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「神の子」  作者: 新竹芳
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第14話 学生議会役員室にて

 レオパルド連邦との戦争。

 だが、この国とかの国の間にはレベッカ海峡が横たわる。


 仮に全面戦争になれば、この海戦が重要になることは誰もが理解している事であろう。


 このジョバンニュ・クリミアン連合王国は島国であることから、国外からの侵攻はこの海という最大の防御が成り立っていた。

 が、もし侵攻対象にされた時、長い海岸線は防御には不適切である。

 そこには上陸ポイントが多数ある。


 要所とされる海岸には基地と要塞が5か所あった。


 基地には帆船と小型のボートがある。

 どちらも魔道工具を用いて航行を可能にしているが、ここに魔導士が乗り込み、その航行速度を早めてはいた。


 統一戦争時、ジョバンニュとクリミアンの間の海、バラライカ海峡には多くの船舶があったが、反対のレベッカ海峡にも船舶は多数ある。

 しかしそれは商船が多数を占め、軍籍の船舶は少なかった。


 それに対し、レオパルド連邦は多くの軍艦を製造していた。

 商船を改造したものも多いが、魔導士の数が少ないことにより向上した技術力によるところが多かったのは皮肉なことだろう。


 ゴルネイエフ商会だけではなく、多くの民間企業から政府はその事実を探っていた。

 その一端を担っていたのは「神の言葉」教支部である。


 時間が空くと聖女アンドリューはすぐにディッセンドルフに会いに来ていた。

 そのアンドリューとの会話で、オオジコバが伝えてきた情報の真実味を痛感する結果になった。


「だが、我々学生でできることはないな。」


 魔導士専攻科に進んだサーマルがアンドリューとオオジコバの情報を聞き、言った。


「最悪の展開になれば、我々も動員されることになるぞ。」


 騎士専攻科6年で現会長のガマンデル・リルバルトが告げた。


「魔導士が戦力となることは間違いないし、それが【言霊】持ちとなればなおさらだ。」


「会長は戦争に行きたいのですか?」


 マリアバナール・オキツシマは現在魔導士専攻科6年で、学生議会副会長の役職に従事していた。


 ディッセンドルフに対する恩義と憧憬を宿すその瞳が、ガマンデル会長に向けられ、そう問いかけた。


「行きたいわけがないよ。僕は騎士団に入るのは、この国の人々を守りたいだけだ。人を殺したいわけではない。」


「ですが、攻め込まれれば、国民を守るために相手を殺すことになると思いますが…。」


 サーマルがそう聞いた。よくある戦争での人殺しの論争だ。


「攻められたら当然、守るために敵を倒す。だが攻め込むとなれば話は別だろう。」


「そうですね。私もできれば人を殺したくないとは思いますが…。」


「私が前に出るよ。みんなを前線には出させない。」


 ディッセンドルフの発言に、サーマルが驚いた顔をしたが、オオジコバとアンドリューはその言葉に頷いた。


「ディッセンドルフ様にかかれば、レオパルド連邦軍など取るに足りない存在だと思います。」


「先輩なら「魔導士戦争」の再現になるでしょうね。」


 二人ともディッセンドルフの力を疑っていなかった。


「「魔導士戦争」の再現とは恐れ入ったね。」


 ガマンデル会長がオオジコバの言葉に皮肉がかった口調で感嘆した。


「ですが、ディッセンドルフ君なら、本当に出来てしまいそうです。」


 憧れの目でディッセンドルフを見つめているマリアバナールがそう賛成の弁を口にした。


「確か「魔導士戦争」で「神の言葉」教に保護された数十人の魔導士が、20万の大軍を殲滅したんですよね。」


 サーマルが歴史を思い出しながらアンドリューに確認した。


「ええ、我が教会の当時の教皇、ヨハネスク・サー・マルドリグ様が率先してレオパルドとランスの兵隊に対峙して、雷と地震の奇跡を起こしたと伝えられています。」


 その言葉にオオジコバの使用した魔動力を思い出した。


 自然が起こす災害級の天候操作。


 そんな魔導力を持つ者に、恐怖を感じるのは当然と思ってしまう。


 「悪魔狩り」が人の醜さをあぶり出したのは間違いない。

 だが根底に恐怖があったことも事実なのだろう。


 本当に強大な力を個人で持っていたとして、その者が正義の人ならいざ知らず、個人の欲のままに使われたとしたら?


