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「神の子」  作者: 新竹芳
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第11話 「神殺し」の力

 学生会議役員室から出たディッセンドルフに遅れてサーマルが出てくる。


 サーマルは前を歩くディッセンドルフの背中に、殺気が漂ってることを感じていた。


 まさか本気で殺しに行くわけではないだろうな。


 サーマルの心に不安が広がっている。

 もし、オオジコバがその名の通り「神殺し」の力を備えているようであれば、瞬時に防御障壁を発動できるように、サーマルは念を両手に絞った。


「そんなに力まなくてもいいよ、サーマル。」


 ディッセンドルフが穏やかに言った。

 自分の魔導の波動を感じたことに、気配を消す術を小声でサーマルが唱え始めた。


「心配するな、サーマル。力負けしてこの身が朽ちるなら、それもまた運命ってやつだよ。」


 ディッセンドルフがそう気負う友人に声を掛ける。


「死ぬなんて言うなよ。折角できた親友をみすみす失うわけにはいかない。」


 親友か。

 ディッセンドルフはサーマルの言葉に少し心が温かくなる気がした。


 まさか、こんな冷酷な人の形をした機械みたいなやつを親友と呼ぶ奴が出てくるとは、


「そうだな。親友の目の前で死ぬわけにはいかないな。」


「そうだ。それに俺が死なせない。」


 俺の親友は頼もしいことを言ってくれる。

 ディッセンドルフは少し口元を緩める。


 だが、本当に「神殺し」だとするなら、サーマルには手が負えないだろう。


 講義棟から出て講堂に向かう道に出た。


 もう、警備の騎士や魔導士だけでなく、上級生も出てきた。

 とはいえ、今日は入学式を行っているため、多くはない。

 だが、寮まで連絡が行っていればもう少しは集まるかもしれない。


 先を行くディッセンドルフが足を止め、サーマルに振り返った。


「まずいことになっている。あいつ、強力な攻撃魔法を使う気だ。ちょっと先に行ってる。」


 そう言った瞬間、姿を消した。

 今回は単純に空を飛んだだけらしい。


 ディッセンドルフが人の輪の中心に突っ込んでいくのが見えた。

 サーマルも地を高速で走り抜け、人の輪の中に入り、防御障壁を張る。


 瞬間、その人の輪に光が現れ、消えた。


「俺の「光波」を完全に封じ込めるとはな、先輩。」


 黒い髪に金の髪が混じった長髪を後ろで結んだ、警備の騎士ほどもある長身の男がディッセンドルフに残忍な笑みを浮かべた。

 14歳のディッセンドルフより明らかに20㎝以上の上背の年下の男の黒い瞳に一瞬光が点る。

 ディッセンドルフがその動きに反応、また二人に間に光が現れ、消えた。


「どんな攻撃もカウンターを放つってことかい、先輩。」


 さらに何も言わずに、手印を組むこともなく攻撃の魔導力を使っているようだが、ディッセンドルフにとっては、その攻撃がただの力任せで、単調なため、難なくカウンターの魔導力を合わせるだけだった。

 サーマルが防御障壁で周りの者に被害の無いようにしつつ遠ざけているのは助かる。

 ディッセンドルフはオオジコバの攻撃魔法を無効化し、後退するふりをして広い場所に誘導する。


「先輩が「神の子」って噂されているルードヴィッヒ伯爵の養子で間違いないんですよね。別人なのに俺をどうこうできると思って出てきたんなら死にますよ。」


 本気を出してない、と言いたいらしい。

 騎士や魔導士を吹っ飛ばしていたが手加減はしていたようだ。

 さらに無効化されているにもかかわらず、攻撃魔法を繰り出してきたのも、馬鹿の一つ覚えではないらしい。


 せっかくの後輩からのおしゃべりだ。

 付き合わないと嫌みの一つでも言われそうだな。


 ディッセンドルフはそんなことを考えられるようになったのは、サーマルのおかげなのだろう。


 以前であれば、この騒ぎ事態に関心を示さなかったし、オオジコバが自分を見つけ襲ってくれば有無を言わさず首を落とすか、頭を粉砕していたところだ。


 いま、ディッセンドルフは「神殺し」を名乗るこの後輩のことに興味があった。

 できれば意識を刈って、殺さずに抑えたい。


 現在も細かい攻撃魔法を繰り出すオオジコバの無効化を繰り返しながら、先程の騒ぎで倒された騎士の持つ両刃の長剣をかすめ取り、左手で持ちながらその気配を立ち、光学的に見えないように魔導を使っている。


