制圧 1
◇
「こちらオメガ1…目標命中、攻撃を続行する」
レレグの腹部を貫いたのは第133戦闘ヘリコプター部隊「オメガ」の隊長機であるオメガ1から放たれたAH-64Dアパッチ攻撃ヘリコプターに搭載されているM230機関砲の弾が命中したのだ。
焼夷弾では無かっただけ、まだ幸せなのかもしれない。
AH-64はアメリカ軍が採用している世界最強の戦闘ヘリコプターである。
陸上自衛隊をはじめ、西側諸国も採用しているがアメリカはアパッチ攻撃ヘリコプターを700機以上保有している。
他の国が10機から40機程度に対してアメリカだけで700機以上もあるのだ。
AH-64の特徴としては最新鋭の射撃管制システムによって、発射された機関砲から放たれた砲弾が3キロ以上離れていても数メートル以内に着弾する命中率を誇るのだ。
つまり、正確に相手を狙って攻撃することができる精密兵器だ。
この長距離射程を生かして、AH-64は中東方面での戦争に大いに貢献した。
アフガニスタンやイラクでは武装勢力が所有する携帯ミサイルの射程圏外から攻撃できるようになっているのだ。
つまり、通常の輸送ヘリで武装できるミニガンや対戦車ミサイルよりも遥か遠くから攻撃できるので、テロリストキラーとして名高いヘリでもある。
つまるところ、この機体の存在を察知されるよりも先に攻撃を仕掛けることができるのだ。
まさに苛烈な戦闘集団として名をはせたアメリカの先住民族「アパッチ族」からネーミングを授かるだけの火力と防弾装甲能力を誇る最強の戦闘ヘリコプターである。
そんな最強の戦闘ヘリコプターを異世界に持ち込んだことにより、対人間戦では間違いなく勝てるだろう。
そして、第二世代の戦車の装甲板すら貫く30mm機関榴弾は身体を僅かにかすっただけでも肉体が裂けるほどの威力を持つ。
これが腹部に当たったらどうなるか?
答えは「死ぬ」以外にない。
少なくとも人間は死ぬ。
ロサンゼルスを襲ったドラゴンはともかく人間は確実に死ぬ運命だ。
大統領専用車のガチガチに装甲で固められた車内にいればギリギリ耐えきれるかもしれないが、恐らく大丈夫なのは初弾だけだろう。
突然レレグが死んだことで、村の中で起こしていた大陸同胞会による虐殺は一転して彼らの虐殺現場へと変貌する。
腹心とも呼べるメブは既に本拠地に向かっていて、呼び戻すことはできない。
指示系統がレレグ一択だったこともあり、同胞たちは右往左往してしまう。
「れ、レレグ様が死んだ!!!」
「なんだ?!誰がやったんだ!」
「レレグ様の腹が裂かれている…こいつは一体誰が…」
赤外線暗視装置では、大陸同胞会の構成員の姿が丸見えだ。
白衣を着ていることもさることながら、体温で反応する熱線暗視装置も搭載しているのでどんな傾斜や溝に隠れていても、上空から丸見えなのだ。
隊長機に続いて他のオメガ隊のAH-64も発砲を開始する。
「オメガ2、攻撃開始!」
「オメガ3、攻撃を開始します!」
―ズガガガガガガガガッ!!!!
至る所で土埃が舞う。
地面に穴が空いたかと思うとそこには無数の人間が倒れている。
狂信者たちからしてみれば、見えない敵と戦っているのだ。
何処から飛んでくるか分からない攻撃を見て、先程ソホヤがやられたように見えない攻撃を受けた戦闘員は恐怖し、村を放棄して逃げようとし始める。
「畜生!やっぱりヤベェ奴らを敵に回してしまったんだ!」
「逃げろ!!こんな奴らとまともに戦っていられるか!!」
「散れ!みんなで離れて行けば助かるかもしれんぞ!」
200人前後いた大陸同胞会の構成員はみるみる数を減らしていく。
3回目の機銃掃射を行った際には100人ほどしかいなくなった。
地面に転がっているのは四散した人間だった塊か、動けなくなった負傷者だ。
―ズガガガガガガガガッ!!!
スイッチを押すだけで一発で人を粉砕できる砲弾を発射する。
それを一秒間に何十発も発射されていく。
AH-64並びにAH-1Zで混成された第133戦闘ヘリコプター部隊の攻撃は10分間に渡って行われた。
ほぼ四方から攻撃を繰り返し行い、広場は虐殺者の血と肉片によって舗装された。
辺りにはうめき声と悲鳴だけが残された。
「だ、大てんしぃさまぁぁぁぁあぁぁ!!!!だぁずぅげでぇぇぇぇ!!!!」
「俺の目が…目が見えねェ…誰か!誰かいないのか!」
「ああああああ、ああああああ!!あああああああ!!」
足を粉砕されて大天使に慈悲を乞う者。
破片が両目の視力を奪い、這いずりながら他者の補助を求める者。
口が裂けて発音すらままならない者。
先程までの威勢はすっかり失せた。
威張り散らし、弾圧と虐殺を繰り返して行ってきた者達にふさわしい末路だ。
機銃掃射を終えると、オメガ1は撃つのを止めるように指示を出した。
「射撃中止!これ以上は撃つな!居住区画に当たってしまう!」
先程まで玩具として遊んでいた処刑した村人を突き落とした穴蔵に身を潜めたりしている者もいるが、生き残った運のいい奴らの殆どは木をくり貫いて作られた村の居住区画に逃げ込んだのだ。
たとえ異世界であったとしても、敵が潜んでいる居住区画を攻撃するのは本部の命令で禁止されているからだ。
オメガ1が本部に指示を仰いだ。
「本部、本部、こちらオメガ1…村の広場を清掃した。残りは居住区画に逃げ込んだ模様…村の居住区画は攻撃するか否か…どうぞ」
『こちら本部、居住区画への攻撃は禁ずる。流石に30mm機関砲で粉々にしてしまえば村の生存者達まで死なせてしまうかもしれん。もうじき陸軍特殊部隊を乗せたCH-53シースタリオン輸送ヘリが到着する。彼らが村の完全制圧と生存者の救出を試みる、オメガ隊は上空の警戒を怠らないようにしてくれ』
「こちらオメガ1、了解した」
待つこと5分、アパッチのレーダーに一機の友軍機が近づいてくる。
ヘリコプターには37名の精鋭たちが搭乗しており、彼らはグリーンベレーと呼ばれている。
名前の由来は彼らだけに身に着けることが許された緑色のベレー帽にある。
現地の言葉を話すことができ、各軍事専門分野をマスターした彼らは隊員一人につき、歩兵一個中隊に匹敵する戦闘力があるとも言われている。
アメリカ軍の中でも精鋭である彼らに下された任務は村の制圧と生存者の救出だ。
参考文献:菊池雅之(2010)「こんなにスゴイ最強の自衛隊」竹書房




