第13話 戦争の匂い
今回は説明会になっております。
この世界について、少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。
ジョバンニュ・クリミアン連合王国。
セント・マンチェス島とその大きさの四分の一ほどのクリムンド島という2つの島と近隣の島を国土として持つ島国である。
もともとはそれぞれの島で王国を築いていたが、度重なる戦争で2つの島国国家が統一。
神歴1857年のことである。それから400年余り、この2つの島からなる連合王国として月日を重ねてきた。
政治形態こそ国王主権から国民主権へと変わったものの、いまだ身分制度が定まっており、第一身分たる「神の言葉」教の僧侶、第二身分たる貴族、第三身分の平民という決まりが存在している。
議会も存在するが、その定員が第一身分100名、第二身分100名に対し、第三身分は80名である。
身分制度の改革を起こそうとしても数の優劣がはっきりしている中では、うまく機能することはなかった。
また、貴族の中にも制度が厳格に決まっている。
それぞれの位にはそれ相応の資格と責任が存在しているが、一度その身分を取ってしまえばある意味その自分の持つ領土は治外法権となり、他のものがおいそれとは手出しができなくなる。
公・候・伯・子・男の爵位に次いで新、新次という爵位が出来た。
新次爵はそのものの功績が非常に大きい時に一代に限り、平民に与えられる爵位である。
新爵位は平民の中でも特に国に対して功績が大きく、数世代先までこの国に貢献しうる家系に与えられる。
そして5年をめどに審査され、貴族としての品位や責任感と言ったものを持つと認められると、男爵に爵位を上げることとされている。
逆に国王や国に対して、またその爵位を穢すようなことをすれば爵位の抹消という伝家の宝刀を国王や貴族院と呼ばれる機関は持っていた。
現在の国王は元々セント・マンチェス島の国家だったクリミアン王国の血筋のものである。
クリムンド島の国家、ジョバンニュ王国の血筋は大公の称号を持つ、クリミアン家とは姻戚関係を持っている。
この国は統一戦争時に魔導士の有用性をよく熟知しており、特に【言霊】持ちの力が大きかったことも経験として知っていた。
そのため「神の言葉」教の権威も高く、その立場を擁護してきた経緯を持っている。
しかしながら、この国の東側に位置する大陸の国々では全く違う扱いを受けていた。
東の大陸、ユーテリウス大陸と名付けられたこの大陸には様々な国があった。
「神の言葉」教の発祥の地とされる、南部に位置する宗教国家ロメン国は教祖ジーニアス・ソウラングの誕生した土地であったが、その奇跡の力に恐怖した当時のロメニウル帝国の皇帝に処刑された。
しかし、その時より様々人々に「神の言葉」が降り注ぎ、結果的にはロメニウル帝国の国教にまでなった。
だが、その言葉は全ての人に降ったわけではなかった。
やがて時がたち、人々の間でその力の差はあれど、魔法が普通に使われる時代が訪れた。
そのため、「神の言葉」教の重要性は増していく。
だがこのことは、時の権力者にとって非常に不都合が多かった。
状況によっては、自分たちの権力を揺るがすほどの大きさを持つこともあったからだ。
魔法は既に生活には不可欠になっていた。
だが必要以上の力を国民が持つことを良しとしなかった権力者は、「神の言葉」を賜った物を様々な手法で排除を開始した。
世に言う「悪魔狩り」である。
「言葉」を受けた者は悪しき魔物、悪魔であるとして、次々と殺害していったのだ。
その政府に対抗して反撃しようものなら、それ見たことかというように人々が悪魔を認めていったのだ。
一説には10万人もの「言葉」持ちが殺され、その10倍以上の普通の人が惨殺されたと言われている。
結果的には国としての戦力が著しく低下した。
人々は気に入らないものを密告し、金持ちを密告し、貴族を密告し、自分に振り向かなかった女性を密告し、教師を密告し、隣人を密告し、親を、子供を、妻を、夫を密告した。
本当の「言葉」持ちは、当時「言葉」持ちを優遇していると噂された島国を目指して脱出していった。
