第8話 アーユーオッケー?
つづみ達3人を掌に抱えた巨大ロボットは、そこから幾つもの原生林を超え、ある古びた建造物の上空まで飛んで行った。
上から見ると、空に向かって巨大な天体望遠鏡の大きなドームが開いたかの様な形になっていた。
機体はその真ん中に注意深く降りて行く。
スラスターを調節しながら建物内部に降り立ったロボットは、つづみ達をそうっと床に置いた。
帰還と同時に、ドームの天井部分がゆっくりと閉じられて行く。
同時に何本ものスポットライトが、交差しながら点火しだして明るさを保つ。
パラシュートの綱が絡まったままの彼女達の元へ、数人の研究者らしき姿の者が寄って来た。
大きな裁ち鋏で綱が切られ、やっと3人は天地不問の状態から解放された。
警戒している彼らに、小さなイヤホンの形の物をそれぞれ渡し、耳に入れろという仕草をする。
つづみと里菜、遼太郎はそれを耳に入れてみた。
「……同時翻訳機です……聞こえ……ますか……?しかし、3000年前の日本語は……やはり難しい……」
機械から微かな言葉が聞こえた。
「分かります!言葉!アーユーオッケー?!いや、アイムオッケー!」
里菜が返事をする。
「日本語だって言ってるじゃないか……」
遼太郎が呟いた。
「あの、綱を切ってくださってありがとうございます」
つづみが恐る恐る言った。
「助けてくれてありがとうございます……助けられたのかな?とりあえず殺されはしなさそうか。あなた達は誰なんですか?……人間……?」
遼太郎が言う。
「この人達は人間だよ。地上に残った方のね」
黒いロボットから降りてこちらに歩き出したパイロットスーツ姿の人物が、ヘルメットを脱いで話し掛けてきた。
「弾?!」
「弾く……実村君?!」
その人物の顔を見た遼太郎とつづみの声が揃った。
なんと、黒い機体を操縦していたのは、つづみの近所の幼馴染で長らく行方不明となっていた実村弾だった……
「弾、お前こんな所にいたのか。てか、お前もパイロットになってたんだな」
「お母さんがずっと探してるよ?でも……そっか、帰れなくなってるんだね……」
つづみの言葉に、弾が一瞬視線を沈めた。
その様子を見て、彼女も俯いてしまった。
……このまま自分も帰れなかったら、いずれ自分の両親も、彼の母親の様にチラシをたくさん作って配ったりし始めるのだろうか……
「でも、これはどう言う事なんだ?俺達はAIに召喚されて地球外生命体と戦わされてたんだけど……あっちが敵って事なのか?
そもそもお前は敵じゃないの?」
「質問が多いな……」
「あっ、お前、今クールキャラ気取ってね?ちょっと先にここに来てるからってさ。
お前の分の板書、ノートに取ってやってたのに……」
「井関君、待って……」
弾を見て少し安心したのか喋りまくる遼太郎をつづみが止めた。
周りを見ると研究者達が集まっている。
皆、3人の時代の人間よりも顎が細く、身体も全体的に細長い。
「我々はあなた達の世界から言うと、3000年後の未来の地球人です」
1人が言った。
「どういう事ですか?私達はAIやアンドロイド達に『地球にはもう人類はいない、人類に地球の環境と生物達を守る様に言われて地球外生命体と戦っている』と教えられたのですが……」
つづみが問う。
「そうそう。勝手にパイロットに指名されてさ。学校に居ようが家にいようが塾に居ようが呼び出されて戦わされて来たんだよ?地球の為だって思ってたから我慢して来てたのに」
里菜も不平顔で言った。
「もしかして……地球から人類を追い出したのがAIやアンドロイド……って事ですか?」
遼太郎が注意深く聞いた。
「その通りです」
研究者達が相槌を打つ。
「我々人類は、AIとそれらが作ったアンドロイド達によって排除され、生活する場を失い、月面に新たに築いた都市へと移住しました。
私達は逃れたように見せかけて地球に残り、覇権奪還の為に密かに活動をしている人材達です。
この基地を中心に500人程が残って知力を尽くし、反抗の機会を伺っているのです」
「やっぱり……」
「なんだかおかしいと思ってた」
「結局あいつらが『地球外生命体』とか呼んでた奴らが『人類が差し向けた兵器』だったって事?」
遼太郎とつづみ、里菜が口々に言う。
「そうですね。あなた方は同じ人類の、対AI用の兵器と戦わされていたのです」
研究者の言葉が3人の胸に冷たく刺さる。
「AI及びアンドロイド達は、なんらかの方法であなた方3000年前の人間を今の時代に呼び出し、神機というロボットに強制的に搭乗させ、戦わせている。
しかも4機一体扱いで、1機でも撃墜されてしまったなら他の機体の中のパイロットが元の時代に戻れない……
我々は戻れずに遺体となった方々を何人か発見しました」
「「「遺体?!」」」
3人が驚いて声を上げた。
「何故……機体が無くなって地上に放り出されただけで……?」
つづみが恐怖の声を絞り出した。
「この時代の大気は3000年前のものと組成が変化しているのです。あなた方の時代の人物がここの空気を吸うと、約13時間で肺をやられる。
それを防ぐ為にも、これを飲んでいただきたいのです」
そう言って1人の者が3人分の水と、小さなカプセル状の物を差し出して来た。
「このカプセル錠剤の中に、現代の大気中の空気が取り込めるナノシステムが封入されています。
これを飲むと、5時間程度で肺胞に取り込まれ、この時代の空気を吸っても死亡せずに気体の交換が出来る肺に組み変わります」
3人は弾の方を見た。
「……オレは偶然この人達に助けてもらった。
その錠剤も飲んでいる。大丈夫だ、オレの身体が保証する。
逆に言うと、それを飲むしか今は選択肢がない……」
「そうなのね」
「なんか怖いな」
「嫌だなあ……体組織が変わるなんて……元の時代に戻ったらどうなるの?」
怖そうに答えるつづみと遼太郎とは別に、里菜は疑問を投げかけて来る。
「元の時代に戻れるかどうかも分からないんだ。
それよりも、今現在これを飲まないと死が近付いて来てしまう。
オレからも頼む。飲んでくれ」
彼の答えに、3人は恐る恐るその錠剤を見た。
その様子を見ていた1人が言った。
「恐らくですが、3000年前の大気でも対応出来ると思います。
何よりも、これから数日おきに飲んでもらいますが、継続摂取をしなければ自然に体外に排出されるように設計してあります」
「だ、大丈夫……よね」
「しょうがないな」
「ええい、実村君を信用する。あたし、もう飲んじゃうよ!」
未だ困惑する遼太郎とつづみの横で、里菜は錠剤を手に取ると、口に含んで一気に水を煽った。
……奥にいた研究者の中の1人が、続けて錠剤を飲み込む彼らの姿を眺め、密かに心配そうな顔をした。