 力なきものから見れば、到底看過できないだろう。


 ディッセンドルフは、自らの力が何のためにあるのかを充分理解していたが、オオジコバはきっと何も知らないのかもしれない。その「神殺し」の意味を。


「イザナギ・バーニング元会長は国家騎士団に入団したんだろう、イザナミ君。」


 サーマルに声を掛けられた学生議会役員の女子生徒イザナミ・バーニングは、自分の8歳上で、今はレベッカ海峡とは反対側、バラライカ海峡に近いセキノコ駐屯所の守備隊で忙しい毎日を送る兄イザナギ・バーニングを思い出した。


「はい!テラノ先輩。マンチェストリア市のセキノコ駐屯所で斥候部隊に配属されたそうです。」


 イザナミは2年前の魔獣侵入時のディッセンドルフ達の活躍は伝説として聞いているにすぎない。

 だが、去年の入学式の暴動の時には現場にいた。


 あのオオジコバの暴走ともいえる力の行使をした時の恐怖は、いまだにイザナミのトラウマになっている。

 その為、この同じ部屋にオオジコバがいることに緊張はしていた。

 しかし、ディッセンドルフとサーマルの存在はイザナミにとって心強い存在であった。


 あの事件を被害を最小限に抑えた「神の子」ディッセンドルフ、周りの人を防護障壁で守ったサーマル・テラノと「神の言葉」教の聖女アンドリュー・ビューテリウムはイザナミにとって兄以上の憧れである。


「オルネイドリー元会長も確か騎士団に入団したんですよね?」


 マリアバナールが、騎士団という単語で思い出したように尋ねた。


「オルネイドリーさんは、わが聖教騎士団に入団されましたよ。いまはロメン法国で、「神の言葉」教の教義と共に心の研鑽に従事してると思います。」


 アンドリューのその説明に、オルネイドリーの聖教騎士団への入団を希望した時をサーマルは思い出した。


 確か、やけにディッセンドルフが驚いていた。

 魔導力も充分ある先輩だが、「神の言葉」教の信者という事は聞いていなかった。

 それ以上に武闘派のイメージが強い。

 だからこそ、出身地の国家騎士団の支部を受けていたはずだ。


 その時にディッセンドルフはオルネイドリーに、なぜ聖教騎士団に決めたのか尋ねた。


「アンドリュー様の様になりたい。」


 さすがに変な顔をしたことを覚えている。


 聖女と言われ、オルネイドリーの風貌を鑑み、あまりの差に、先輩ながら似合わない、と思ってしまった。


 聖女とまで言われる長く綺麗なプラチナの輝きを放つ髪と、知性と慈愛を感じる碧い瞳、笑みを絶やさない口元など、見た目のみでも聖女という名に遜色がない。

 そこにこの国随一と言っていい治癒・医療回復の魔導力を有する「神の巫女」の【言霊】持ち。


「アンドリュー様になるのは難しいのではないか?」


 ディッセンドルフはたっぷり5分以上考えた後、疑問を呈した。


「きみね~。仮にも上級生なんだからな。もうちょっと言葉遣いを、というか敬う心を持ってほしんだけど。」


「今更、だと思いますが、先輩。」


「まあ、いいわ。何も今の聖女様になりたいって言ってないわよ。「神の言葉」教は世界的に多くの機関を持っている。聖教騎士団に入れば、もしかしたら世界のために戦えるかもしれない。ロメン法国が「魔導士戦争」を止めたようなことが。」


「水を差す用で申し訳ないが、聖教騎士団は、世界の平和を守る騎士団ではありませんよ。あくまでも「神の言葉」教を守る騎士団のはず。」


「そうよ。でもねこの国もそうだけど、かなりの国に「神の言葉」教が浸透してる。ユーテリウス大陸の西側だけでなくで、大陸の中央の世界の尾根、エレデウス山脈の東側、マジスア諸国の哲学教が広まってる地方にも、特にシンパニウム皇国という国を中心に「神の言葉」教が広まってるそうよ。」


