第14話 ベースドックのロボット達
『開拓者』と名付けられたそのロボット達は、静かにベースドックに並んで立っていた。
つづみ達が連れて来られた時には必死だったので、周りを見回す余裕はなかったが、確かにあの巨大な天体観測ドームのような開閉式の天井がある建物だった。
井関遼太郎の『火』、金子里菜の『風』、そして桜場つづみの『水』という名のロボット。
機体は全長17m程の人型だ。
顔は双眸カメラ付きの瞳以外はマスクで覆われており、頭に通信機能があるのだろう、角が付いた美麗な形のヘルメットを被っている。
全体がやや銀色ベースの色で、しかし光を受けると暗目の虹色に反射する。
実村弾の『雷』のみ試作機(零型)で、真っ黒な機体だが、こちらの3機は違いといえば胸元の排気スラスターと関節部の金属の色が、『火』は、赤、『風』は緑、『水』が青に塗り分けられている所ぐらいだろう。
それぞれかなりの間隔を空けて立たされている。
各機の足元には10人ずつ程の整備エンジニアが集まり、関節や各部のチェックをしていた。
彼らが見上げた背中には巨大な電源の様なソケットが嵌め込まれ、その根元にもエンジニアがいる。
「動力には小型核融合炉を使用しています。
初めての機動には大量のエネルギーを使うので、あの様にソケットが嵌められているのです」
イヴァンが説明する。
「まだ起動していないということですか?」
遼太郎が聞いた。
「はい。システムと機体全体のスリープ状態維持の為に外部電源で入力はしていますが、本機動させているのは『雷』だけです」
彼がそう語っている時、ちょうど上空から『雷』が帰って来た。
慎重に降り立つと、ズシン、ズシンとゆっくり歩いて自分の機体の定位置に立つ。
ロボットが停止して暫くすると、大きなエンジン音が緩やかになった。
「小型核融合炉は一度起動させた後停止してしまうと、再起動に物凄いエネルギーを消費するので、帰還後はああやって燃料供給量を減らし、火力を落としてアイドリング状態にするのです」
イヴァンの説明が続いた。
胸元のパイロットハッチが開き、実村弾が出て来た。
ちょうどその高さに設置してある足場を伝って降りて来る。
3人とイヴァン、ケーナを見つけると近付いて来た。
「みんなここに来ていたのか」
「おかえり、弾」
「実村君、お帰りなさい」
「AIの奴らどうだった?」
弾の声掛けに、遼太郎、つづみ、里菜も応じた。
「今日は月からの攻撃はなかったみたいだ。
オレがこの前潰した射出口はまだ修復途中だったけれど、裏にもう一つの射出口を発見したから、出撃に問題はなさそうだった。
残念ながらまだ過去から人間が呼ばれているんだろうな」
彼が答える。
「その真っ黒な機体で奴らの基地に接近したのか?」
遼太郎が聞いた。
「いや、かなりの距離からもカメラで遠隔で見る事が出来るから、周囲2㎞は離れるように気を付けた」
「偵察ありがとうございます」
イヴァンが言った。
「危険な事がなくて良かったわ」
ケーナもにこやかに言った。
続けてイヴァンがつづみ達を眺めて口を開いた。
「1週間後にはいよいよ搭乗してもらい、各機を起動させ、訓練に入りたいと思います。
本番です。心して過ごしてください」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
つづみ達がシミュレーターで訓練を積んだ1週間後、彼が言っていた様に本番が来た。
彼女達はパイロットスーツに身を包み、各機体のコックピットにいた。
「……これ、本当に私が動かすの?」
微かに光る計器を前にして、操縦パッドに手を包んだつづみは呟いた。
パッドは伸縮自在のワイヤーと繋がっており、自由に動く仕様だ。
彼女の前腕を包むプロテクターの先に指先の動きをトレースするナノマシンのサックが取り付けられ、指に嵌められている。
コックピットは、神機と同じく立って操縦する様式だった。
ただ違うのは、こちらは脳波を読み取る為と安全を考慮したヘルメットを装着する事と、同じく背中が当たる部分の固定ベルトが腰にも回っている事だろうか。
しかしながら可動範囲は広く、全身の動きの邪魔はしない。
刀を振う時に腰を落とす事も可能だ。
なのにいざという時にはしっかり固定はしてくれる。
一体どういった技術なんだろう……
脚に履いている動きを読み取る長いブーツを繁々と眺めながら、つづみは不思議に思った。
「各機、エンジン点火します!」
炉心エンジニアの声が響く。
重水素の入った小さなカートリッジが開放され、小型核融合炉に火が付けられた。
フイィィィ……と音がし始め、周りが明るくなり、全方位型モニターが付いた。
「各機体、融合炉正常反応!そのまま全身が温まったら歩き出してみてください。
冷却システム安定!行けます!」
ロボットの背中や脚部に付いた冷却システムからシュウウと音をさせて排気が漏れて行く。
目の前の画面にシステムオールクリーンの表示が出る。
神機の様に射出されるんじゃなくて自分で歩いて訓練場に行くんだな、とつづみは思った。
まもなく全身が温まって動ける様になった。
「『雷』、出てください。続いて『火』、『風』、1番奥の『水』、出てください!」
管制部から指示が出る。
「いよいよだ……」
つづみは呟き、手元のパッドと足元に力を入れた。
その時、何処かから声が聞こえた。
[……ドコ……ココハ……何処……?]
「え?何、今の声……」
彼女がキョロキョロと周りを見回した。
「『水』!出てください!」
指示が入る。
「はい!」
慌てて返事をして前を向く。
[……ボク、歩くの……?君は誰……?]
また声がした。
「ボク?もしかして、あなた、『水』?」
慎重に一歩を踏み出しながら、少し昂る気持ちで彼女は声に問い掛けた。




