第27話 メビウスの戦い Ⅱ
鉄格子のはめられた部屋の衛生状態は良くない。
今は人の血と臓物、吐しゃ物、大小便の臭いに加え、麻薬の煙と酒の臭いなど、慣れている俺でも吐き気を催してしまう。
この場所が、もともとそういう場所であることは知っていた。
だからあまり近寄ることはなかった。
だから詳しい配置はわからなかった。
仕方がない、しらみつぶしに探すしかない。
幸いと言っていいのか、既に生きている人間はいない。
敵も味方もなかった。
自分以外は多分、すぐに襲ってくるだろう。
この瘴気のような異様な雰囲気。
こいつが人を狂わせているのは間違いない。
だが、何故俺は普通なのか?
いや、普通よりも力が漲っている気がした。
どういう風に説明していいか分からないのだが、何か強大な力を持つ者に取り憑かれているような気がする。
気のせいだと思うが…。
薄暗いその場所をひとつずつ見て歩いた。
ほとんどが空だった。
思った通り既にあらかたの奴隷たちは売買されたのだろう。
視界の隅にかすかに動く気配を感じた。
一つの鉄格子の部屋で薄汚いローブが蠢いていた。
警戒しつつ、その部屋に近づく。
俺の接近にそのローブが震えているのがこの暗さでも分かった。
あまり大きくない。
でかいネズミか、または魔獣の類か?
剣を握りなおす。
血で汚れている剣を自分のローブでこすり落とす。
「生きているか?」
俺の言葉にその汚れたローブがビクッと動いた。
そしてムクッと起き上がる。
そこからはかなり汚れてはいるが金色の髪の毛が現れた。
「ナターシャ、ちゃんか?」
その声に顔をあげ、うつろな顔が俺を見た。
力のない瞳にかすかに光が出てきた。
「……うん。」
ローブから出てきたナターシャは下に何もつけていなかった。
尿の臭いがする。
そう言っても、この部屋に充満する臭いに比べればどうという事はない。
ナターシャを助けたいと思ったが、この鉄格子をどうすればいいか?
この剣では到底、この鉄格子を壊すことはできない。
そう思った時だった。
「そこから離れろ。」
自分の口から自分でない誰かが言葉を発した。
自分で体をコントロールできない。
握りしめていた剣をナターシャのいる鉄格子に向けた。
ナターシャは奥まで体を引きずるようにして移動した。
体から力が右の手元に集まっていくのが分かる。
右手が手首だけで剣の先端に円を描かせた。
と同時に、目の前の鉄格子が円形に切断され、牢の中に落ちた。
(これをやるためにナターシャに奥に行かせたわけか。しかし、なんでこの身体を俺は動かせない?)
傀儡化。
そんな単語が頭に浮かぶ。
聞いていた話では、こんな風に自分の思考が出来るはずがなかった。
傀儡化はその考え、自らの思考も完全に失われるはずだ。
では一体、俺の身体に何が起こっているのか?