「ああ、歴史の教科で教わったことあるよ。「悪魔狩り」の終わりのころ、レオパルド帝国の革命時、皇帝一族の一部の人が逃げた国だよね。」


 サーマルが無邪気にそんなことを言った。


「そう。だから「神の言葉」教を守る聖教騎士団に入団すれば世界を守ることと同義だと思うの。」


「でも、アンドリュー様のようにというのは…。」


「しつこいよ、ディッセンドルフ!いくら「神の子」でアンドリュー様に寵愛されているからって、その上から視線、我慢できないわ。」


「上から言ってるつもりはないんだが。」


「いい。私があんな美しくなると言ってるんじゃないの!オオジコバが暴れたときのあなた達やアンドリュー様のように、誰も死なせることなく、さらに相手を殺すことなく、諍いを鎮められるようになりたいって言ってんの!最後まで言わせんじゃないよ!」


「つまり、先輩は自分の身を挺してまでも人を守った俺やサーマルみたいになりたい!でも、本人を目の前にして、それを言うのが恥ずかしい、という事ですね?」


「ディッセンドルフ!勝てるとはとても思わないけど、純粋剣技場で叩きのめしてやる!」


 サーマルはそんな愛すべきオルネイドリー先輩の恥ずかしさで真っ赤になった顔で怒ったように言ったのを思い出し、ふと笑った。


「思い出し笑いは気持ち悪いぞ、サーマル。」


「お前も同じことを思い出していたはずだろう?口元が笑っているよ、ディッセンドルフ。」


 明らかに笑みを漏らしているディッセンドルフの表情も今ではそれほど珍しくはなくなった。

 入学当時の能面のようなディッセンドルフが、今では懐かしい。


「本当に、戦争が起こるなんてことがあるのでしょうか?」


 マリアバナールがディッセンドルフとサーマルのやり取りを微笑ましく見ていたアンドリューに恐る恐る尋ねた。


「それは何とも言えません。この国とレオパルド連邦は表立っての問題は今の所ないはずです。この前、法国での支部長の集まりがありましたが、エレデウス山脈近くで異教徒同士の紛争地域について、何らかの行動が必要かどうかを論じることはあったんですが…。とりたてて「神のお言葉」を聞くことはありませんでした。」


 「神の言葉」教の教義そのものである「神の言葉」は、【言霊】に限らない。アンドリューを含めて、支部長や、教皇の侍従たちも「神」が何かを人にやらせたいときには「言葉」を使うのだが、そこに集うものは直接その「言葉」いわゆる預言を賜れる者たちであった。


 例外は存在する。

 その最たるものが「神の子」ディッセンドルフである。

 特別な「神の子」ディッセンドルフには他の預言を賜れるものでは決して知りえない「神」の本心を聞く立場にあった。


「ですが、レオパルド連邦は魔導士の数こそ少ない者の、強国であることは間違いありません。連邦の代表であるナオレンド・サー・ミルクルス総統は温厚派ですが、彼の政党「真実党」は決して平和主義者の集まりではありません。特にジョバンニュ・クリミアン連合王国に船舶を沈められた過去を恥と思っているものも多くいると聞いています。」


「連邦防護省政務次官のハックマイダー・レナルディアンはたしか連邦海軍の将官という経歴があります。」


 オオジコバが連邦政府の人事に関した意見を述べた。


「それは嫌な情報だな。」


「はい。安心できない情報です。」


 ディッセンドルフの呟きにオオジコバが答えた。


「ここで世界の情勢について話をしていても仕方ない。今度ある剣技大会についての打ち合わせだろう、今日の会合は。」


 ガマンデルが本来の議題を告げ、全員を見た。

 が、聖女アンドリュー・ビューテリウムに視線を合わせると、顔を赤らめて自分の手に視線を逸らしてしまった。


「会長、可愛い♡」


「う、うるさい!」


 マリアバナールがそんなガマンデルを揶揄う。


 二人を見つめるアンドリューが微笑む。


「でも、ディッセンドルフが出場すると優勝はこいつが持ってちまいますよ?」


「今回は解らんだろう。」


「オオジコバですらお前に簡単に負けている。今ならプロミネンス教官すら勝てないんじゃないか?」


 ディッセンドルフがその言葉に黙ってしまった。


「当然3年連続で優勝した奴は殿堂入りで出場はなしだ。」


「そんな規約、ありましたか?」


「知らなかったのか?学生議会幹部会で決定した。」


「何時?」


「今だ。お前たちが話しているうちに7人と学生議会名誉顧問様が賛成した。」


 ディッセンドルフがその場にいる全員を見回した。

 別に出場できなくとも何も思わないが、こういうやり方は、気に入らない。


「ディッセンドルフ様、あまり怖い顔をしないでください。それでなくともディッセンドルフ様の目を盗んでこんなことをしてるんですから。3年連続優勝したものを剣技大会殿堂入りとして、参加はエキジビジョンマッチのみとする。こんな文面をまわしてサインしてたんですよ。」


