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「神の子」  作者: 新竹芳
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第17話 反撃

「やっと当たったか。」


 風通しがよくなった艦橋で、アッセンドラ艦隊司令が自分の席で安堵のため息をついた。


 「神の言葉」教司祭ミッドガルドにより意識を飛ばされた。

 しかし、暫くして意識を取り戻したところで、まだ標的がいることを確かめた。


 呆然としている艦橋の乗務員の足元に苦悶する二人。

 天井は破壊され、空が見えた。


「何があったんだ?」


 艦隊司令の言葉に呆然としていた乗組員の一人が口を開いた。


「ミッドガルド司祭が魔導で我々の行動を抑制、天井を破壊し、イージス艦長を連れ空に飛んでいきました。」


「ふん、これだから魔導士は好かん。自分たちが魔法を使えるからと、我々を馬鹿にしおって!」


 握りしめた拳を自分の椅子のひじ掛けにたたきつけた。


 そこで大きく息を吐いた。


「だが、教会の人間がいなくなったのは好都合だ。このまま連合王国のシーセキノ海軍基地を落とす。それを交渉のカードとして、和睦。レベッカ海峡にある島の占有権を確保し、その功績で連邦軍の老人どもを一掃してやる。」


 その艦隊司令の言葉に、艦橋に残るほとんどの者が、敬礼で答えた。


 旧世代、老人たちの温い考えに疑問を持つ若い世代をアッセンドラと、レナルディアンのもとに集まってきた。


 レナルディアンは間違いなくクーデターを考えてはいた。

 ただし、現時点でその基盤は整っていなかった。

 だが、7隻の新造艦にレナルディアンもアッセンドラも目が眩んだとしか言いようがなかった。


 アッセンドラはレナルディアンが更迭されたことを知らない。

 政界と軍部で同時に決起する作戦は既に潰えていた。

 だが、アッセンドラは連携を取っているつもりで、今事を進める気になっていた。


「続いて2番艦「ベルリン」、3番艦「プラハ」砲撃準備。こちらの方も自社の準備にかかれ。」


 まだ苦悶の表情で横たわった二人を無視して、他の乗務員が忙しく伝令の内容を艦内と、他の艦への連絡を早急に伝えるべく走り回った。


 3発目が命中したはずの岬に目を向けて、アッセンドラはあまりの衝撃に叫びそうになった。


 敵、偵察隊はまったくの無傷だった。




「直撃、だったと思ったんだけど、な。」


 クサナギ隊長が4重に張られた薄い皮膜のような防御障壁に絡めとられて浮いている流線型の砲弾を見つめながらつぶやいた。


 砲弾は第1障壁と第2障壁に食い込み、停止している。


 ニシムロ准士官は障壁を解除すると同時に、その浮いている砲弾を手元に引き寄せる。


「ちゃちなもんですな。空気抵抗を減らすための流線形なのに、前が潰れている。」


 引き寄せた砲弾を両手で持ち上げた。


「それはニシムロ准士官殿の障壁にぶつかってできたものでしょう。」


 ツーグニック曹長が少し苦笑いを浮かべて、そう正した。


「そうか。最初から潰れてるわけではないか。でどうなさいます、ディッセンドルフ君。」


「そうですね、頂いたものは利子を付けて返すのが礼儀でしょう。」


 そう言うとディッセンドルフは岬の岩場に隠れている部隊員を後ろに下がらせた。


「ディッセンドルフ、どうする気だ。」


「この砲弾をシーセキノ海軍基地に近づいている船にお返しするだけです。オオジコバ‼」


「はい!先輩なんでしょうか?」


「あの大きな長筒を再現できるか?この砲弾の口径だ。」


「承知いたしました。ではこの岩で。」


 そう言うとオオジコバは何かを唱えながらも、岩を撫でつけた。


 すると岩が細かく崩れて、敵の艦艇に据え付けられた大砲にそっくりなものがそこに出来た。


「射出の推進力は何を使われますか?魔導でもいけますが…。」


「いや、この辺りは硫黄やリンが豊富に岩にあるようだ。さすがは火山で隆起してできた土地だけはある。こいつらを生成して、レオパルド連邦の火薬を再現してみよう。」


 先程のオオジコバの砲門錬成時に綺麗に粉になったものを、ディッセンドルフは軽く手をかざすと、黄色っぽい粉がディッセンドルフの右手に溢れるくらい出現する。


 岩で作られた砲門を少し上に向けその中に黄色い粉を入れた。


「配合が間違っていなければこれでいけるはずだ。」


 ニシムロ准士官が丁寧に砲弾をその岩の中に入れ。


「おお、凄いなこいつ。この砲弾の口径とぴったりだな。」


「ディッセンドルフ、奴らの2番目と3番目が舵を切って、シーセキノ海軍基地に艦首を向け始めたようだ。砲門も発射の準備が整いつつある。」