既に術は解けているようで、俺は奥で怯えているナターシャに声を掛けた。
「逃げるぞ、来い‼」
ナターシャに手を差し出す。
血だらけの俺の格好に一瞬顔をひきつらせたが、すぐに這うようにして俺に近づき、俺の手を取った。
そのまま引き寄せ、抱き上げる。
もともと7歳の子にしては瘦せていたその身体は、思ったよりも軽い。
フォルテが親子の姿を見失ってから、丸1日が立っていた。
泣きじゃくっていたフォルテの顔が思い出された。
俺が仮眠を取り、目覚めて少し経った時だった。
「まずいことが起きたようです、ご主人様。」
バネッサが俺の身支度を整えつつ、俺の耳元にそう囁いてから、5分も経たずに家の玄関で泣き崩れているフォルテを見て、何が起こったか、正確に理解した。
カザフスがナターシャを連れて姿をくらました。
フォルテ一人を責めるわけにはいかないだろう。
その時、フォルテが摺りを行う男を見つけてしまった。
数々の不幸を受けてきたフォルテは、それでも父親の教えがその身に沁みついていた。
正義の心。
目の前で起こる悪に対して自動的に体が動き、そのスリを見事に捕まえた。
しかし、その時には親子の姿を見失ってしまったのだ。
そう、カザフスはその時を待っていたのだろう。
俺が夜の警備につくことを知っていたカザフスは、言葉巧みにバネッサに俺の世話をすることを勧めた。
そして絶望の中を生きてきたと言ってもまだ子供のフォルテであれば、必ず隙を見せるという事も計算していたに違いない。
泣きじゃくりながら、フォルテは本当はまだ13歳であることを告げた。
バネッサもフォルテを庇いながら、俺に謝った。
だが、今はそんなことを言っている時ではなかった。
これから起こるかもしれない惨事から、この二人とナターシャを守り逃げることを最優先にしなければならない。
最初は、この村の外れにある「神の言葉」教の食料や冬季の薪など、備品を保管してある小屋に隠れさせ、暴動や、アンダストン邸での争いが発生した時に、4人で逃げる算段をしていた。
仮になにもそんなにひどい事件が起こらなければ、そのまま帰宅すればいい。
だがすでにその計画は崩れた。
二人には持てる限りの食料と金銭、貴金属と防具を渡し、先に行かせた。
俺はナターシャを探して確保。
そのまま合流してカムチャイル町に行くこととした。
仮に翌日の日没までに俺がその場に行かなければ、二人で先にカムチャイル町に行くように命じてある。
既に二人は移動を開始しているはずだ。
こうなってしまった以上、俺もこの子を連れて、さっさと逃げるべきだろう。
ナターシャの動きには力が感じられない。
ここに連れ込まれてからは、まともに食事を与えられていないな。
俺は自分の野戦服の一つに忍ばせている非常食、イノシシの干し肉を取り出し、ナターシャに渡した。
「ゆっくり食えよ。」
コクコクと首を振り、むしゃぶりついた。
さらにコーンライスを蒸した後、固めた、野戦食も渡す。
竹筒に入った水も飲ませた。
人心地ついたナターシャを床に降ろす。
「歩けるか、ナターシャ。」
「……うん。」
そう答えて、しっかりと立ち上がった。
「おじさん、…お父さんは?」
「……ああ、うん、まだ、見つけられていない。」
「ううん、わか、ってる。もう、いないんだよ、ね。」
俺の言葉に、一瞬泣きそうになったが、それは耐えたようだ。
既に父の死を覚悟していたのだろう。
いや、それとも自分をこんなところに売り飛ばした鬼のような男が死んで喜んでいるのだろうか?
ともかく、正規のルートでの脱出はまずい。
あの死体と血の海の中をこの子を連れて行くわけにもいかない。
さらに、まだ生き残りが上にいる可能性がある。
俺一人なら何とかなるが、この子を庇いながらでは、ちと、分が悪い。
