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「神の子」  作者: 新竹芳
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第25話 トツネルド・メビウスの記録 Ⅳ

 9月30日 晴れ



 また夢を見た。


 あの「人に非ざる者」が囁く。


 今こそが、おのが欲望を解放するときだと。


 だが、今回はその言葉に、大きなどよめきが起こった。


 口々に「金」「女」「力」が連呼されている。


 こいつは、俺だけでなく多くの欲を持つ者のその奥底の燻る衝動に火をつけて回っていたようだ。

 俺の心の奥に封じ込めた、騎士への想いまで掘り起こされていく。


 すでに心が腐っている俺でも、若いころ持っていた「人を守る騎士になりたい」という願望が、純粋培養されて俺の汚れた体の隅々に行き渡るかのようだ。


 どうも、俺は「人に非ざる者」の思惑とは違う方向に、欲望が開花してしまっているようだ。


 だが、そうした思いに感づいた、欲望の塊のような奴が、俺を見つけ責めるようなまなざしを向けてきていた。


 「人に非ざる者」も口元をゆがませ、非常に不快な笑みを浮かべる。


 俺はその顔に見覚えがあった。その顔は…。




 身体に寝汗を掻いて、その気持ち悪さに起き上った。


 横には少し小さめの胸を露にしたバネッサの顔があった。


 いや、昨日は一人で寝たはずだが。


 汗を吸って気持ちの悪い下着と、下は寝間着代わりに来ているトレーニング用のズボンをはいている。

 やはり、昨日は男女間の睦事は致していないようだ。


 ではなぜバネッサは裸で…。


 下も何もつけず、薄茶色の股間の影が微かに見て取れた。


 俺は夢見の悪さと、この汗の染み込んだ下着に、少々憂鬱になりながら、風呂場に回った。


 昨日の湯がすでに冷え切っていた。

 手早く服や下着を脱ぎ、その冷めた水を汲んで、頭からかけた。

 幾分すっきりとした。


 バネッサはきっと、寂しさのあまりに俺の寝床に潜り込んできたのだろう。


 昨日からジェルネンコ親子の動向を見ている。

 昨日はカザフス一人でアンダストン邸の壁の点検を行っていた。

 自分の道具はなくとも、邸宅の物置小屋に必要な工具は一式あるはずだと、カザフスは笑って言っていた。


 それは事実だと思う。

 だが、職人というものは道具を自分の使いやすいようにカスタマイズしているものなのではないのだろうか。

 疑えばきりがない。


 今回、祭りの終了後、アンダストン邸の本宅から少し離れた修練場が宴の会場になる。


 今回の催し物をしてくれた旅芸人や、雅楽隊、大道芸人や、村の青年団を労い、女性たちが料理を振舞ったり、踊ったり、そして男女のダンスなどに発展していく。

 独り者の村人たちへの集団お見合いもかねている。


 というような表の体裁が作られている。

 今回は日程が遅れ、迷惑をかけたという大義もあり、2日間にわたって、この宴が執り行われることになっている。


 当然のことながら、俺、ジェイコブ、オックス、ワイズは終始警戒せねばならない。

 村人以外のよそ者がいつ何時犯罪に手を染めるか、それをさせないため、そして運悪くその犯罪行為が行われれば捕まえなければならない。


 これは祭りから宴の終了まで、基本24時間体制となる。


 だが表向きの理由とは別に、重要な任務が、主催者アンダストン夫妻の護衛である。


 修練場で執り行われる宴で、命を心配することではないのだが、真の目的は修練場の地下、2層下で行われる、賭博、そして人身売買である。


 金を持っているものは問題ないが、金を持たずに賭場に参加する奴もいる。


 ここの賭場のレートが他よりもいいことに目を付け、一獲千金を夢見る輩だ。


 そいつらは換金可能な、貴金属や宝石、土地家屋の所持を譲ることによる金銭、そして働き手として貴重な体力を有する若者や、性的な色彩の強い若い男女など、様々な欲望のはけ口となる商品を担保に、賭博に参加する者たちもいたのだ。


