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アクシオ編「エピソード・オブ・ドラゴンランサー Part④」

 町の北側にある闘技場は、よく見る円形の石造りの舞台となっていた。

 周囲には観客席があり、すでに多くの人々が詰めかけている。山間の町とは思えないほどの熱気だ。

 大会は、4人1組のチーム戦。

 武器の使用は認められているが、殺傷目的の攻撃は禁止。相手を戦闘不能にするか、場外へ落とせば勝利となる。


「第一試合から、なかなか荒れそうだな」


 アクシオは控室から舞台を見下ろす。

 そこでは、すでに別のチーム同士が激しくぶつかっていた。

 剣と斧が衝突し合い、魔術が飛び、観客が歓声を上げて大いに盛り上がっている。


「アクシオさん、作戦を決めましょう」

「作戦か。ビスタが前に出る。俺が崩す。セレナが隙を突く。プレオが支援。以上」

「雑すぎます」

「わかりやすいだろ?」

「まあ、間違ってはいないわね」


 セレナは表情を緩めて小さく息を吐く。


「ただし、あなたはひとりで突っ込みすぎないこと」

「努力はする」

「しなさい」


 ふたりのやり取りに、ビスタが盾を持ち、斧を担ぎ上げて笑った。


「俺が受ける。お前は好きに暴れろ」

「頼りにしてるぜ」


 やがて、彼らの名が呼ばれた。


「次の試合! アクシオ隊、入場!」

「いつから俺の隊になった」

「一番目立つからじゃない?」

「なんか納得いかねぇ」


 軽口を叩きながら、4人は舞台へ上がる。

 対するは、筋骨隆々の戦士2人と、弓使い、火術士のチーム。

 バランスは悪くない組み合わせだ。


「始めっ!」


 審判の声が響いた瞬間、弓矢が飛んできた。


「早いっ!」


 アクシオは槍で矢を弾く。

 同時に火術士が火球を放った。


「プレオ!」


―其は万物を遮る絶衝の盾となれ―

魔防壁エスタシルド!」

 

 アクシオの合図にプレオが杖を掲げて呪文を唱える。

 作り出された淡い光の壁が、火球を受け止めた。

 爆炎が広がるが、4人の足は止まらない。


「ビスタ!」

「任せろっ!」


 ビスタが盾を構えて突進する。

 相手の戦士2人が迎え撃つが、ビスタの体当たりは重かった。

 盾と盾がぶつかり、相手の1人が大きく後退する。


「力比べなら負けねぇよ!」


 そこへアクシオが走る。

 ビスタの盾を踏み台にして跳び上がり、槍の柄で弓使いを薙ぎ払って場外へ吹き飛ばした。


「ぐあっ!」

「悪いな。後衛から崩させてもらうぜ」


 弓使いが退場。

 火術士が慌てて詠唱を始めるが、セレナがすでに間合いへ入っていた。


「遅いわっ!」


 銀のショートソードが閃く。

 同時に剣先から氷の刃が走り、火術士の足元を凍り付かせて動きを封じた。


「アクシオ!」

「わかってる!」


 アクシオは高く跳躍して空中へ跳ね上がる。

 舞台上の観客がどよめいた。


「空を跳んだぞ!」

「なんだあれ!?」


 アクシオは空中で体勢を変え、槍の石突で相手戦士の背を叩いた。

 殺傷ではなく、重心を崩すための一撃。

 そこへビスタの盾撃が入る。


「場外だ!」


 二人の戦士はまとめて舞台の外へ弾き飛ばされた。


「勝者、アクシオ隊!」


 歓声が上がる。

 アクシオは着地し、肩を回した。


「悪くねぇな」

「今の空中機動、前には見たことなかったけど、どんな脚力してるのよ」

「俺も成長してるってことさ」

「調子に乗ると落ちるわよ」

「縁起でもねぇなおい」


 セレナの瞼を落とした冷たい言葉に、アクシオは後頭部を掻いた。

 その後も、4人は勝ち進む。


 第二試合では、全員が重装備の盾持ちチームと当たった。

 正面からでは押し切れない相手だったが、アクシオが上空へ回り込み、盾の死角から槍の柄で膝裏を打つ。

 ビスタが正面から圧力をかけ、セレナが雷の魔術剣で足元を崩し、プレオが防御術で反撃を防いだ。


 第三試合では、魔術士4人の遠距離チームと戦った。

 炎、氷、風、地の魔術が一斉に降り注ぐ。

 だがビスタの強固な鉄壁と、プレオの適格な防御術による守りの布陣。

 そしてセレナの剣から巻き起こる旋風。その牽制から繋げるアクシオの空中からの猛襲によって、勝利へと導く。

 観客の声は、試合を重ねるごとに大きくなっていった。

 