 軽い笑うを口元に浮かべ、冷たい目で周りを見ていたディッセンドルフにアンドリューが紙面を渡す。

 その一番下に騎士魔導士学校学生議会特別名誉顧問と書かれた欄に「アンドリュー・ビューテリウム」のサインがしてあった。


 簡単に紙面をディッセンドルフに渡すアンドリューに、ガマンデルが慌ててその紙に手を伸ばす。

 が、届くわけがない。


 ディッセンドルフは軽くため息をついた。


「破ったりはしませんよ、会長。しかし、いつからアンドリュー様はこの議会の顧問になったんですか?」


 この質問にアンドリューが少し頬を赤らめた。

 その表情に、マリアバナールが尊いものを見る目でアンドリューを見つめている。


「いえ、あまりにも私がこの騎士魔導士学校学生議会役員室に足を運ぶもので、会長さんが学校と交渉してこの役職が付きましたもので…。」


「アンドリュー様は、教会の職務は大丈夫なのですか?純粋に心配になります。侍女の方も必ず控えておりますし。」


 ディッセンドルフが困った学生を前にした女教師のような瞳で、アンドリューを見た。


「ええ、それでしたら全く問題はございません。もともと聖女の仕事は顔を出してさえいればよいものが多く、教会の代表の仕事は、各司教に任せておけば、まず間違いはありません。本当に困れば私が対処しますが、そんな仕事は3日に1度くらいです。」

「逆にアンドリュー様でなければ解決できない問題というものを知りたいところですよ。」


「大したことはございませんわ。大抵は貴族方同士の領土の問題か、上級魔導士の喧嘩くらいですから。」


 アンドリューの言葉にガマンデルはじめ、ディッセンドルフ以外の者が驚嘆の顔をアンドリューに向ける。


「領土問題って、一歩間違えたら、殺し合いでしょう?」


「いや、上級魔導士の喧嘩って、人死にが出ますよ。」


 オオジコバとサーマルがそれぞれに私見を述べる。

 本当にとんでもない問題のようだったが、ディッセンドルフにしてみれば力で恐怖を示せばそれで終わりという様なものだ。


「ディッセンドルフ、お前、力任せで終わりとか思ってなうあだろうな?」


 相変わらずディッセンドルフのことはサーマルはよく解っている。


「皆さんが思うほど難しくはないんですよ。私が出向いて、落としどころを話し合えばそれで終わるんですから。」


 これが聖女の力か。


 ディッセンドルフを除く皆が、そう思った。

 特に信者であるオオジコバはその言葉に涙を流していた。


「とりあえず、ディッセンドルフを除き、出場者を募る。当日のスケジュールはいつも通りだが、優勝者が望めば殿堂のディッセンドルフとエキジビジョンマッチを行うというところでいいな。」


 ガマンデルの言葉にディッセンドルフも渋々頷く。

 他の役員、マリアバナール、サーマル、オオジコバ、そして書記を務める2年のイザナギ・バーニング、魔導士専攻科5年書記長のサーニャ・サカキ女史、3年男子のザングスト・オーレル、そしてアンドリューが大仰に頷き、あっさり会合が終わった。


 その時だった。


 廊下を大きな音が迫ってきた。

 と同時に勢いよく役員室の扉が開いた。

 早駆けようの衣装をまとったゴルネイエフ商会の40代の男が駆け込んできた。


「オオジコバ様、ご当主様より緊急の伝言です。」


「義父上から!何事だ!」


 その男が口を開こうとしたところ、軽装の教会服を着た女性、聖女の侍女が駆け込んできた。

 だが、いつもそばにいる女性とは違う人物だ。


「アンドリュー様!教会より緊急の思念通信が!」


「何事です!」


 座っていた椅子から立ち上がった。


「「レベッカ海峡に鉄の船が現れました。レオパルド連邦の軍艦です!」」


 二人が同時に叫んだ。


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