブが軽やかにオックスよりも高く飛び上がり、持っていた剣をオックスの力のない右腕も切り落とす。

 ジェイコブは着地すると、すぐさまその剣をオックスの心臓に突き刺し、引き抜いた。


「お、おまえ、まさか・・・。」


 オックスが共学に目を見開いて、そう呟いた声が、メビウスに届く。


 まさか?

 どういう意味だ?


 そのまま大量の血を吹き出し、メビウスの横に倒れ、絶命した。


「ジェイコブ、お前、今まで何をやっていたんだ?」


「あっ、当然逃げてたよ。」


 全くこいつらしい答えだとメビウスは思った。


「おい、トツネルド!あの赤毛ちゃん、ダウ丈夫か?」


 メビウスが、先のオックスの呟きの意味をジェイコブに聞こうとした。


 だが、ジェイコブの言葉に、慌てて倒れているバネッサのもとに急いだ。


 バネッサは結界と同時に防御障壁も張っていたはずだった。

 だが、オックスの強い打撃を全身で受け、跳ね飛ばされて床にも強く打ちつけられたはずだ。


「バネッサ!バネッサ!」


 赤い髪の少女の名を大声で叫んだ。


「ご、ご主じ、ん様……、無事、です、か?」


「俺は大丈夫だ、バネッサ。今、治癒魔術をやってやる。」


 メビウスは今まで治癒魔術なるものをした経験はなかった。

 中程度まで何とか積み上げた魔導は基本、攻撃と防御だ。

 治癒魔術に手を出す余裕はなかった。


 だが、今の自分に溢れるこの、誰かの魔導力、ならできるのではないか?

 そう思わせる力だった。


 バネッサの野戦服の前を両手で強引に破き、露になった二つの小さな山には目もくれず、両手を心臓の位置に置いた。

 そして、ただ、ただ、バネッサの命を守るように祈った。


 ジェイコブが静かに二人の後ろに近づいてきた。


 その光景を、立ち上がろうとしたディグは見つめていた。

 そして体に緊張が走った。


 ジェイコブが微笑みを讃えていた。

 二人を助けるために何かしようとすると思ったのだ。

 何しろ彼はメビウスを殺そうとした化け物を難なく倒し、メビウスを救ったのだ。

 その後の様子も、仲の良い仲間に見えた。


 だが、ディグの胸に警戒の緊張が走ってる。


「メビウス卿‼」


 気づいたら叫んでいた。


 しかし、その警告は遅かった。


 ジェイコブの剣が無防備なメビウスの背中を刺し貫いていた。


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