 イザナギがディッセンドルフに望遠鏡での観察結果を報告した。


「おお、ちょうどいいように横っ腹をこっちに見せつけてきたな。行けるか、オオジコバ。」


「はい。砲弾は手製の火薬に完全につけて、さらに今、魔導で圧をかけています。」


 オオジコバがその大筒に触れながらディッセンドルフに報告した。


「このままで撃ちますか?」


「いや、私がこの砲弾に爆発性の魔導を纏わせて射出させる。わが友に撃った宣戦布告を後悔させてやる。」


 わが友。


 イザナギ・バーニングはその言葉に心を打たれた。

 入学当時では考えられないディッセンドルフの言葉だった。


「この砲弾射出後の防御障壁お願いします。」


 ニシムロ、サーマル、アンドリューが頷く。


「目標、こちらを攻撃してきた艦の左側で回頭中の艦艇の中央側面。オオジコバ、撃て!」


「発射‼」


 砲塔となっている岩が崩れないようにオオジコバは魔導で幕のような結界を張り、火薬に火をつけた。


 瞬間、火薬が爆発。

 その勢いが一気に砲弾を押し出す。

 そこにディッセンドルフがさらに加速をかけた。


 敵、新造軍艦が打ち込んできた速度をはるかに超えた初速で打ち出された。

 さらに「神の子」ディッセンドルフが加速させていく。


 山なりの軌道を描いたレオパルド連邦軍艦「リヒテンシュタイン」の大筒に比べ、この砲弾はほぼ直線で艦艇に向かった。


 着弾、そして爆発。


 一瞬のうちに業火がその艦艇を包み込み、さらなる爆発が続き、沈んだ。


 その速度があまりにも早かったため、着弾の衝撃で海に飛ばされた以外の者たちは、5番艦「プラハ」と運命を共にした。


 この紛争で、初めての死者が、レオパルド連邦軍の側で出た瞬間だった。




 アッセンドラ艦隊司令は、自分の席からずり落ちて、床に座り込んでいた。


「一体、何が起きたんだ?」


 こちらの最新兵器「大筒」が直撃したのはずの敵斥候部隊はまったくの無傷。

 そう思ったのもつかの間、敵の斥候部隊に、わが軍の誇る大筒そっくりの砲が出現し、撃ってきた!


 その結果、シーセキノ海軍基地にその目標を変えた5番艦「プラハ」に対して、放物線を描くことなく直線で撃ち込まれ、一瞬のうちに爆発、沈没したのだ。


 巨額を投じ、時間をかけ、最新鋭の蒸気機関を動力として搭載、そして長筒より効果も射程距離も大幅に向上させた「大筒」を前に3門、後ろに1門装備した、最新鋭戦闘艦、国名をそのまま名前にするほどの、このレオパルド連邦の象徴ともいえるレオパルド級5番艦「プラハ」がたった一撃で海に沈められた。


 ほとんど精神は恐慌をきたしていた。

 すでにこの艦隊司令を止めるべきイージス艦長はもういない。


「す、ス、すでに、は、発射、で、で、出来る、砲を!」


 そこで一度口腔内に溢れている唾液を飲み込む。


「砲を撃て!目標は、敵偵察部隊。他の艦にも伝令!すべての砲をあのこざかしい岬に集まってるやつらに叩き込め!」


「司令、沈んだ「プラハ」の乗務員の救助を、グハッ!」


 アッセンドラに仲間の救助を要請していた敵探索手が、言葉の途中でアッセンドラに力任せに殴られ、床に突っ伏した。


「救助などもう手遅れだ!全艦に、岬を照準を取り、砲弾をにぶち込むように伝えろ。」


「はい!」


 殴られ床に突っ伏している兵士を誰も見ることなく、この艦の最高権力者に従った。


 目の前で僚艦がいともたやすく沈められたことが、乗務員にも恐怖感を植え付けたのだ。


 すでに砲撃準備が整った第1砲門と第2砲門に、発射命令を出す。


 砲撃手たちが、砲門を動かし、セキノ岬に照準を合わせた時だった。


 レオパルド級1番艦「リヒテンシュタイン」を中心に、艦隊は光に包まれた。




 岩でできた砲門を使って射撃を成功した後、ディッセンドルフは大きくため息をついた。


「やっぱり、即席の砲塔だと耐久性がないんだな。」


 自分の魔導力で岩の砲塔を支えていた力を開放した。

 その直後、岩の砲塔が粉々になって崩れ落ちた。


 サーマルは崩れ落ちた砲門から、その成果の光景に目を移した。


 ところどころ爆発を繰り返し、傾きながら沈み始めていた。

 しかし、他の艦艇はその沈んでいく艦に救助に向かう行動を起こすようには見えなかった。


「新造艦があっさり沈んでいくのに、助けようともしないのか、あいつらは。」


「サーマル。奴らは救助どころか、まだ我々に対しての敵意をさらに燃やしたようだな。こちらに砲門を向けて、完全攻撃態勢だ。あっさり沈められたというのに、こちらの戦力を全く考えていないようだ。」


