第九章「パーティーへようこそ!」前編
熱はすっかり下がって、私は元気になった。魔法はあいかわらずへただし、魔法の家も言うことを聞いてくれず、あちこちに移動するけれど、熱が下がるとともに、何かが吹っ切れたような気分だった。
そんなわけで、今日も私は、王国のはじっこの森の中で、畑仕事に精を出していた。
野菜と果物を収穫して、木陰で休んでいると、リズが荷馬車でやってきた。冷たい麦茶を二人で飲みながら話をする。
「王国のお城で今度、舞踏会があるらしいの。でも招待された人しか行けないんだって」
リズはそう言って口を尖らせた。
「私も一度でいいから、ドレスを着てパーティーに行ってみたいなあ」
私は麦茶をごくりと飲んだ。
「でも、パーティーに行ったら踊らなくちゃいけないんじゃない? リズは踊れるの?」
「そんなの雰囲気でどうにかなるし、相手がリードしてくれれば……」
と、赤くなる頬を押さえている。また、ユルのことでも考えているのだろう。
「そういえば、ユルは王様にパーティーに誘われることもあるんだって、今回は行くのかしら」
私が言うと、え! とリズは頓狂な声を上げた。
「誰と? 誰と行くの?」
「し、知らないわよ。砦の誰かとじゃない?」
と、私はエイデンの顔を思い浮かべる。リズはがっくり肩を落とす。
「そんな、でもそうだよね。ユルは素敵だもん。いくらでも相手がいるわよね」
「リズ、そんなにがっかりしなくても……、そうだ、今度、ユルも誘って一緒にお茶会をしましょうよ」
「本当に? 約束よ!」
リズは私の手をしっかと握りしめた。
次にユルが来たとき、彼と私は一緒にお昼を作っていた。
ユルが、平らに伸ばした生地にリコッタチーズを少しずつ置いていき、その上からまた生地をかぶせると、チーズの位置に合わせてカットしていく。
私はその一つ一つのふちにフォークをぎゅっと押し付けて、中身が出てこないようにする。
そうして二人でパスタを作りながら、私はユルに尋ねた。
「今度、お城で舞踏会があるんでしょう? ユルも招待されてるの?」
ユルはカットしたパスタを私のほうへよこす。
「招待はされていませんが、会場の警備をする予定です」
「リズがパーティーに行きたいんですって。それでユルが舞踏会に行くかもしれないと言ったらうらやましがっていたの」
フォークの力加減を間違えて、生地がちぎれないように気をつけながらも、私はリズとの会話を思い返す。
「だから、今度、ユルとお茶会をしようねって話になったの」
ユルは私をちょっと見て、またパスタ生地を均等に切る作業を続ける。
「パーティーに行きたい話が、どうしてお茶会になるんですか?」
「うーん……」
鈍いユルだなあ。ここでは「どこに」よりも、「誰と」が重要なのに。でもリズの許可なく詳しく話すわけにもいかない。
全ての生地を切り終わり、ユルもフォークを構え、こんなことを言い出した。
「それなら、お茶会とは言わず、パーティーを開けばいいのでは? フィーが誘えば、きっとみんな喜んで来てくれますよ」
「パーティーを?」
と私は目を見張って、手を止めた。
「でも、どこでやるの?」
フォークで跡をつけながら、ユルはあっさり答える。
「この家ですかね」
「この家は移動しちゃうのよ。パーティーの日にどこにいるかわからないのに、みんなを招待できないじゃない」
うーん、と作業の手を止めずに、ユルは考えているようだった。
「確かに。それじゃあ、こういうのはどうですか? 例えばパーティーの準備が整ってから、森の中にいる最初の日をパーティーの日にするんです」
「どういうこと?」
「一週間、パーティーの準備をするとします。準備期間が終わった日から、初めて森にいる日をパーティーの開催日にします。家は基本的に夜中に移動したら日中は動きませんから、その日の朝に出席者に知らせれば、昼過ぎまでには、みんな来られるはずです」
そうか、森なら、リズは近いし、天使のみんなは飛んでこられる。ヒースは転移魔法が使える。知らせはハヤブサに頼めばいい。
でも、と私は思いつく。
「もしそのパーティーの日、みんなの都合が悪かったら? 日にちが決まっていないんじゃ、あらかじめ予定を空けていてもらうこともできないわよ?」
「それは、できるだけそのあたりの予定を空けていてもらって、来られる人だけ来てもらうしかありませんが……、あまり考えすぎずに、気軽にやってみてはどうですか?」
「ユルにしては珍しく、ざっくりしたことを勧めるのね」
ふふっとユルは笑って、出来上がった生のパスタをバットに並べていく。
「たまにはいいじゃないですか。楽しそうですし。もし準備をするなら私も手伝いますよ」
パスタを茹でて、ミートソースを絡めて、おいしくいただいたあとで、私たちはパーティーに必要なものを話し合った。
招待状のことや、日持ちする作り置きの食べ物のこと。会場をどういうふうにしたら、みんなが居心地がよいか、など。
話が進むにつれて、パーティーを開いたら来てくれそうか、ハヤブサを使って、事前にみんなに聞いたほうがよいと、ユルがいつものように着実なことを言い始めたので、本当にパーティーをするのかなあと、私は少し不安になってきた。
「本当に開くの? うまくいくかしら? みんなが来てくれなかったらどうしよう」
「大丈夫ですよ。私も手伝いますし、みんなもきっと喜びます」
そこで、アンケートを取ることにした。もし魔法の家でパーティーを開いたら来てくれますか? という質問と、「はい」と「いいえ」どちらかへ丸を、と書いた紙を用意して、私は色んな人へ送った。
まずはリズ。ハヤブサにお願いすると、すぐにハヤブサは戻ってきた。
はい、のほうに丸が付いていて、「もちろん!」と付け足されていた。
続いて砦のみんな。これには参加したい人の名前がたくさん連ねてあった。ミラはハートで「はい」を囲っていて、ヘイリーとアマンダの他にも、ティムやアンも来たがっているとあった。
ユルに呼ばなくていいと言われたけど、エイデンにも知らせたら、「はい」のほうにチェックがついていた。「ぜひ伺わせていただきます」と、予想外に真面目な一文が付け足されていた。
ヒースは手紙の「はい」にも丸をしてあったけど、伝書ハヤブサがヒースの声で「もし開くなら行かせてもらうよ。手伝えることがあったら言ってほしい」と告げたあと、「……ちなみに、父さんも行きたがってるけど、仕事かもしれない」とごにょごにょ付け足していた。私は彼がザラムを「父さん」と呼んだことに感動してしまった。
みんなの返事に私が安心してにこにこしていると、ユルが、だから大丈夫だと言ったでしょう、というふうに微笑んだ。
翌日、私は正式にみんなへ招待状を書くことにした。
「この度、魔法の家にてパーティーを開くことになりました。日時は、これから一週間経ったあとで、最初に、家が王国のはじっこの森に来た日です。森に来た日には、朝のうちにハヤブサを飛ばして知らせますので、ぜひお越しください。昼過ぎから始める予定です……」
日にちが決まっていない異例のパーティーにも関わらず、みんな出席しますに丸をして、すぐに返事をくれた。




