第5話 無表情は崩れる
いつの間にか持ってきたソフトドリンクを飲んでいる柳澤さんに、俺はまだ緊張気味に話しかけた。
「鬼山先生に……他にその……なんか言われたこととかって……あります……いや、ありますでしょうか?」
日本語大丈夫か?
そう思ったが、とりあえず細かい事を考えるのをやめた。
「ううん、さっきも言ったけど、月島君に"昨日のことで話がある"って言えば伝わるって——————あと、こんなものも貰った。月島に渡せって」
そう言って、柳澤さんは先程までジッと見つめていたカバンを開け、何かを取り出した。
柳澤さんから渡されたのは、一枚の紙だ。
ざっと読む限り、班別行動についての説明だけで、班についての言及はなされていない。
というか、こんなプリント貰ってないんだが?
プリントの裏を見ると、何やら茶色い付箋が貼ってある。
『月島へ
知っていると思うが、3班には柳澤も入ってもらうことになってる。
俺は忙しいから、説明する時間を取る事ができない。
だから、お前が柳澤に昨日の班の役割についてと班別行動についてを教えてやってくれ。
他の奴らと比べて、真面目なお前だから頼んだんだ。
柳澤と仲良くやってくれよ! 』
説明責任を果たせ!
使い方全く違うけど!
というか、この紙を最初に出してれば、話もっと簡単だったよな?
愚痴をいくら言っても仕方がない。
俺は昨日の班の人数と役割についてを目の前で、無表情のまま空のコップを持つ柳澤さんに話した。
★★★
「大体はわかった」
話を静かに聞いていた柳澤さんは、机の上に出していた鬼山先生からのプリントをカバンにしまいながらそう言った。
「でも、なんで副班長が3人もいるの? 普通は、一人なんだよね?」
無表情のまま、小首を傾げて柳澤さんは言った。
「俺に聞かれても……決定したのは俺じゃないし……」
柳澤さんの疑問を解消する回答を、俺は持ち合わせていない。まぁ、あの含みのありそうなセンター分けイケメンのことだから、なんとなくはわかるが。
「そっか。じゃあもう用が済んだし、私行くね」
「え? ああ、うん」
学校で話せば良かったのでは?
なんていうツッコミも脳裏に浮かんだが、クラスの美少女がクラスの陰キャに話しかける構図なんて、傍から見たら自分の株を下げるだけの行動になってしまうのだろう。
俺はそう勝手に理由を付けて、柳澤さんの後について行った。
「あれ? 財布……」
無人レジの前、柳澤さんはカバンを漁りながらそう言った。今までの無表情が、今がちょっとした焦りに染められている。
まさか、財布がないことに気づいてて、奢らせるために俺を連れ出したとかではないだろうな? とひねくれた考えが浮かんだが、柳澤さんの焦りの色は濃くなるばかり。
俺は小さなため息をつき、代わりに会計を済ませるべくレジと柳澤さんの間に割って入った。
「え、いや……私が払うよ! 勝手に連れてきたのは私だし……」
「いつまでも財布を探してるから……その……いや、俺が奢る!」
余計な事を言いそうになり、俺は強引に話を終わらせるように言った。何かを言いかける柳澤さんだが、そんなのは気にせずお金を投入していく。
余計な出費にはなったが、あの場を収めるにはこうするしかない。
会計を済ませた俺は、柳澤さんを置いて、そそくさと退店しようとする。そんな俺の肩を「待って」と言いながら、柳澤さんが力強く掴んだ。
柳澤さんの方へと振り向いた俺に、柳澤さんはあたふたしながらも、「ありがとう!」と恥ずかしそうにそう言い、逃げるように店を後にした。
あの無表情はどこへやら。
そう思いながら、俺はどこか頭の中が空っぽになったような状態で、店を後にした。