 屋外の広大な訓練場に出た。

 ここが戦闘の場となることをオオジコバは理解したのだろう。


 初めてオオジコバの手が妙な動きをした。


 後方に逃げていたディッセンドルフの背中を目がけて急速に土が盛り上がり、槍のように襲い掛かる。


 すでにその動きを見たディッセンドルフは後方から前方に急にその方向を変え、オオジコバの懐に飛び込むような形を見せる。


 それを待っていたように腰を低くし前傾姿勢のディッセンドルフの下から、光の刃がいきなり襲ってきた。


 オオジコバはディッセンドルフに対し、挟撃の攻撃魔法を仕掛けた。


 先程までの単調な攻撃から2種の複合魔法だ。


 が、ディッセンドルフのは気にせずそのまま飛び込む。


 光の刃は、しかしディッセンドルフの体に触れる前に霧散する。


 オオジコバの顔がわずかにゆがんだ。

 と同時に宙に跳ぶ。


 その直後、地面から槍のように先が尖った土が空に向かって伸びた。


 ディッセンドルフの攻撃である。

 それを察知しオオジコバは飛んだが、いきなり宙空で何かにぶつかった。そのまま落下してしまう。


 そこには光の屈折でかろうじて判断のできる障壁があった。


「無詠唱でここまで…。」


 オオジコバの呟きは途中で止まる。

 体が動かなくなった。

 そのまま地面に落ちた。

 が、「神殺し」の【言霊】は嘘ではないらしい。

 ディッセンドルフの固定化魔法に対して、地面に接する直前にその落ちる速度を抑えたようだ。


 多少の打撲はあるが、しっかりと立ち上がった。

 すでに固定化は解いてる。


「あんたが「神の子」ディッセンドルフ・フォン・ルードヴィヒでいいわけだな。確かにとんでもないようだ。なら、俺の力すべてでお前の生を否定する。」


 宣言と同時に、周りの空気が震え始めた。

 ディッセンドルフは多種の魔法を繰り出してきていることを理解し、さらにそれがどのような魔法か判別した。


 すべてにカウンターを放つこともできるが、それでは長くこの意味のない戦いが続くだけだとも考えていた。


 オオジコバが真の「神殺し」の名を持つものかは、正直この程度ではディッセンドルフは納得していなかった。

 ただ、貰ったおもちゃを使い方もわからず、闇雲に振り回しているだけだということがわかった。


 この状態の子供には、絶対的な力を見せつけるか、もしくは全く違う方法を使うか?