 当然、勝てば何の文句も言わない。


 だが、負けた場合は…。


 もう今年で3回目を迎えるこの秘密の賭博場は、行方不明者を多数出すことでも、その界隈では有名であった。


 そのトラブルに対処するために、俺たち4人が雇われているようなものだ。


 俺自身も、去年のこの賭場で、さらに外で、2桁の人間を行方不明にしている。


 それだけ、トラブルが多いのである。


 そんなところで、壁面職人で地道に働いてきたカザフスがすでに落ちているということに、俺は少なからずショックを受けていた。

 そして愛しているはずの娘を売り、タネ銭にしようとしているなど、ついぞ考えたこともなかった。


 だが、バネッサの能力も俺は信用していた。

 いざとなれば、仕方がない。

 ナターシャを、俺が買い取ろうとすら思っていた。


 バネッサもフォルテもナターシャを気に入っていたし、ナターシャも二人に懐いているようだった。


 今日のところは、カザフスが祭りを案内するらしい。

 旅芸人の大衆劇にしろ、大道芸人たちのパフォーマンスにしろ、ナターシャが喜んでくれればいい。

 屋台のジャンクフードをおいしくほおばる姿を想像すると、微笑と同時に親がやろうとしていることに思いが及び、胸糞が悪くなる。


 とりあえず、うちの二人にも親子に付き従うようにさせた。

 特にフォルテには業物ではないが、汎用性の高い剣を持たせてある。

 それがカザフスには抑止力となるだろう。


 宴は日没後。


 二人にはナターシャにしっかり遊ばせて、疲れさせるように命じておいた。

 俺の家に帰ってきたらすぐに眠りにつくのが理想。

 そうすれば俺がいなくても、あの二人がカザフスの娘を強引に宴の会場に連れて行くことを阻止してくれるはずだ。


 俺は、ジェイコブと組んでアンダストン邸の警護に当たらねばならないので、ナターシャを見ていることができない。

 そのための策である。


 俺は着替えて、滅多につけることのなかった剣を鞘から1度出して、刃の状態を確認する。

 昨夜、久しぶりに刃を研いだ。

 現状、もしあの夢の者が本当に俺に甘い誘惑を囁いたとすれば、そのBGMのように湧き起っていた、熱い思いのたけは充分警戒に値する。


 後ろに気配を感じた。


 素肌に赤いシルクの寝間着をひっかけただけのバネッサがいた。


 俺は緊張を解いた。


「驚かせてしまいましたか?ご主人様。」


「いや、少し剣を磨いて集中していたんで、緊張していたのかもしれない。悪かったな、過剰の反応をして…。」


「うそ、ですね。何かはわかりませんが、ご主人様は今、戦闘の準備に入っていました。この距離で私に気付くことなど、今までありませんでした。」


 心配そうに俺に向けた瞳が、ベッドの上とは違う妖しい輝きを見せている。


 確かに、バネッサと俺の距離は3歩ほども開いている。

 だがこの距離は、俺の剣の間合いぎりぎりのところだ。


「ご主人様のこの気配は、普段の警備業務で見たことがありませんし、かなりの不安を感じます。昨日、ここで剣を磨いている時から感じていたものです。極度に緊張していたから、逆に疲れたのではありませんか?」