 そして、決勝。

 相手は大会優勝候補と呼ばれていたチームだった。

 双剣使いの男と大盾を持つ女戦士。巨大な鎖鎌を操る男。そして、多彩な術を使う魔術士。


「見るからに厄介そうだな」

「油断しないで。特にあの魔術士」

「わかってる」


 セレナの言葉に、アクシオは頷く。

 試合開始の合図と同時に、攪乱の魔術が展開された。


―凍結せし極寒の衣よ、大地を這いで氷波となれ―

凍晶波アイスウェイブ!」


 氷のフィールドを作り出す術。だがこれは、術の威力を弱めた通常とは異なる効果だった。

 闘技場全体に冷気が纏い、薄い霧が広がる。観客席の声が遠のき、視界が揺らいだ。


「来るぞ!」


 アクシオが叫ぶ。

 次の瞬間、鎖鎌が霧の中から飛び出した。

 咄嗟にビスタが盾で受け止める。


「くそ、重いっ!」


 続いて女戦士が大盾を前に突き出しながら、ビスタへ突進してくる。

 巨大な金属がぶつかり合う衝撃音。ビスタは踏みとどまるが、相手の力も相当だった。


「ビスタを正面に固定して、こっちを分断する気ね」


 セレナがショートソードを構える。

 しかし、霧の中から双剣使いが現れ、彼女へ斬りかかった。剣と剣が激しくぶつかる。


「プレオ、位置は?」

「さっきの魔術で視界が乱されています。ですが、音は拾えます」


 プレオは目を閉じ、杖の先を地に当てて音の波形を読み取る。


「アクシオさん、左上です」

「助かる!」


 アクシオは即座に跳んだ。

 空中へ上がると、霧の流れが見えた。魔術士は舞台後方にいる。

 霧の中心。そこから全体を操っていた。


「見えたぜっ」


 アクシオは空を蹴り、一直線に魔術士へ向かう。

 だが、鎖鎌の男がそれを見逃さない。鎖が蛇のように伸び、アクシオの足へ絡みついた。


「なにっ——」


 空中で動きが止まる。

 そこへ双剣使いが霧を蹴って跳び上がり、斬りかかってきた。


「アクシオ!」


 セレナの声。だが間に合わない。

 

「捕まえたつもりか?」


 アクシオは口元を吊り上げていた。

 絡まった鎖を、逆に足場にする。

 鎖を蹴り、角度を変えた。


「なにっ!?」


 予想外の動きに、双剣使いの斬撃が外れる。

 アクシオは鎖を伝うように加速し、鎖鎌の男へ迫った。


「悪いな。空を制するのは、俺の十八番なんでね!」


 槍の柄が鎖鎌の男の腹を打つ。

 男が膝をついたその隙。アクシオは上半身を捻って回転。槍を横に薙ぐ。

 柄が鎌男の脇腹に直撃し、場外へと吹き飛ばした。


「私に任せてっ!」


 セレナの剣に風が宿る。

 横薙ぎの一閃。風の刃が霧を裂き、魔術士の位置を露わにした。


「しまっ——」


 魔術士が後退しようとする。

 だが、すでにアクシオが空中から迫っていた。


「これで終わりだ!」


 槍の石突を叩き込み、魔術士を場外へ弾き飛ばす。

 霧が晴れ、残るは女戦士と双剣使い。しかしこの状況では、もはや2人に戦局の流れを戻す力はなかった。


「ビスタ頼む!」

「あいよっ!」


 ビスタが盾で女戦士を押し返す。盾同士がぶつかり、火花が散った。

 セレナが横から水の魔術剣で足場を滑らせる。


―其は万物を遮る絶衝の盾となれ―

魔防壁エスタシルド!」

 