 オオジコバを中心に、空気が燃え、一気に数千度までその周辺が燃焼する。

 急激な温度変化に上昇気流が爆発的に発生。

 さらに空間内の空気が消え、そこに超真空状態が発生。

 爆発的な上昇気流が一転ダウンバーストへ変換。

 さらに地面が弾け飛んだ。


 が、そこに何が起こったか、正確に解った者はいなかった。

 退避していた者には、サーマルと途中から駆け付けたオルネイドリー学生会議会長で、強固な防御障壁を築いていた。

 半透明の障壁では、二人の戦いを正確に判断はできない。


「中にディッセンドルフが、いるのね。」


 オルネイドリーの問いかけに無言でサーマルが頷く。


「ディッセンドルフ様は大丈夫でしょうか?」


 入学式で訪れていた聖女アンドリュー・ビューテリウムがオルネイドリーに抑えられる形でたたずんでいた。

 これは、この戦いの中心にディッセンドルフがいることを知ったアンドリューが飛び出そうとしたところを、オルネイドリーに拘束されたためだ。

 曲がりなりにも、来賓者に危害を及ぼすわけにはいかなかったためである。


「多分、問題ないと思います。ただ、ディッセンドルフがどういう形でこの戦いを終える気でいるのかが気がかりです。」


 サーマルが涼しい顔で自分の意見を述べる。


 この大掛かりな攻撃を、完全にディッセンドルフが抑え込んでいる。


 さまざまな攻撃現象が半透明の障壁の中で起こっていることからも、それは容易に想像がついていた。

 そして、殺す気でいれば、こんなことをするわけがない。


 仮にこの異常な障壁内での状態でディッセンドルフに何かがあれば、この障壁が消え、周りにかなりの被害が及ぶはずだ。


 そうサーマルが思考していると、急にその障壁が消え、中で荒れ狂っていた空気の奔流が止まっていた。


 その中心に騎士の剣で体を貫かれたオオジコバが地に伏していた。

 それを冷ややかに見降ろすディッセンドルフ。


 その場は、地面が抉れるようなクレーター上になっていた。

 土埃が周りに拡散していく。


 サーマルは人々を守っていた障壁を解き、飛ぶようにディッセンドルフに向かった。

 それに続くようにアンドリューとオルネイドリーが飛び込んでいく。


「死んだのか?」


 ディッセンドルフの脇に着地したサーマルが聞いた。


「急所は外してある。かなり痛みと苦しさはあるだろうが、しっかり生きているよ。」


 そう爽やかに笑い、サーマルの問いに答えた。


 オオジコバがこんな大技をオンパレードで仕掛けた時点で、周りに迷惑が掛からないように障壁で覆った。

 さらに自分にも障壁を張りつつ、周りの魔法をことごとく無効化し、この状況に冷静に対応するディッセンドルフであった。

 その動きにオオジコバは驚愕の表情を露にした。

 ディッセンドルフは慌てるオオジコバに満足した。

 と同時に素早く、手印を続けざまに操るオオジコバの懐に入り、騎士から拝借していた剣をオオジコバの胸に刺し貫いたのである。


 アンドリューとオルネイドリーが来たことを確認したディッセンドルフは、オオジコバを地面に縫い付けている騎士の剣を無造作に引き抜いた。


 その反動に、オオジコバの体が跳ね、ゴボッと血の塊を吐き出し、苦悶の表情を浮かべていた。

 それでも見下ろしているディッセンドルフを睨んでいることは、尊敬に値するな、とディッセンドルフはひそかに思っていた。


「アンドリュー様!お願いします。」


 ディッセンドルフをの言葉に緊張した表情を浮かべた顔をコクリと振り、すぐに詠唱と手で印を結ぶ。

 そして左手を多量に血を流し続ける胸にかざした。


 アンドリューの左手がほのかに輝く。

 その温かい光に照らされた損傷部位の血が止まり、皮膚がみるみる再生していく。


 アンドリューの後ろからオルネイドリーが同じように左手をかざした。


 オルネイドリーの最も得意とする魔導は治癒魔法と聞いたことがあった。


 単純に損傷部を直すというよりも、さらに細かくその損傷部位を診て、必要な処置を行うため、治りが速いのだ。

 骨折と肺の欠落では当然行われる処置に違いが出る。

 これは人体に関する医学的な知識が豊富であることを示していた。


「で、こいつをどうするんだ、ディッセンドルフ。」


 サーマルがアンドリューとオルネイドリーの治癒の過程を観察しながら、傍らに立っているディッセンドルフに問いかけた。


「まずは意識が戻るのを待って、平和的なお話合いだな。」


 その言葉にサーマルとオルネイドリーが驚いた。

 だが、聖女アンドリュー・ビューテリウムはにこやかにディッセンドルフを見ている。


「てっきり騎士魔導士学校に常駐する騎士警察に突き出すかと思った。」


「オオジコバ・ゴルネイエフは黙っているが侯爵の出だろう、サーマル。」


「そうです、ディッセンドルフ様。正式名はオオジコバ・サランド・フォン・ストラストスティ―侯爵家の次男です。生を受けた時から。」


 ディッセンドルフの問いかけに、サーマルではなく、アンドリューが答えた。


「彼の身の上は詳しいのですか、アンドリュー様。」


「そうですね、詳しいと言ってもいいでしょう。彼のストラストスティ―侯爵家の現当主、サバイナルム・クラント・フォン・ストラストスティ―は、私の母、マリアエム・ビューテリウムの弟にあたります。」


 全く貴族ってやつは、変なところで姻戚関係がつながってくるな。


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