 全くバネッサの言う通りだ。


 俺は祭りの日が近づくにつれて緊張が高まってきている。


 バネッサのナターシャを思う気持ちを聞かされてからは、さらに緊張感が増している。

 その緊張に耐えられず、昔、騎士団にいた時のくせが蘇ってきた。


 剣を磨いている時が不思議と心が落ち着いたものだった。


 だが、今回は違った。

 剣を磨き、その刃の殺傷力が増すにつれ、緊張が高まり、何もないのにもかかわらず、精神と体に疲労感が大きくなった。


 普段であれば酔っぱらって寝ても、バネッサやフォルテの匂いを嗅げば、夜の営みに心も体もスイッチが切り替わるはずだった。


 バネッサの添い寝にも気づかず、俺は眠り、そしてあいつの声を聴いた。


 すでに傭兵として戦場にいた時の状態が俺に戻り始めていた。


「私にはご主人様がこれから、戦争にでも行くかのような精神状態に思えて仕方ありません。」


 まったく、バネッサの魔導の力は日を追うごとに強くなっているようだ。


「大丈夫だ、バネッサ。俺は何処にもいかんよ。いつもお前やフォルテと共にいる。」


「そう、ですか。そうですね、ご主人様。私たちも何か事が起これば、ご主人様をバックアップします。ご主人様から受けた恩に報います。」


 俺は無理して軽い笑みを口元に浮かべた。


「心配するな、バネッサ。何も起こらないよ。でも、そうだな、今後のためにも一つ頼んでおいた方がいいな。」


 俺はそう言って、普段物置に使ってる小屋にバネッサを誘った。




 晴れやかな空に乾いた破裂音が響く。


 花火職人たちが軽い小さめの花火を打ち上げ、祭りの始まりを知らせていた。


 きっと今頃はジェルネンコ親子と俺の可愛い赤毛の娘たちがこの祭りを楽しんでいることだろう。

 うちの二人はこの数か月で人目を引くほどには綺麗になった。

 しかも、この村では滅多に見ることのない赤毛だ。

 変な男に絡まれてないか、心配ではある。

 だがフォルテに、私が今腰に携えている剣の鍛冶師の弟弟子が鍛えた剣を、昨日磨き直して細かい調整を加え、渡してある。

 まずそいつを背中にしょっているだけで男避けにはなるはずだ。


 俺は今、宴の会場になる修練場でジェイコブ相手に剣の稽古を軽く流していた。


 ジェイコブは元々生きるために戦ってきた男だ。

 剣にも多少の覚えがあるが、その場に適した戦いを得意とする。

 武器となるものであれば、道端に転がっている石ころでも戦う奴だ。


 傭兵時代に、ジェイコブにはそんな戦いに助けられたことが何度かあった。


 そして、おそらく魔導もかなり強いのではないだろうか。


 以前、石すらない乾いた大地での戦闘で、砂煙が発生し、その視界不良の中、無事に逃げ延びたことがあった。

 ジェイコブは「運がよかった」といっていたが、俺は奴が巻き起こしたものだと確信していた。


 だがすでに俺にストップをかけて、今は床でへばっていた。

 俺自身も体がなまってることを痛いほど自覚した。


「本当にやめてくれ、トツネルド!俺は剣も使えるが、あんたみたいに騎士団にいたわけじゃないんだ。ちょっと体を動かすだけ、って言ったから付き合ったんだぜ。本気でやるなら現役の騎士であるディグに頼めよ。」


「あいつは祭りが始まってんだ。そっちの警備がメインだろう。お前さんが、夜の警護に寝ちまいそうだって言うから、今疲れて眠っておいた方がいいと思って、体をいじめてんだろう?」


「そりゃあそうかもしんないけどさ…。にしたってやりすぎだって。俺は祭りにも顔出して、ただ酒貰いに行くつもりなんだぜ。」


 警護に当たるアンダストンの騎士ともなれば、いくらでも食べ放題飲み放題ではある。

 どのみち、夜から明日の朝までの警護に眠りこんでいたのではまずい。


 いや、去年は酔っぱらいながら仕事をしていたんだな。


「大体なんで急にそんなに真面目になってんだよ、トツネルド。去年と一緒で、うまいもん食って、酒飲んで、女抱いてりゃいいんじゃねえか。それともアンダストンの金を狙った賊のかちこみの情報でもあんのか?」


 急に真顔で床にへたりながら俺を非難の目で見てきた。


 もしかしたらジェイコブもあの夢を見ているのか?


 いや、見ているにしても、見ていないにしても、この話はするべきではない。

 いらぬ警戒を招きかねない。


 見ていなければ、変な目で見られ、下手をすると俺がこの屋敷を襲うと誤解を与えかねない。


 逆に、同じような夢を見ていたとしたら、こいつと殺し合いをすることになりかねない。


「別にそういう訳ではないが、開催が5日ほど遅れただろう。金のないやつには結構な負担があっても不思議ではない。そうなれば頭に血が上る御仁の数も膨れ上がるってもんだろう。去年も、賭けに「いかさまだ!」と騒いだ奴が、俺らが捕まえたのちに、忽然と姿を消しちまってる。そんなことになる前に俺たちが対応できれば、それに越したことはないってもんだ。な?」


