8
教室に戻った瑠璃花は大急ぎで鞄を掴んだ。
「…瑠璃花?どうしたのー?」
友人の今田祥子が常の様子ではない瑠璃花に声をかける。
瑠璃花は祥子を振り向き、怒鳴るように返事をした。
「帰る!」
「へ?あ、ちょっと瑠璃花ー?」
驚き、戸惑う祥子の声を背中に聞きながら瑠璃花はバタバタと階段を駆け降りた。
いつかのように肩で息をしながら玄関まで来ると、靴を履き替えて出ていった。
瑠璃花は帰る前に焼却炉へと足を向けた。
チョコを家に持ち帰るのは嫌だった
。
せっかく作ったチョコを自分で一人寂しく食べるのも嫌だったし、ゴミ箱に捨てたのを家族に知られるのも嫌だった。
寄り道して捨てる気にもならず、瑠璃花は学校の焼却炉へとチョコを入れ込むつもりだった。
焼却炉には誰もおらず、瑠璃花はそこでチョコを取り出した。
頑張ってラッピングもしたのだが、日の目を見ずに燃やされてしまうと思うと残念でならなかった。
箱を見つめてため息をつく。
「…皐月ちゃんのバカ…」
忌々しくて口に出した言葉は外気に溶けて消えてしまう。
虚しくなってきて瑠璃花は焼却炉に一歩近づいた。
「一ノ瀬、なんでここにいるの?」
突然かけられた声に瑠璃花はパッと顔を上げた。
そこには同じクラスの長谷川涼がいた。
焼却炉の脇から出てきた涼は首を傾げている。
瑠璃花の先程の呟きは聞こえなかった様だ。
単純にここにいることを疑問に思っている様子の涼に瑠璃花も首を傾げた。
「長谷川くんこそ何でここに?」
「これ」
涼は持っているゴミ箱を示す。
「一ノ瀬は…それチョコじゃないの?」
涼は瑠璃花の持っていたチョコを見て一瞬不思議そうな顔をする。
直ぐに焼却炉を振り返って涼は苦笑した。
「渡せなかったんだ?」
瑠璃花も同じように苦笑する。
「そう。長谷川くんは多々良さんからもう貰った?」
多々良愛は涼の付き合いの長い彼女であり、学年でも有名なカップルだ。
涼は当たり前のように頷く。
「うん。やっぱりチョコ貰うのって嬉しいよ。一ノ瀬ももう一回頑張ってみたら?」
爽やかに笑う涼に曖昧に瑠璃花は笑った。
「…欲しいって言われたんだけどね…他にもチョコ、沢山貰ってるみたいだし…」
「欲しいって言われたんなら欲しいんじゃない?他から貰ってたって欲しいのは一ノ瀬のチョコだと思うよ」
「…そうなの?」
「確実な事はわからないけど多分。…まぁ、どうするかは一ノ瀬次第だけど。じゃあ、俺、愛待たせてるから」
片手を上げて涼は瑠璃花の横を抜けていく。
挨拶を返しながら瑠璃花はその背を見送った。
空になったゴミ箱を提げて涼は足早に去っていく。
それを少しの間眺めて、瑠璃花は手の中のチョコを再度見つめた。
お読み頂きありがとうございました。