確かこの奥に直接アンダストン邸に通じる道があったはずだ。
薄暗い通路が奥に行くにつれ、さらに暗くなり足元もおぼつかなくなってくる。
そう考えていると、また自然に右手が前方を指し示すように動いた。
一瞬後、右手から光が放たれ、周りを照らす。
まるでランタンのように辺りがよく見えた。
誰かが俺の中にいることはもう疑いようもなかった。
しかし、その誰かは、どうやら俺の味方であった。
何か困ったことがあると俺を助けるような行動を取っている。
奥まで進むとただの壁があった。
突き当たり、行き止まり。
それが偽装なのは知っていた。
何といっても、アンダストン家当主は、屋敷から直接この場に下りてくるはずだった。
上を見上げ天井に出入り口がないか見てみる。
手から放たれている光をかざしてみたが、それらしいものは見つけられない。
アンダストンの身体を思い出してみれば、ここに隠れた出入り口があったとして、梯子での上り下りを行うとは思えなかった。
それをやるには腹に着いた脂肪はかなり邪魔なはずだ。
俺は先程の感覚を思い出し、その行き止まりの壁に向かい剣を向け、ただ念じた。
(壊れろ)
剣がほのかに光った。
そしてその壁が静かに崩れ落ち、向こう側の階段が出現した。
やはりあった。
おそらく、この壁に見えた行き止まりも、何らかの操作で開くようになっていたのだと思う。
それを力任せに俺が壊したようだ。
先程のオークション会場への扉といい、この壁といい、万が一に襲われた場合や、ギャンブルに負け、自暴自棄になった奴らが大挙して自分の所に来ないようにアンダストンが対抗措置として施したものだろう。
下手したら、あの賭場の天井は釣り天井になっており、いざというときには落とすようになっているのかもしれない。
賭場の会場が単純に地下にあるのではなく、地下2層になっているのもそのためかもしれない。
俺はナターシャの手を引いてその階段を上った。
その先にあった地上に繋がる部分もまた天井に扉があったが、閉まっている。
剣の柄で押し上げようとしたがびくともしない。
「下がっていろ、ナターシャ。」
ナターシャが頷き、階段を3段ほど下がる。
さて、この上がどうなっているか。
静かに開けても、そこで殺し合いをしていればいい的になってしまう。
今はナターシャがいる。
この子を庇いながらでは、できうる限り敵を遠ざけたい。
(爆発しろ)
すぐにその扉は爆発し、上方に吹き飛んだ。
煙に紛れてナターシャの手を引き地上と思われる場所に出る。
とは言っても、アンダストン邸の中であることは想定済みだった。
先程まではなかった濃厚な血の匂いがまた鼻をつく。
そこに人の気配がした。
泣きながら、苦悶とも甘美とも取れる声が細かいリズムで聞こえてくる。
それと同時に振動が伝わってきた。
この扉の爆発にも関心を示さず、給仕の姿をして下半身が裸の女性が四つん這いで呻いている。
その腰を両手で固定し、腰をぶつけるようにする裸の男。
女には見覚えがないが、男は見知った顔だった。
ルードヴィッヒ伯爵から出向している騎士、オックスだった。
オックスに犯されている女性は、たぶんアンダストン家に仕える侍女なのだろう。
美しいはずの顔が苦悶とも、歓喜とも思える表情で声を出している。
考えられる事態として、薬、麻薬か媚薬か、もしかしたら魔法薬でも飲まされたのだろう。
でなければああいう表情にはならない。
犯されている女性の方が俺と目があった。
「こ、殺して、お願い!もう、いやあ!」
「早いよ、お前。ちゃんと殺してやるから。」
言うが早いか、オックスは脇に置いていた剣を目に留まらぬスピードで女性を切りつけた。
俺のいる場所からでは助けることができなかった。
下手に助けたとしても、薬の副作用で狂ってしまうこともわかったいた。