 プレオの防御術がビスタの盾を覆う。


「今です!」

「うおおおおっ!」


 ビスタの盾撃に、法術のバリアの反発力が加わり、女戦士を場外へ押し出す。

 双剣使いは最後まで粘った。鋭い連撃でアクシオを追い詰める。

 だが、アクシオは一歩下がり、空を蹴った。相手の斬撃が空を切る。


「上だ」


 頭上からの声。

 双剣使いが見上げた瞬間、アクシオの槍が回転しながら落ちてきた。刃ではなく柄。肩を打ち、武器を落とさせる。

 そこへセレナの剣先が喉元へ突きつけられた。


「降参しなさい」

「……参った」


 審判が旗を上げる。


「勝者、アクシオ隊!」


 闘技場が歓声に包まれた。

 アクシオは大きく息を吐き、槍を肩に担ぐ。


「いやぁ、なかなか楽しかったな」

「あなた、途中で鎖に捕まっていたでしょう」

「あれは作戦だ」

「嘘ね」

「はい、嘘です」


 セレナの冷たい視線に、アクシオはだらしない顔で即座に白状した。

 ビスタが豪快に笑い、プレオも小さく微笑む。


「でも、勝てました」

「ああ。いいチームだったな」


 アクシオは3人を見渡す。

 かつての任務で一緒に戦った仲間。久しぶりでも、呼吸は合っていた。

 ひとりでは届かない場面でも、仲間となら届く。

 

(陸徒、早くお前たちとまた一緒に戦いたいぜ)


 息の合った戦いに、アクシオは少し前の過去を思い返し、表情を引き締めた。




 大会の翌日。

 約束通り、トラガは船を出すことになった。その横で、ビスタたち3人も荷物を整えている。


「お前らも祠に行くって言ってたな」

「ああ」


 ビスタが強く頷いた。


「俺たちも風の槍を探してる」

「おいおい、目的が同じかよ」

「正確には、槍そのものではなく、その力を必要とする依頼です」


 プレオが手振りを交えながら説明する。


「ある村で、祠に関わる古い記録を調べてほしいと頼まれました。その中で、嵐竜の鱗から作られた槍の話が出たのです」

「なるほどな」


 セレナが髪を分けながらアクシオを見る。


「あなたは、その槍が欲しいの?」

「ああ」


 アクシオの素直な答え。その瞳の奥には強い覚悟が座っていた。


「魔族と戦うには、今のままじゃ足りない」

「魔族……」

「色々あってな。笑えないくらい強い相手に負けた」


 いつもの軽口はなく、神妙な顔。


「だから、もっと強い槍がいる。俺の足についてこれる槍がな」

「……そう」


 セレナは瞳を閉じて静かに頷いた。


「なら、途中までは同行しましょう。私たちも祠に用がある」

「あぁ、助かる」

「ただし、槍を手にできるかどうかは別よ」

「わかってる。選ばれる必要があるんだろ?」


 アクシオは湖の向こうへ目を向けた。

 湖面を渡る風。山から降りてくる風。そして、祠の方角から来る風。

 様々な風が、アクシオを誘うか、あるいは拒むかのように強く吹いていた。


「さ、祠へ行こうぜ」


 アクシオたちの乗る小さな船は、湖面を進み始めた。

 湖の中央に、その祠はあった。古びた石柱。風化した階段。蔦に覆われた外壁。

 だが、崩れかけていながらも、その場所には不思議な静けさがあった。

 風が、止まらない。

 湖面は穏やかなのに、祠の周囲だけ絶えず風が巡っている。


「ここが、例の祠ね」


 セレナが小さく呟く。

 プレオは神妙な表情で杖を握り、ビスタは眉間を寄せた。


「妙だな」

「ああ」


 アクシオも槍を手に取る。

 突如と圧し掛かるように重くなる空気。

 ここは竜族を祀る祠。そのはずなのに、どこか淀んだ気配が混じっている。

 その時だった——

 祠の入口の影から、2つの黒い影が現れる。

 人間の倍ある背丈。黒い翼と赤い瞳。そして肌を刺すような邪悪な気配。


「なっ、魔族……!」


 アクシオは驚愕して歯を食いしばった。

 魔族の一体が、口元を歪める。


「風の槍を求めて来たか、人間ども」

「だったらなんだよ」

「ならば、ここで死ね」


 2体の魔族が、同時に魔力を高める。

 アクシオは槍を構えた。

 

「悪いが、そう簡単に死んでやるつもりはねぇ」


 隣でビスタが斧と盾を構え、プレオが呪文の詠唱準備、セレナが剣を抜いた。

 アクシオは精悍な顔のまま、口元で小さく笑う。


「行くぞっ!」


 風が、激しく吹き荒れた。

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