「まあ。そうだな。問題は未然に防げれば、それに越したことがないんだがな……。」


「なんだジェイコブ。その奥歯にものの挟まったような言い方。」


「トラブルは未然に。確かにそうなんだが、トラブルが起きたのちに、そのトラブルを解決するほうがわかりやすいんじゃないか?特に家の雇用主様なんかは、さ。」


 確かに、ボーナスの稼ぎ方としては、そちらの方がアピールしやすいのも事実だ。


「まあ、それはさておき、確かにいざというときに体が思うように動かないということは避けた方が得策ではある。トツネルドの言うことも正論だな。では、もう一番、やるか?」


 ジェイコブが少しだけやる気を示し、近くに放り投げていた訓練用の木剣を拾い上げた。


 俺も、先程床に置いた木剣を握りなおし、立ち上がり、ジェイコブと対峙した。


 ジェイコブの剣の流派は、騎士たちが好んで使う神流剣の一派ではない。

 剣の教えというよりも、その場の環境に即したサバイバルや戦闘の中での剣術である。


 そのジェイコブが。

 体を低くし、四つん這いよりさらに低い位置に身を置く。

 大きく開かれた足をしっかり固定し、剣を持つ右手を浮かせ、左手を地について俺を見上げている。

 一見、上方からの攻撃に弱いように見える。

 それに対し、俺は左手に剣を持ち、頭の上から右側を守るように剣の刃先を下に向けている。

 これも左側ががら空きに見える。


 人によっては罠以外には見えない。


 二人とも、正規の剣術の型を持っていなかった。

 正確には、身に馴染む型を持ち合わせておらず、その時の状況に即した形を作る。


 ジェイコブがその低姿勢から一気に間合いを詰め、俺の向う脛か、足首を狙った剣戟を走らせた。

 その動きは完全に虚を突くには十分だったが、同じ動きを戦場で見ていた俺は難なく、飛び上がって流しつつ、俺の剣を高速で動くジェイコブの背中に打ち込む。


 がそこにはすでに奴の姿はない。


 俺の足の切り付けに失敗すると、すぐに跳躍、逆に俺が上を取られたように錯覚する。

 だが跳躍したジェイコブの態勢は今一つ決まらない。

 俺は空中で回転してその遠心力を使い、上方からの攻撃に合わせ、カウンターをぶつける。


 ボコッ。


 確かに音が聞こえたが。

 ジェイコブは顔色一つ変えずに、先程の場所に降りた。

 顔面は紅潮し、息は荒いが、痛みの出ている顔ではない。


 ジェイコブは戦いになれていた。


 それに比べ、空中での体の回転は俺の筋肉に激痛を走らせた。


 俺の顔が歪んでいるのにジェイコブは満足そうな笑い声を出した。


「確かにトツネルドは運動不足だな。あの程度の回転運動で、体が悲鳴をあげるとは。」


「だから体を動かしているんだろう。ジェイコブも、あんなアクロバティックな動きをして、大丈夫なのか。」


「様々な意表を突く動きは、俺がこの世界で生き抜くために必要な技さ。なれたもんだ。だがお前に一本取られた。この借りは必ず返すぜ!」


「お手柔らかに頼むぜ、ジェイコブ。」


 立ち上がったジェイコブが俺に背中を見せて、この修練場を去っていった。


「俺も夜に備えてしっかり寝ておくよ。お前も、夜に居眠りこくなよ!」


「わかってるよ。じゃあ後でな!」


 ジェイコブはこちらを見ずに肩越しに手を振って見せた。

 本当に寝るかどうかはわからないが…。


 俺はジェイコブを見送った後、自分の家に足を向けた。


 今は誰もいないはずの少し寂しい我が家に向かった。


 と思ったのだが、誰かが俺の住居にいることが俺の知覚に引っかかった。


 警戒して近づこうとしたら、いきなり玄関の扉が開いた。


「おかえりなさいまし、ご主人様!」


 いないはずのバネッサが満面の笑顔で飛び出してきた。


「なんでバネッサがいるんだ!」


「ご主人様が夜の警備のために早くに仮眠を取りますよね。そのお世話です。」


「いや、あの親子から目を離さないように言ったじゃないか。」


「フォルテが目を光らせてますから、大丈夫ですよ。まさか、昼の間に何かが起きる危険性が少ないことは確かめてまいりました。」


 明るく話すバネッサに俺は頭が痛くなってきた。


「それと、例の計画について、詳細を詰めておくべきかと…。」


 その一言に俺の思考が活性化した。




「このトツネルド・メビウスの記録にはここまでしか書かれていません。」


 オオジコバが学生会議役員の前でそう締めくくった。