統一戦争がほぼ終わろうとしていたジョバンニュ・クリミアンは、多くの【言霊】持ちを失った欠員を、海を渡り亡命してきた者を重用して国を作り変えて行った。
「悪魔狩り」を実質取り仕切っていたランス帝国宗教省大臣、リュージュリアン・サルフォン・バラスジリアンの権力の増大を皇帝マラウ・ルーン14世は恐れた。
皇帝はリュージュリアンが考案したギロチンでリュージュリアン自身の首を切断し、「悪魔狩り」は終わった。
ランス帝国の「悪魔狩り」終結を受け、近隣諸国もこの異常な虐殺に幕を閉じていく。
そしてそこには海のすぐ向こうに建国されたジョバンニュ・クリミアン連合王国という脅威が迫っていた。
実際に【言霊】持ちを多く持つ魔法師団を有するかの国は脅威以外の何物でもなかった。
ランス帝国皇帝、および国土防衛局は「言葉」持ち、この国では【祝福】持ちと呼ばれていた強力な魔導士が極端に少なくなってしまっていた。
そのため、魔法を使うことが出来ない以上、一般人が扱える武具、武器の開発が急ピッチで行われ、火薬が作られた。
その爆発力をそのまま破壊用としたり、さらに金属塊を遠くに飛ばす長筒が開発されていった。
統一戦争の終了し、建国されたジョバンニュ・クリミアン連合王国は、しかし国外に対しての関心は極度に低かった。
統一はされたとはいえ、依然反対勢力は存在し、さらに荒れた国土の再開発に重きを置いていたためである。
ユーテリウス大陸で吹き荒れた「悪魔狩り」の情報は当然ジョバンニュ・クリミアン連合王国にも伝わってきていた。
しかし海を隔てた大陸への野心はこの時に連合王国政府にはなかった。
それ以上に荒れた国土の再開発中に大陸側が攻め込んでこないことに安堵していたのである。
だが、ユーテリウス大陸の大国の一つであった、レオパルド帝国は「悪魔狩り」により国力が低下、人民の蜂起による革命で皇帝が殺され、皇帝一族のほとんどが死刑、もしくは流刑となり、その革命軍の手を逃れた一部の者がユーテリウス大陸の極東の国、シンパニウム皇国に辿り着く。
レオパルド帝国はレオパルド共和国となり、民主主義を根底とした議会政府が国を運営している。
しかし、戦力の低下は魔導力をもつ魔導士の不足が原因であったため、大陸の各国は争奪戦を開始してしまう。
のちに「魔導士戦争」とまで言われる戦争の勃発であった。
魔導士を確保するために魔導士を戦争の道具として使う。
矛盾したこの戦争は、主にランス帝国とレオパルド共和国を中心に起こった。
大陸の西部に位置する国々のほとんどが巻き込まれた。
「悪魔狩り」の時代に「言葉」持ちや魔導士を保護していたロメニウル帝国の分裂後、宗教国家として狭い国土で魔法の開発と国土の良質化に努めていたロメン法国もその魔導士の保有数に於いて危険視され、さらにその魔導士欲しさにレオパルド、ランスから自国に取り込もうとされた。
小国であり、ほとんどの者が農民というこの国であったが、「言葉」持ち、このロメン法国では【運命】持ちと言われた人々は、迫害してきたこの2大国に恨みを持っていることを、迫害してきた者たちは失念していた。
それぞれ10万以上の兵士を送り込んだ国の思惑を完全に覆し、魔導士たちは侵略軍を完全に殲滅したのである。
魔導士たちがどれほどの戦力になるのか、特にその魔導士たちが集まった時の想定外の戦力は両国にとって致命的であった。
このロメン法国侵攻により、事実上の「魔導士戦争」が終結した。
その後、ランス帝国の皇帝の失脚により、レオパルドがランスを併合、レオパルド連邦が成立した。
この「魔導士戦争」はジョバンニュ・クリミアン連合王国にも出兵があったが、海を渡る途中で連合国軍の国家魔法団により掃討されていた。
この戦争後、ロメン法国の影響力は大きくなった。
と同時に「神の言葉」教の影響力が大きくなり、各国に大使館とも言われる支部を持つにいたる。
レオパルド連邦内にも支部が作られ、連邦政府の運営に絶大な影響力を手に入れた。
しかしながら、魔導士の数が少ないレオパルド連邦は一般人が使用でき、成果の大きいランス帝国の技術力をさらに発展させていかざるを得なかった。
