第13話 シミュレーション
暗闇の中、遠くから何かの機体が迫って来る。
神機の様だ。
つづみは全方位モニターの操縦室で、目を凝らした。
同時に画面が敵機の接近を知らせる。
自分が乗っているロボットの背から剣を出す。
持ち手しかなかったそれには、引き抜かれると瞬時にプラズマを帯びた硬度の高い刀身が形成された。
迫って来たロボットと剣を交える。
ギィン!と鈍い音を立てて相手の剣を弾く。
「アクアブレード!」
つづみが叫ぶと、左腕部から高圧水流の刃が出現し、たちまち敵の装甲を削った。
そこへ、
「ハイドロキャノン!」
と叫び右腕を翳すと、前腕部がキャノンに組み代わり、圧縮水弾を連続で発射した。
水弾は相手のロボットに次々と着弾し、水圧爆発を起こした。
神機はたまらず爆散する。
「……ふう……っ?!」
一息付く間もなく次の機影が見える。
「次?!聞いてないよ!
だいたい無人兵器としか今まで戦った事ないのに……」
彼女は焦って手元の操作ユニットに力を入れた。
見えて来た機体はあの、弾が乗っていた真っ黒なロボット、雷だ。
スラスターにブーストを掛け、急接近で真っ直ぐ向かって来る機影に心臓が跳ねる。
「やっぱダメ!ちょっとちょっと!ストーップ!
いくらシミュレーションだからって、まだ怖いって」
つづみは叫んだ。
すると目の前の画面の右下にカウントが現れ、みるみる0数値になった。
同時に周りの映像が消え、ただのコックピットになる。
「少し早すぎましたか。お疲れ様です」
外からイヴァンの声がした。
ハッチが開かれ、つづみは乗っていた操縦シミュレーターから降りた。
「ねえねえ、どんな感じ?」
里菜が寄って来て聞く。
「どんな感じも何も、本当の戦闘みたいになってて怖いよ」
「つづみはパイロット経験ちょっと浅いもんね……」
不安げにため息を吐いて話す彼女に同意するように、里菜はシミュレーターを眺めた。
中にはイヴァンが入り、今までのつづみ機の『水』という名のロボットのシステムから里菜機の『風』に変更している。
彼女らの横では、もう1機のシミュレーターがあり、遼太郎が使っていた。
「……本当にこれで神機達と戦うのかな。私は嫌だな……」
変更が終わり、パイロットスーツを着てヘルメットを装着し、シミュレーターに乗り込む里菜を眺めながらつづみが言った。
「……」
イヴァンは黙っている。
彼としても助言が出来ないのだろうか。
ハッチが閉まり、起動音をさせて里菜がシミュレーションを始めた。
外にも連動した画面があり、戦いぶりを見る事が出来る。
神機では主にサブアタッカーを務めていた里菜らしい戦い方だ。
「あの、実村君は今、何をしているんですか?彼だけ別用があると言っていましたが……」
つづみは思い切ってイヴァンに聞いてみた。
「彼は密かにAI達の拠点付近に行っています。
月からの攻撃隊が来て神機達が出撃した場合、敗北して過去から呼ばれている人々が帰れなくならないように、援護するつもりだと言っていました。
人類側からの兵器には取り敢えず人間は乗っていないので……過去の人を守りたいと言っていました」
「実村君……」
「AIとアンドロイド側が過去の人間を呼び寄せてしまうことがネックですね。
彼らがやっている事は非道なのに、中の人間は守りたい……
同じ人類としてその気持ちは分かります」
「月側と連絡を取って、攻撃を止めさせることは出来ないのですか?
攻撃が止めば、過去から人間が来ないでしょう?
その間に私達がなんとか潜入してタイムリープの謎を解いて……」
つづみの言葉に、何故かイヴァンは驚いた顔をした。
彼は暫く黙っていたが、やがて徐に言った。
「月と連絡は取れません。何より、方法がないのです。
衛星も通信も潰されてしまっていて……でも新規に打ち上げると私達の存在がAI側に知れ渡ってしまうし、ハッキングされてしまいます」
「じゃあ、この組織は完全に独立しているって事?
こんなに生活圏もはっきりしているのに?」
「そうですね。陸の孤島と言ったところでしょうか」
イヴァンの言葉に、つづみは何故か違和感を覚えた。
それが何なのかは分からない。
けれども、この人達は人類を地上に帰したいと思っている筈なのに何故消極的なのか、ともすれば人類側の兵器を叩こうとしている実村弾の事も、何故止めないのか……
彼女は密かに考えを巡らせていた。
やがて、遼太郎も里菜もシミュレーションを終えた。
「井関君、里菜、お疲れ様」
「うん、まあまあ楽しかった」
「俺はヒヤヒヤしたぜ。雷が強すぎる……
シミュレーションとはいえやられて怖かったし」
3人は口々に言い合う。
「これから暫く、毎日数時間はこのシミュレーターで実戦体験を積んでもらいます。
明日には調整中のもう1台も使えるようにしておきますので、3台で同時に訓練出来ます。
では、今からあなた方のロボットを見に行きましょうか」
イヴァンがそう言い、階下へ続くエレベーターのボタンを押した。
皆で1階に降りると、今までいた基地兼司令塔を出て、隣にある巨大な格納庫へとゾロゾロ歩いて移動をした。




