混迷の大陸 2
「サピエンス人は過去に受けていた迫害を今になって返しているというわけか…それも種族浄化という手段を使って…」
「難しい問題です…ユーゴスラビア連邦の内戦よりも根本的な問題が根深い上に、倍返しで行っていてもそれを正当化してしまっているのです…宗教が絡んでいるとなれば尚更厄介な事この上ないです」
民族浄化はいつの時代でも起こった。
古代から現代に至るまで。
古今東西で行われてきた人類の業と言うべき行いだろう。
それを大陸規模で行っている大陸同胞会を説得するのは難しいとテルーラは語る。
「彼らは異種族と異教徒を根絶やしにするまで戦闘を止めないでしょう。たとえ最後の一人になっても戦い続ける。イスラム過激派を殲滅してもその思想が消えないように、アメリカ軍が各都市を平定しても山岳地帯に籠って抵抗を続ければアフガニスタンの二の舞になります」
「…実に厄介な相手だな。すでに合衆国政府でも検討はされているが、兵力が整うまでの間、統治機構として大陸同胞会を国家として承認するのはどうかという意見もある。それも案としてはいいかもしれないが、認めてしまえば大陸同胞会の残虐行為を容認してしまうことに繋がりかねん。そうなれば民主主義と異種族共存を掲げるサルーヴァ王国への印象は最悪になる。それだけは避けたい」
「中将閣下は王国と結びつきを深めたいのですね…?何とかなりませんか?」
「私は異世界におけるアメリカ軍の行動を一任こそされているが、政治的レベルでの話し合いとなれば最終的な決定はトーマス大統領にゆだねられている。大統領が承認すれば王国への全面的な支援を約束してくれるでしょう」
アメリカは異世界に介入した以上、地域紛争への介入も辞さない構えだが…。
相手は大陸の大部分を支配下においている巨大な統治機構だ。
これまで介入してきた中東の中小国家よりも領土が広く、また過去に虐げられていた歴史を持っているため、侵攻すれば激しく抵抗するだろう。
いくら文明や技術レベルで差があるとはいえ、敵の都市を落とすには空からの圧倒的物量による空爆と地上軍の砲撃を繰り返して行う必要がある。
ようは、本格的な武力介入…戦争をする覚悟がアメリカに必要ということだ。
「既にアメリカはこの地域で大陸同胞会を討伐しているそうですが…」
「当基地から半径10キロ圏内の安全は確保した。安全を確保するために小型モンスターや一般人への虐殺行為を続ける大陸同胞会の一派を排除したに過ぎない。本格的な介入をするとなれば最低でも今の戦力の5倍は必要だ」
現在異世界合衆国領レーオーの基地にいるのは3000名の軍人。
このうち整備兵や補給兵など戦闘に直接かかわりのない兵士を含めての数だ。
戦闘員は現時点で800名ほどだ。
100輌に及ぶジープにハンヴィー…そして補給車両。
40輌の戦車に戦闘車。
12機の戦闘ヘリコプター。
28機の航空機。
6艇の戦闘ボートと警備艇に2輌のエアクッション艇。
小国の軍隊と同規模の軍隊だが、大陸を平定するとなれば最低でもこの5倍は必要になる。
これは兵站の構築と、魔法・魔術に対する防御策を講じなければならないからだ。
特に魔法による攻撃に対する対策は急務であった。
エリック中将がアヤに分かりやすく説明する。
「我が国…いえ、我々のいた世界では魔法や魔術といった行為を知りませんでした。魔法や魔術よりも科学技術を得た我々は科学技術に対する防衛策しか講じられていないのが現状です」
「…ということは魔法や魔術はそちらの世界ではないのですか?!」
「はい、魔法や魔術に関しては我々アメリカ軍は無知に等しいのです。これらも使いようによっては科学よりも強力な武器になりえるものなのです」
その具体例が3日前に哨戒中の警備艇が大陸同胞会の魔法攻撃によって攻撃され、警備艇に損害が出た戦闘があったのだ。
河川に沿って南下していた警備艇「P-091」が南下中に密林から大陸同胞会の魔術師による氷属性の魔法攻撃をいきなり喰らったのだ。
幸いにも死者は出なかったが、40センチほどの大きさの鋭い氷柱が艇の右側を無数に突き刺さり、防弾ガラスが破損したのだ。
直ぐに艇に搭載されていたM2重機関銃によって反撃し、魔術師を撃退することに成功したが魔法による攻撃が、予想以上に強力であったことに異世界アメリカ統合軍は強い衝撃を受けた。
使いようによっては歩兵の所持している5.56ミリNATO弾を使用するM16小銃並と同等の攻撃を行えるのだ。
これまでにもアメリカ軍は大陸同胞会に対して攻撃を行っているが、それは魔術師や戦闘員の攻撃範囲外からの一方的な制圧射撃によって行われているため、近接戦闘を行う必要がないのだ。
しかし、もし魔術師や魔法を扱える戦闘員と対面から戦闘を行えば防弾チョッキなどを施していても致命傷となりえる攻撃を食らうことも考えられる。
その為、異世界アメリカ統合軍は哨戒艇の被害状況などを詳細に記したレポートを国防総省に送り、ゲリラ戦や市街地戦になれば多くの損害が出る可能性があると報告している。




