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混迷の大陸 1

今回はちょっと長いです

「まず教えてほしいのですが…私がいなくなってから80年以上の間に…この大陸で何が起こったのか説明をしてもらえますでしょうか?」


テルーラはアヤに説明を求めた。

1943年の12月にアメリカ合衆国に旅立ち、そして元の異世界に帰還してきたのは20XX年6月…その間実に80年以上の年月が経過した。

長寿として知られているエルフにとっては10年ぐらいの感覚らしいが、それでもテルーラのいない間に大陸は大きく様変わりしている。


「まず…私がこちらの世界を出発する直前に各首長が種族ごとの首長を代表として連邦制になった直後でした。こちら(アメリカ軍)側で保護した大陸同胞会から迫害されていた人々も、連邦時代の事をよく知らない人ばかりなのです。アヤさんはご存知でしょうか?」


「連邦時代…それはサルヴァリアス首長連邦国時代のことでしょうか?」


「はい、その通りです」


サルーヴァ王国の前進となったかつて存在していた国家の国名であった。

サルーヴァ王国は大陸西部に位置しており、種民族は実に多種混同化している。

それは各首長をまとめあげて連邦制を取っていた際の種民族融和政策の結果、多くの種族間で結婚と出産が許可されたことによる結果だ。


サルヴァリアス連邦という国名に恥じない程に国土は大きく、大陸の半分以上を支配していた巨大国家だった。

多種族が共同に暮らし、発展していくという異世界でも珍しい融和的な政治を採択。

多種族の団結と宗教分離政策によって70年ほど平穏で発展した大陸の黄金期であった。

この時のこよみは王国にも引き継がれており、連邦成立時の年を大陸歴元年と定めている。


「あの時代の資料や存命者の話によれば平和で最も大陸で繁栄していた時代であったと語られています。人口は倍増し、凶暴なモンスターなどもこの時代の際にそのほとんどが討伐されて、ドゥラ・メゾドル・ファルアといった破滅級のモンスターは大陸から殆ど姿を消したとされています」


「つまり、ロサンゼルスを襲ったのはその討伐から逃れた数少ない生き残りだったというわけか…」


「そのようですね、しかし、なぜ融和政策をしているにもかかわらず連邦は崩壊したのですか?」


テルーラは疑問をアヤに投げかける。

連邦は政治的にも経済的にも上手くいっていた。

多種多様な種族と民族が混じりあい、それぞれ血統や宗教なども個の者として特別視されるような時代ではなくなったのだ。

しかし、その平穏は突如として終わりを告げたとアヤは語った。


「それは…サピエンス人による同時多発軍事クーデターが大陸各所で一斉に発生したからなのです。彼らは皆、それまで合法的に活動していた宗教結社のメンバーでした」


連邦が突如として終わりを告げたのは今から10年前の出来事であった。

道徳的な教えを行い社会的にも認知されていた宗教結社「成風教」の中でも、その教えを拡大解釈し単一種族・単一宗教による大陸統一を呼び掛けていた過激宗教団体「エスパーダ・ターク」が首都オルクラードなど大陸中心部の各都市で武装蜂起を起こしたのだ。


武装蜂起には連邦軍内部における大陸同胞会の信者が多く混じっており、いずれも連邦内では低い地位にいた大多数派のサピエンス系軍人であった。

サピエンス人の殆どは連邦成立時は無宗教であったが、連邦成立後に彼らの80パーセント以上が「成風教」と何かしらの関りを持っていた。


サピエンス人は現世界における白人種に外見が酷似している種族で、大陸においては最も人数が多い。

各種族と比べても単独で半分以上を占める彼らだが、彼らは自分達の国を持っていなかった。

首長連合による連邦制が成立しても代表者や自治を持っていなかった。


国を持たぬ故に、各種族から差別されたり虐げられてきた歴史を持つことからその恨みは根深いものであった。

各種族が連邦の名の元に国が統一された際も、あからさまな二等国民だったり奴隷の扱いは無くなったが、差別が無くなることはなかった。


「『サピエンス人はエルフ人やシャドーエルフ人よりも聴覚に劣り、視力はドワーフ人以下、筋力もオーク人以下であり、役立たぬ劣等種族である』…連邦が成立して差別を無くそうとしたようですが、民衆意識に根付いてしまったものまでは取り除くことは出来ず。サピエンス人は就職や学業、そして国を守る軍隊の中ですら居場所が無かったのです」


