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一階の職員室を瑠璃花はそっと覗き込む。
職員室には数人の教師が居て、女子生徒が二人連れ立って騒いでいるのが見えた。
雄大にチョコを渡せた勢いのまま、瑠璃花は職員室に来ていた。
笹本と皐月の机にチョコを置いておけばいいと思ったからだ。
直接手渡すのはやっぱり難しそうだから、机に届けることで良しにしようと妥協したのだ。
笹本の机の上にはいくつかの箱や袋が置いてある。
笹本本人は丁度良くいないし、瑠璃花はそそくさと笹本の机に近づいた。
チョコを置こうとして、
「…一ノ瀬?」
後ろから聞こえた声にビクッと肩を震わせた。
そろりと振り向くと、先程は居なかった笹本が戻ってくるところだった。
「丁度良かった。伝言が…」
言いかけた笹本は瑠璃花の手にあるチョコを見つけ、自分の机に瑠璃花が手をかけているのを見て嬉しそうに笑った。
「一ノ瀬、それチョコ?俺にくれるの?」
「…え、えっと…はい…」
「おー、やった!ありがとう!俺チョコ好きなんだよー」
笹本は本当に嬉しそうに笑う。その屈託のない笑顔は女子生徒からの特別な意味なんて微塵も感じていないのが明らかだ。
瑠璃花は少し残念な気持ちを感じながら笹本にチョコを差し出した。
「…じゃあ、これ。手作りじゃないので安心して下さい」
「ありがとう」
瑠璃花からチョコを受け取った笹本は思い出したように手を打った。
「あぁ、そうだ。大前先生が化学実験室に来るよう呼んでらしたぞ」
「…えっ…」
皐月は瑠璃花を実験室に呼び出す気らしい。
放課後のこの時間までチョコを先延ばしにしたせいだろうか。
そうとしか思えなくて瑠璃花は眉を潜めた。
その表情を勘違いしたのか、笹本は手を顔の前で振った。
「そんな怒ってる様子じゃなかったし、多分大した用事じゃないって」
はぁ、と曖昧な返事を返した瑠璃花は何気なく視線を皐月の机に向けた。
そこに大量のチョコの包装紙を見つけてピタリと動きを止める。
「…あれは…」
瑠璃花は思わず呟く。その声に質問されたと思ったのか、笹本が苦笑した。
「大前先生、今年も人気なんだよ。チョコは苦手らしいんだけど」
笹本の言葉に瑠璃花は一人衝撃を受ける。
あんなに欲しい欲しいと騒いだくせに…
だからわざわざ皐月の分だけ手作りしたのに…
瑠璃花は笹本と雄大の分は市販のものを用意した。
それは手作りが苦手かもしれないと気遣ったからなのだが、皐月の分は要望通りわざわざ作ったのだ。
本人が手作りがいいと言っていたし、瑠璃花も最近は皐月と関わることが多くてお世話になっていると思ったからだ。
そして同時にあんなに言うからには、他にはチョコは貰えないのだと思っていた。
けれど、実際は大量のチョコを貰っている。
あの中にはきっと手作りのトリュフチョコレートだってある筈だ。
「…最低…」
またも思わず呟いた瑠璃花はくるりと踵を返す。
笹本に小さく頭を下げて逃げるように職員室を後にした。
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