第15話 話すロボット
「桜場。どうした?」
耳元に通信が入った。遼太郎からだ。
「……なんだかこのロボットが……」
「ロボットが?」
[君と一緒に歩くよ!ここから出るね]
「え?あ、うん」
また突然聞こえてきた声に反応し、つづみは足を踏み出した。
「?桜場、誰かと話してるのか?」
また遼太郎から通信が入った。
どうやら声はつづみの頭に直接響くようで、通信機も拾わないらしい。
「……ううん、なんでもない」
彼女は咄嗟にそう答え、足元と前方に集中した。
4機の機体は、自力で歩いて500m程離れた演習場に向かった。
そこは刈り込まれて広々とした草原と、所々に立木を残して利用している場所だった。
「ここでまず歩行訓練、スラスター調整をしてもらいます。
後日には立木を利用した射撃訓練もします。
実村君は各機のフォローを!」
フロートバイクで追い掛けて来ているイヴァンが通信機に向かって話す。
「「「「はい!」」」」
4人は素直に返事をした。
[広いね!ボクは目覚める前は頭だけだったから、歩いたことはなかったんだ。
ここに見えているのは何?]
歩きながら『水』が語り掛ける。
「頭だけ?そこからまた寝かされてたって事?」
[うん。全身が出来てるなんて知らなかった。歩くの初めて。これが『外』なの?
足元は緑色で、上は水色だよ]
「水色なのは空だよ。
地面は整備された草原と、林があったのかな、木がたくさん生えたままになってる」
つづみが小声で話す。
もしかしたら、心の中で思うだけで良いのかも知れない。
彼女達は暫く歩いてロボットの感覚を掴む。
[ねえ、ここは何て言う星なの?]
『水』が聞いて来た。
「なんていう星って……もちろん『地球』だよ?」
[地球?『惑星エスラータ』ではないの?」
「……え?」
つづみの動きが止まった。
同時に『水』も止まる。
「桜場さーん、どうしました?遅れてますよ」
急に止まったつづみにイヴァンが話しかける。
「あ、はい!すみません」
彼女は我に帰ってパッドを握り直した。
「次、軽く走ってみましょうか」
彼が言ったので、弾の『雷』も見守る中、3機は腕を振って小走りに走ってみた。
ロボットでありながら、その様はまるで人間と同じに見える。
次にスラスターを噴射して上空に上がり、慎重に降りてみる訓練をした後、その日は一旦終わりとなった。
やや動揺していたつづみは上手くバランスが取れずに、降下の際に『雷』に支えてもらう羽目となった。
その後各機ベースドックに戻り、コックピットから出た4人は、出力を弱め、アイドリングに落とす様子を眺めていた。
『水』の意識も眠るのだろうか……
「つづみ、なんだか様子が変だね。怖かった?」
里菜が聞いて来てくれた。
「ううん……怖くはないけれど、ちょっと……
ね、みんなのロボットって何か言う?」
つづみが問う。
「?何も言わないぞ。神機と同じ、無味乾燥なロボットだけど……」
遼太郎が答える。
「オレの『雷』も駆動音だけだな」
弾も答えた。
「あたしの『風』もブォンブォン言うだけだよ?」
里菜も不思議そうに返す。
「そうなんだ……」
「どうしたんだ?桜場」
弾が不審げに聞いて来た。
つづみは『水』との会話を伝えたかったが、辺りを見回した。
4人は常に監視されている。
「……何でもない」
仕方なくそう呟いたが、ついと顔を上げると今度は勢いよく里菜に言った。
「里菜、今日さ、時間合わせて一緒にお風呂入れる?」
「え?うん、良いけど……どうしたの急に」
彼女の言葉に里菜は一瞬戸惑う。
つづみがガバッと背の高い彼女の腕に縋り付いた。
勢いが付いたのか胸元を押し当てしがみ付く。
「お願い、一緒に!今日は一緒がいい。8時でいいかな。部屋に迎えに行くから」
「あ、うん……じゃあ待ってるね」
里菜が急に甘えられた為にやや照れながら返す。
目の前の、体のラインを拾うパイロットスーツでの突然のやり取りに、男子の2人はやや頬を染めて顔を背けた。
「……オレ達は別に時間合わせなくてもいいから自由に入ってくれ」
弾が言った。
「そ、そりゃそうだろ」
遼太郎が返事をした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の夜、広い女子浴場には2人だけで湯船に浸かっているつづみと里菜がいた。
「つづみ、今日はどうしたの?初めての訓練で緊張した?」
里菜が聞く。
「……それもあるけど、部屋で話すと盗聴されてるかも知れないから言えなくて……
流石にお風呂は大丈夫かなって思って、誘ったの」
つづみの返しに彼女は驚いて向き直った。
「何?何かここの人達に聞かれたらまずいことでもあった?」
「うん……」
掛け流しの綺麗な湯面に顎を乗せるようにつづみは返事をした。
「実は私のロボット、喋るんだ。結構小さい子みたいに可愛くさ」
「えっ?嘘何それ羨ましい。
でもそれって頑張ったら『風』とも話せるって事かな……」
「分かんない。でもね、それで……話してたんだけど……」
「うんうん」
彼女は意を決した様に顔を上げ、里菜を見て言った。
「あのね、ここの人達……この人達こそが『地球外生命体』かも知れないんだ」
ピチョン、とシャワーヘッドから湯が垂れ落ちる。
その延長線上に、驚いて何も言えない里菜の顔が見えていた。