「ありがとうよ、メビウス。終わるまで待ってくれてさ。」
別に二人の睦事を待って、面会に来たわけでもない。
それどころか、この状態で顔を合わせたくはなかった。
すぐに俺の後ろに隠れているナターシャに気付いた。
「ほう、赤毛の次は、幼子か?お前の性癖も常軌を逸しているな。」
そう俺を侮蔑しながら、その裸のまま俺に襲い掛かってきた。
俺はナターシャを庇いながら、横に転がるように逃げる。
オックスの剣が、正確に俺のいた場所にたたきつけられた。
爆発音。
その床が砕け散り、この屋敷を支えていた石積も弾けた。
弾かれた石礫が容赦なく俺たちに降り注ぐ。
だが不思議と痛みがない。
さっきまで恍惚とした顔で笑っていたオックスの顔が引き締まる。
警戒が表に現れた顔だ。
「お前、その防御障壁なんか使えたのか?」
不思議に思うのも無理はない。
去年、村の北に位置する山が崩れた。
その近辺の村人の救助に行ったとき、さらに土石流が俺たちを襲ったのだ。
俺とジェイコブ、オックスが派遣されたが、俺達だけ逃げて、村人の大半の命が亡くなった。
その後、ルードヴィッヒ伯爵の正式の騎士団と、国家魔法団が共同でその土砂を撤去して、その山に固定魔法をかけたのである。
今、俺が使った防御障壁をあの場で使えば、救われた命もあっただろう。
だが、厳密にはこの魔術は俺のものではない。
「悪かったな。あの後、こういうことが起きないように、一生懸命練習したんだ。」
俺はそう言って、立ち上がった。
何故かナターシャの周りに淡い光を放つ光が集まり、防御障壁を作っている。
「気に入らんな、その余裕な態度。お前はこの屋敷に来た時から、俺やワイズを見下していたもんな。」
オックスの剣がやおら俺に向かい振り下ろされた。
ナターシャのことはどこかの誰かさんが護ってくれているようだ。
ナターシャのことは一時忘れ、この敵に対峙する。
振り下ろされたオックスの剣に自分の剣を合わせ、そして奴の力の方向を変えるように弾く。
だが、剣と剣がぶつかった時に、電撃のようなショックが手元に来た。
奴は剣戟に魔法を乗せてきていたのだ。
俺はすんでのところで落としそうになった剣を握りなおした。
だが、先ほどまであった、身体から沸き上がる力が消えていくような感覚が俺を、絶望に追いやる。
これは奴の魔術が俺の魔導力を無効化させるものなのか?
オックスは振り下ろした剣をすでに反転させ、俺に向かって右側から薙ぐ。
しびれる右手に左手を添えてオックスの剣圧に耐えるように構えた。
が、奴は俺の行動の裏をかくように、その状態からまた逆方向に体ごと回転し、全く防御のない左側に十分な遠心力を乗せて襲い掛かってきた。
間に合わない!
俺に向かって重く力を込めたオックスの剣に、最期の抵抗とばかりに目を見開きその軌跡を追った。
明らかにスピードと重さ、さらには魔法まで乗せたその剣が、奴の笑いと共に俺の脇から上半身を切断するように迫ってきた。
鈍い音がして、俺の前の視界が奪われた。
そして、遅れて見事な深紅の髪の毛が俺に降りかかってきた。
俺の前に、すでに隣の町に逃げたはずの紅の髪を持つ少女、バネッサの背中があった。
いつも気に入ってきていたドレスではなく、逃亡用にしつらえた野戦服である。
何処から持ち込んだのかわからないが、大きな盾でオックスの剣を受け止めていた。
「ご主人様、遅れて申し訳ありません!」
「何故ここにいる!」
俺はあまりに予測不能のバネッサの出現に、大声で叫んでいた。
「ご主人様がおっしゃったではございませんか!私、バネッサといつも一緒だと。」
そう言って、盾に食い込んでいたオックスの剣を弾き飛ばす。
恐ろしいほどの魔導力であった。
この娘の魔術は、ここまで大きくなったのか?