「この書を持ってきた者からも、その後の多少の状況を聞いてはおりますが…。」


「オオジコバ、今何と言った。」


 ディッセンドルフがオオジコバに向かい、聞き返す。


「この書を持ってきた者のことですか?」


「そうだ。それと、この記録はやけに綺麗だ。原本が欲しい。持っているな?」


 オオジコバがゴルネイエフ商会から息子の身の回りの世話のために仕えている壮年の男性を呼んだ。


「アークハイム!例のもの、持って来てるよな!」


 扉の向こう側に大声でそう命じた。


 すぐに見慣れた、見るからに執事然とした男がシルク地の布から汚れたボロボロの紙の束を取り出した。


「オオジコバ様、こちらでございますが…。あまりにも損傷がひどいのと、文字の羅列もあまりいいとは…。」


「そんなことはどうでもいい。ディッセンドルフ先輩が見たがっているんだ。早くよこせ。」


「手荒には扱わないでくださいね。まだ証拠物件として価値があるようで、国家騎士団から、必要とあれば持ってくるように言われているのです。」


「分かってる。」


 オオジコバはその文書を丁寧に受け取り、ディッセンドルフの前の机に置いた。


「一応、この筆者の残留思念と、この紙に書かれていることを丹念に調べて出来上がったのが、先ほどのノートです。ですので、あまり情報量は多くないと思うのですが…。」


「それは問題がない。ここにこの書を書いたものの残留思念が分かれば、そこからこの書の作者、トツネルド・メビウスというものの思考を追跡が可能だ。」


 こともなげに言っているが、言うほど簡単ではないはずだ。

 サーマルはそう思っている。


 ディッセンドルフの能力を過小評価しているわけではない。

 ディッセンドルフなら、この書からこの書が書かれるまでの心の動きを知ることは可能だろう。


 だが、ディッセンドルフは残留思念をキャッチし、それを手がかりとしてその後のこの作者の行動と心情を探るというのだ。


 果たして、そのようなことが可能なのか?


 サーマルの深刻そうな表情に軽い笑みをこぼしたディッセンドルフが説明のために口を開く。


「分かりにくいとは思う。この紙に残る残留思念から真の作者、トツネルド・メビウスなる人物の純粋な思念を読み取る。それをもとに同じ思念を捜索するのだが、同一の残留思念はこの空間を超えて、繋がっている。極僅かなんだが…。だが繋がってさえいれば、そこに辿りつけるんだ。生きていれば、その思念の力は大きいからすぐにでも分かるんだが、先ほどの話からその場に居た人々はみな死んでしまったんだろう。だから、その人物の死ぬまでの行動は大まかにわかることが可能だと思う。」


「それが本当なら、未解決の殺人事件のあらかたは解決するんじゃないか。」


「そういった話は今の俺には関係ないことだよ、サーマル。」


「確かにな。」


 今更ながら、ディッセンドルフの持つ魔導力の強大さに、サーマルは震えた。


「それと、オオジコバ。この文書はどういった経路でゴルネイエフ商会に辿り着いたんだ?ハーマス交易所からか?」


「いえ、それを書いた人物から直接頼まれた人物が、道中いろいろあったようですが、この国で名の知れた商人という事で、うちの紹介に届けたようです。騎士や国の役人、領主という人種を全く信用していないようです。」


「連絡はつくか?出来れば話したい。」


「了解です。アークハイム!うちで事務を担当してくれているフォルテさんを至急呼び出してくれ。」


「承知しました、オオジコバ様。それではすぐに。」


 そう言って壮年の執事が姿を消した。


「ちょっと待て、オオジコバ‼今、フォルテ、と聞こえたが…。聞き間違いだろうか?」


 サーマルがオオジコバに聞いた。


「間違いではありません。先の記録で度々名前の挙がっていた、剣士で赤髪の少女、奴隷だったフォルテ・ゴルネイエフさんが、死ぬ思いでうちの会社に届くれたものです。」


 ナターシャ・ジェルネンコはマルヌク村唯一の生き残りではなかったわけだ。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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またいい点、悪い点を感じたところがあれば、是非是非感想をお願いします。

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