「そうですね、ディッセンドルフ様。先程まであの新造艦に乗り込んでいた「神の言葉」教司祭のミッドガルドによると、艦橋内部で争いがあったようです。」


「争い?」


「はい。レオパルド連邦で、先のオーストウッド海戦を実際に知らない世代が台頭してきているようです。「新世代」と呼ばれる彼らが、旧勢力とする幹部たちにクーデターまがいのことを起こしたようです。今、ディッセンドルフ様が沈めた軍艦、あれが全部で7艦あるそうですが、この戦力を得ての暴挙と思われます。」


「その司祭は無事なのか?」


「既に1番艦、「リヒテンシュタイン」という艦名がついているそうですが、から天井を破壊して、わたくしの指示で艦長を連れて逃げました。今はレベッカ海峡に近い「神の言葉」教の教会からこの光景を見ています。」


「つまり、アンドリュー様はその司祭と情報のやり取りをしているとのことですね。」


 かすかな笑みを浮かべて、肯定の頷きを返した。


 この岩場の戦場において、アンドリューの所作はやはり優雅にその場にいる者に映った。


「彼らの狙いは解りますか?クーデターも含めて。」


 ディッセンドルフが考えこみながら、アンドリューに相手側の出方を聞いた。


「司祭が知ってる限りの話になります。司祭はあの「リヒテンシュタイン」で、艦長と艦隊司令のやり取りと、心の声を聴いていたそうです。艦長はこの艦隊を見せるだけで、この国、ジョバンニュ・クリミアン連合王国が、レオパルド連邦に手を出させないための抑止効果を念頭に置いていたようですが、その艦長より若い艦隊司令がこちらのシーセキノ海軍基地を陥落。その後連合王国政府と交渉を行い、この海の島々を手中に収め、その功績を持って、連邦国内で政権の主導権を確立するという筋書きのようです。」


「何という稚拙な計画だ。だから仲間を助けもせず、こちらに艦を向けているという訳か。」


 信じられないというような顔を見せた。


「では、先程のようなこちらからの攻撃ではらちが明かないというわけだな。」


「おそらくは…。」


 ディッセンドルフは頭を抱えて、その場で懸命に考えた。

 すでに相手の軍人とはいえ、かなりの人命を奪っている。

 だが、下手に時間を与えれば、こちらの軍人だけでなく、一般の人間の命も奪われかねない事態だ。


 運がいいというべきか。

 相手は軍艦という海上にいる兵器だ。

 周りに被害が出る危険性も少ない。


 やってみるか。


「オオジコバ、手伝ってくれ。あの艦艇の半分くらいを消失させて、戦闘を続行できないようにしたい。最低でも、あの艦橋が吹っ飛んでる船は消す。」


 ディッセンドルフはそう静かに宣言した。


 長身で体格もいいオオジコバがにやりと笑った。


「「神の子」の力、ですか。」


「どう思ってもらっても構わない。ただし、どのくらい、周りに影響が出るか全くわからない。アンドリュー様、サーマル、ニシムロ殿。最大限の防御障壁を展開させてくれ。できるのならシーセキノ海軍基地からこの岬の反対側にある漁港まですべて。」


 そのディッセンドルフの願いに、サーマルは背筋が寒くなった。


 「神の子」ディッセンドルフは、その力の限りを使うつもりなのだろうか。

 であれば、こちらに直接攻撃をするわけでなくとも、どれだけの被害が発生するのだろうか。


「仮に、あの艦艇群に強力な魔導士がいても、力でねじ伏せるつもりだ。目的は、この戦争の早期の終結。そのためにあの艦隊を消し飛ばす!」


 ディッセンドルフの静かな怒りがその場の全員に伝播した。


「ディッセンドルフ、俺も防御の参加させてくれ。。」


 イザナギが戦闘状態に入るための瞑想に入る直前、そう声を発した。


「お願いします。後、防御障壁を張ることのできる人は参加をお願いします。」


 静かにそう言って、ディッセンドルフは目を瞑り、瞑想に、精神の集中を開始した。


 オオジコバは近くの岩を削り取り、人の頭位の岩をディッセンドルフの目の前の空間に固定した。

 すでにオオジコバはディッセンドルフが何をしたいのかを理解していた。

 だがその結果が、どのような形になるのかは想像がつかない。


 ディッセンドルフがゆっくりと瞳を開き、目の前の岩に睨むようにみつめた。


 岩が音もなく消えた。


「全員シールド展開!極力、地面に伏せろ!」


 その言葉が終わるか終わらないぐらいで、一気にそのあたりも光に包まれた。


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