いや、たぶん違う。
この一帯を覆っている、この瘴気のようなもののためだ。
彼女の欲は、おそらく俺そのものなのだろう。
俺を守り、フォルテと幸せな家族となること。
なぜかは解らなかったが、その感情が自然と俺の心に入ってきた。
「フォルテにはすでにすべてを持たせてカムチャイル町に行かせました。フォルテの剣であれば一人でも、ご主人様の目的は完遂できます。早く万難を排して、後を追いましょう。」
バネッサはそう言って立ち上がり、憤怒の目で俺たちを睨みつけているオックスに、睨み返した。
「くそ女が!多少魔術が使えたところで、俺に勝てると思うなよ。跪かして、自分から命乞いをさせてやる!」
その言葉を最後まで言うことなく、盾を左手で構えるバネッサに、右側から迫る。
瞬時にその距離がなくなる。
俺はバネッサを庇おうと剣を向けようとしたが、全くそのスピードに追い付けない。
だがその刹那、オックスが体ごと弾かれ、この広間、よく見れば謁見の間だった、の隅まで飛ばされていた。
バネッサはそのままオックスに向かって跳躍し、盾をオックスの顔面に叩きつけようとして、すぐに体を違う方向に飛ばした。
盾があっさり割れ、その奥の天井が爆発した。
バネッサは転がりながら俺の方まで来る。
オックスを見ると、その破壊された方向に剣を向けていた。
「何者ですか、奴は?」
信じられないものを見る目で、オックスを見ながらバネッサが俺に問いかけた。
「アンダストン家の騎士だ。が、今はまったく別の怪物になったようだ。」
バネッサは俺の言葉にびっくりしたように顔を向け、そしてほほ笑んだ。
そのまま色づく唇を俺の唇に合わせ、口の中に息を吹き込む。
甘い香りが鼻腔をくすぐり、体全体に力が漲ってきた。
「ご主人様。ほとんど寝ておりませんね。今、私の魔導力をご主人様に吹き込みました。少しは楽になったはずです。」
確かに、少し体が軽くなった気がする。
痺れも嘘のように消えた。
先程の家から湧いてくる力も、また復活したようだ。
「ありがとう、バネッサ。お前は本当にいい女だ。」
思っていたことを素直に言葉にした。
俺の言葉に、バネッサが少し照れたようだ。
半透明の防御障壁に囲まれているナターシャも興味深げに俺たちを見ていた。
あまりゆっくりもできないだろう。
倒れていたオックスが剣を杖に立ち上がってくる気配を感じた。
「バネッサ、よく俺たちのいる場所がわかったな。」
「他の方は解りませんが、ご主人様とフォルテは、どこにいるか、すぐにわかります。」
断言した。
逞しくなったものだ。
こんな時だからだろう。
俺の口から笑みがこぼれた。
「バネッサ、ナターシャを連れてすぐにこの村から出ろ。お前ならできるはずだ。」
「ご主人様は、どうなさるのですか?」
「奴を倒したら、後を追う。」
「そんな、一人では…。」
「大丈夫だ。先程この世で一番美しい女神から祝福のキスを受けた。負けるわけがない。」
その言葉にバネッサの顔が一瞬で赤くなった。
そして、真剣な目で俺を見た。
「わかりました。ナターシャちゃんは私が護ります。絶対、追いついてくださいね、ご主人様。」
「まかせろ!」
そう言ってバネッサの尻を叩いた。
バネッサが少し怒った顔で俺を見て、そして防御障壁を解かれたナターシャの手を取って、外に飛び出してゆく。
「さて、そろそろ始めるかい、オックス。」
そこには怒りで身体が紅潮したオックスがいた。
筋肉がいつもより大きくなっている。
まるで悪鬼だった。
「もう、人間であることも捨てるのかい、オックス。」
「うるさい!俺は俺のやりたいようにやる。邪魔する奴はことごとく殺す。」
「あの玉座みたいな椅子に倒れているのは、アンダストンか。」
「ああ、そうだ。欲望の矛先はこの村一番の金持ちに向かう。当然だろう。だが、アンダストン夫妻を殺した後、金銀財宝の奪い合いさ。殺し合った結果が、この謁見の間という訳だ。」
もう、見慣れたオックスの姿はどこにもなかった。
俺は自分の中から沸き上がってきた力に従う。
化け物のように変わってしまったオックスが俺に向かって突進してきた。
怒りに震えるように体が振動している。
俺の右手の剣を床に刺し、静かにその剣に力を集中する。
その床を這うように魔導力がオックスに向かい、足元が一気に崩れた。
実際に戦えば、仮に勝ててもこちらも無傷では済まない。
まだ、外にどのような危険があるか分からない。
村人たちが、先ほど床が崩れ地下の空間に落としたオックスのような変貌を遂げていたらと考えれば寒気がする。
オックスほどの強さはないだろうが、数が問題だ。
この場から逃がすために一度バネッサにこの屋敷から出るように促したが、今は出来るだけ早く合流しなければいけない、と考えてオックスと直接戦うことを避けたのだ。
俺はアンダストン邸を後にし、バネッサたちを追った。