各地のサピエンス人にとって、各首長時代の王国時代から連邦時代に移っても無くならない差別と貧困の原因は各種族の各宗教観を連邦でも引き継いでしまったことだ。

このことがサピエンス人が大いに種民族融和を掲げている連邦に対する不信感を募らせる事になる。


特に大陸南部の沿岸地帯では、海を信仰する海洋教によるサピエンス人を船の安全祈願のために生贄として使う儀式に使われた。

生きたまま海に投げ捨てられる。


そしてその儀式も連邦は”古き宗教で培われた伝統である故に取り消すことはできない”とサピエンス人達の抗議を却下した。

こういったあからさまな迫害を受け続けたことによって、次第に過激な思想組織が誕生するようになる。


それがサピエンス人によるサピエンス人のための大多数種族主導の宗教統治機構「大陸同胞会」であった。


大陸同胞会は穏健派であった「成風教」上層部を粛清し、過激派のエスパーダ・ターク系列の信者を取り込むことに成功。

これにより、5年の年月をかけてサピエンス人の7割以上を支配下に置くことになる。

その中にはモンスター討伐の英雄として表彰されたサピエンス人の精鋭部隊「ラパルクス隊」も含まれていた。


そして大陸歴87年5月11日。

連邦成立から87年目にあたるこの年に練りに練ったクーデター計画を実効に移すことになる。


サピエンス人で構成された下級魔法技師並びに下級魔術師達が異種族による迫害事件を発端に、当時の連邦首都オルクラードに存在していた国営魔術院や連邦政府首長会議場など各政府機関をラパルクス隊が襲撃し占領する。


首都や各大都市圏でサピエンス人の軍人や魔術師による武力蜂起が発生し、僅か一か月の間に連邦にいた首長の大多数が大陸同胞会によって捕らえられてしまう。

その際に連邦の首都オルクラードは壊滅的打撃を受けて首相を始めとする政府上層部が処刑されてしまう。


「連邦政府時代の要職についていた高官クラスの人間は軒並み逮捕されるかサピエンス人による私刑リンチによって死亡しました。首都から脱出できた運の良い人々は大陸西部にあるサルーヴァ王国領の王都であり連邦の第二首都であったオビリアーノに避難します。以後、我々サルーヴァ王国と大陸同胞会は一進一退の攻防戦を繰り広げているのです」


サルヴァリアス連邦は大陸歴87年6月22日をもって首都オルクラードを含む大陸の大部分を失い、大陸同胞会が統治機構として機能を果たす。

首都名も改名され、聖都アルムシャスになりサピエンス人による統治が開始された。

サピエンス人でない者は奴隷となるか、名誉ある死が横行し10年の間に人口の二割が処刑もしくは迫害や十分な医療を受けられないまま死亡した。


しかし、辛うじて大陸同胞会やサピエンス人の猛攻を凌いだ大陸西部一帯は連邦の後継政府を名乗る。

それがサルーヴァ王国だ。

西部地域を支配していたエルフ族の首長スリックスによって第二首都オビリアーノにて正統な連邦後継政府の樹立宣言がされ、生き残った各首長や首都や各地域から脱出した住民、大陸同胞会と相反する数少ない穏健派サピエンス人による徹底抗戦が行われた。


その結果、西部一帯は辛うじて王国領として存在しているが、人口や経済力では大陸同胞会に圧倒的不利に置かされている。

そしてその戦線の空白地…グレーゾーンに現在アメリカ異世界合衆国領レーオーが存在しているのであった。

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