第7話 男どもの暴走
「これで3班の班員、全員揃ったってことで大丈夫かな?」
縦2席、横3席の計6席で集まった俺たち3班の様子を見て、センター分けイケメン——————鳴宮 陽斗くんが言った。
なぜ俺が、あのセンター分けイケメンの名前を知っているのか——————それは今朝、神野さんの"話"の際に重要人物として名前が挙がったからだ。
彼女の話はなんだかんだ長く、同じことの繰り返しや妄想、愚痴なども混ざっていてあまり聞く気にならなかったが、ざっくりとまとめると、"鳴宮くんの好感度上げを手伝ってほしい"とのこと。
そして、そのために俺がしなければいけないことを色々と言われていた。
——————のだが、今になって思う。
このしょうもない計画に手を貸す必要があるのだろうか?
そう思っていると、対角線上からとてつもない視線を感じた。
視線を向けることすら嫌なのだが、とりあえず視線を感じる方を見てみる。
そこには、笑顔で鳴宮くんと他の女子2人と話す神野さんがいた。他の3人と無表情&無言を貫く隣の柳澤さんは気づいているかどうかは分からないが、神野さんの目だけは笑っておらず、俺を殺気混じりの、鋭いナイフのような目で見ている。
多分、さっさと行動しろ、という意味の睨みだと思うが、正直気は進まない。
俺が神野さんに(強制的に)頼まれている行動。
それが、班の仕事の見直しを提案すること。
——————『前までいなかった柳澤さんっていう、仕事が決まっていない人がいる以上、今の仕事をもう一度決め直しませんか?』って言いなさい! そうすれば、もう一度役割分担して、私だけ副班長になるって感じにもなるでしょ!
というのが、神野さんの考えらしい。
俺の予想では、チェック係に空きがあるので、そこに柳澤さんを入れて終わりになるのではないかと思うのだが。
気が進まない以上、俺も柳澤さんのように無表情・無言するのがいい——————そもそも、やっても意味無さそうだし。
6人班であるにも関わらず、話しているのは4人だけ。
なんともおかしな状況だ。
……一人はめっちゃ睨んでくるし。
和気あいあいと話し合う4人と、そのすぐ側で黙って座る2人。
そういった、あまりいいとは言えないバランスが保たれている中、そのバランスを一気に崩壊させる一言が飛んできた。
「——————あ、そういえば! ねぇねぇ月島くんっ! なにか言いたいことがあったんじゃなかったっけ?」
ついに強硬手段に出やがった。
何も言わない俺に痺れを切らしたのか、思い出したと言わんばかりの演技で、神野さんは俺に話を振ってきた。
全員の視線が、俺に集中した。
今まで動かなかった柳澤さんも、一貫していつも通りの無表情だが、俺を見ている。
俺に注目が集まっていることをいいことに、口パクで『さっさと言え』と言う神野さん。
無関心の眼差しを奥に秘めたような視線で俺を見る、鳴宮くんと他の女子2人。
面倒すぎる。
なぜこうなったんだ。
そう思いながら、俺は神野さんの指示通り——————とはいかないが、それに似たようなことを話すことにした。
「前回いなかった柳澤さん……の仕事って……どうするのかな……? なんて……」
言い終えた直後、死ぬほど後悔した。
なんだあのゴニョゴニョモゴモゴク〇陰キャムーブは!!!
死ぬ程恥ずかしい!!!
いっそ殺してくれ!!!
柳澤さんをチェック係にすればいいだけの問題。
そんな簡単なことなのに、わざわざ問題に挙げやがってク〇陰キャ、とでも思っているのだろう。
終わった終わった終わった……
一人顔を俯かせ、ただただ後悔の念を抱くだけの俺だったが——————
「たしかにそうだね。ありがとう、月島くん」
意外にも、俺の予想とは180℃違う返答が返された。
実はコイツ、良心の塊なんじゃないか?
そう、鳴宮くんのことを思い始めた。
「じゃあ柳澤さん。副班長やらない?」
——————ピシャァァァァァッ!!!
一筋の閃光が、灰色の雲に覆われた空を轟音と共に一瞬だけ照らした。
雷とほぼ同時だった。
だからこそ、轟音の中聞こえた鳴宮くんの発言が、なにかの聞き間違いだろうか? そう思った。
副班長は謎だが既に3人いる。
余っているのはチェック係ただ一つだ。
そう。
だから、俺の聞き間違いだと思ったんだ。
その時、俺は神野さんの表情が気になった。
俺が視線を移した時、最初に見えた神野さんの表情は酷かった。
思っていた方向とは全くの逆方向へ話が進み、焦っているのだろう。明らかに血の気が引いたような顔だった。
冷や汗が額から何筋か、流れている。
「ちょっと、陽斗? さすがに四人も副班長いらないわよ。 そうよ、確かチェック係が空いてるわ! それでいいじゃない!」
若干必死気味の神野さんの言い分に、他の2人の女子が同時に頷く。が、鳴宮くんはダルそうに——————氷のような冷たい視線を浴びせながら言った。
「そんなに言うなら、神野がチェック係になればいいじゃん? そうすれば、ちゃんと仕事の枠、埋まるでしょ?」
なんとなく、コイツは女に目がないと思っていた。
だが、こんなにもタチが悪い人だとは思ってもいなかった。
興味の対象は自分の近くに置こうとし、用済み——————興味が無くなれば、バッサリと切り捨てる。なんの躊躇いもなく。
目尻に涙を浮かばせる神野さんから視線を外し、柳澤さんに視線を移した鳴宮く……鳴宮は、続けて言った。
「柳澤さんが副班長になってくれると、俺としてもありがたいんだよなぁ。柳澤さんってすごい真面目そうだし、頼りになるというか!」
鳴宮の優しそうな笑顔が、今はもう底なし沼のような欲望に染められた恐ろしいものにしか見えない。
というか、なんで授業中なのにこんな欲望丸出し姿晒せんの?
周囲は全然気づいていない。
気づかないであろうと思っての行動なのか?
そう思うと、余計に嫌悪感が湧いてくる。
——————だけど、俺は何も言えない。
だって俺は、面倒くさがりで、陰キャで——————下手したら、コイツ以上のクズなのだから。
完全に鳴宮のペースに乗ったこの空気。
神野さんは現実を否定するかのような——————希望にすがるような状態。柳澤さんの無表情は崩れ、財布を忘れたあの時のような、困惑したような状態だ。他女子二人はこの空気の中、何一つ喋ろうとしない。
そして、俺は……
多分、ここにいる人では誰も止められない。
——————そう思ってた。
「——————やめろよ」
そんなことしても、意味などない。
わかっている。
痛い程、わかっている。
俺が何かを言うのは、確実に場違いなことも。
だが、気づけば俺は、たった一言、心の奥の本音の一部を、吐き出していた。
感情が、理性に勝ってしまった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます!
色々と忙しく(?)バタバタとしていたのですが、7/29(昨日)から風邪をひいてしまいました。
次回でちょうど区切りがいいので、明日の8:00を最後に、3日ほどストック作成と療養の時間をくださると嬉しいです。
改めて、まだまだ未熟な私の作品をここまで読んでくれた読者に感謝申し上げます。