元ランス帝国内には鉱物を多くふくむ鉱山が多数あった。
その資源を生かし、魔導力なしで動くことのできる機械を開発していく。
さらに、ジョバンニュ・クリミアン連合王国に対するため、船舶の開発にも力を入れ、さらに国土の復興も順調に進んでいた。
ロメン法国、および「神の言葉」教の協力で、現時点ではジョバンニュ・クリミアン連合王国とレオパルド連邦は比較的友和的な関係を築くことができている。
神歴2213年、こういった状況の中、ディッセンドルフは騎士魔導士学校騎士専攻科4年に進学した。
ディッセンドルフが3年時の時のオオジコバによる騒動は、ディッセンドルフによるオオジコバの無力化という手段で鎮静化され、聖女アンドリュー・ビューテリウムの力の封印により、その後大きな騒動はなかった。
そしてなぜかディッセンドルフについてくるようになった。
ディッセンドルフがオオジコバ・ゴルネイエフを庇ったのは事実だ。
警備騎士隊での事情聴収に応じたディッセンドルフは、オオジコバの立場を鑑み、擁護に回った。
実際にアンドリューの封印を受けていることと、ディッセンドルフがオオジコバの攻撃を防いだことにより、首席の恩恵をすべて返上し、一般生徒として模範的に学ぶことを約束し、1か月の停学で事は済んだ。
4年の進学時にディッセンドルフは騎士専攻科を選んだ。
正直なところ、魔導士の学問内容は既にディッセンドルフは全てを知っていた。
自分にとってはもう必要なかったのだ。
それに比べれば剣技もさることながら、戦略・戦術論は集団戦というものが新鮮だった。
今まではすべて一人で戦ってきた。
集団戦が必要なかったのだが、世界の事情がどうもきな臭くなっていた。
海、レベッカ海峡を隔てて対峙するレオパルド連邦とは、今のところ目立った敵対行動はない。
だが、お互いの国に送り込んでいる諜報員同士の駆け引きが激化しているようなことをプロミネンス教官がこぼしていた。
状況に応じて国家騎士団所属の教官が徴兵されることになる可能性があるらしい。
さらに、貿易の品目に、レオパルド連邦所属の商社がジョバンニュ・クリミアン連合王国で生産される魔導工具類が今までより多くなっているらしい。
オオジコバが養子に引き取られたゴルネイエフ家の当主はストラトスティー侯爵家に出入りしている商社の代表であった。
「神殺し」の【言霊】持ちなどという鬼子の息子を引き取ってくれる親戚血筋は一切なかった。
オオジコバの引き取りを打診したのはサーチカルド・ゴルネイエフからであった。
当然、下心があるのはどちらも承知している。
ゴルネイエフ家には後継ぎがいないということも事実だ。
お互いの利益の結果とはいえ、オオジコバに対しサーチカルドは愛情を注いだ。
サーチカルド・ゴルネイエフは「神の言葉」教の信者ではなかった。
都合のいい時だけそう装っていた。
そのため【言霊】持ちとなり、本来なら皆から祝われるところが、「神殺し」などと忌まわしい「言葉」を持ってしまったため、忌み嫌われ、両親から縁を切られてしまったオオジコバを不憫に思っていた。
騎士魔導士学校への入学は「神の子」の噂に乗ったものだが、首席で入学できる能力を持っていた。
そして、本当に「神の子」がいた。しかも、自分の持つ力を圧倒的な力でねじ伏せてきた。
不思議なことに自分はまだ生きていた。
「神の子」とやり合えばどちらかが死ぬと思っていた。
だが「神の子」は自分を殺さなかった。あれほどの力を持っていながらも。
自分は既に聖女様に力を封印されてしまった。
「神の子」に対しては無力だが、それ以外は普通に魔導力を行使できることは解っている。
とすれば、今は「神の子」についていくことが、おそらく自分の能力を高めることに繋がるはずだ。
今、2年時に上がったオオジコバは学生会議役員に参加した。
これは学生会議役員はみな、困惑していた。
ただ一人「神の子」ディッセンドルフは動じずにその事態を容認したのだ。
そのディッセンドルフにオオジコバが義父ゴルネイエフ商会の情報を伝えたのである。
「レオパルド連邦が戦争の準備をしている。」




