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第2話 反省文とサボりと班決めと

 俺の完璧な作戦が打ち砕かれた後は面倒なことばかりだった。

 その後、工藤という男子生徒も「勉強でした」と主張したのだが、彼は鬼山先生が連れてきていなかったがために真偽不明。


 鬼山先生は「疑わしきは罰せず」の理念に従い、彼を先程の女子生徒同様に無罪放免とした。


 よって、俺と指導の常連客が取り残され、ネチネチと長い説教が続いた。昼休みが終わるまで続いたその説教を聞き終えた矢先――――――


「もちろん、今回も反省文を書くこと! しょうがないから提出期限は明後日だ。忘れるんじゃないぞ」


 と、反省文という面倒なことがふっかけられた。


 そして現在。


 スマホ使用初犯の俺は常習犯たちと比べて早めに解放され、反省文の原稿用紙片手に、既に授業が始まり、静けさだけが残る廊下をとぼとぼと歩いていた。


「意外と行数あるのかよ……」


 原稿用紙を眺めながら、俺は愚痴をこぼした。

 よくよく考えれば、今回の件の元凶は修也の連絡だ。

 もし、修也が学校をサボらず、連絡もよこさなければ、こんな面倒なことなど起きてすらいなかったはずなんだ。


 アイツ、明日覚えとけよ……

 

 ……それは別として、今は授業中だ。

 今は、恨みの感情でいっぱいだが、素早く気持ちを切り替えて行かなければ、これからの人生やっていけないだろう。


 頬を両手で軽く叩き、とぼとぼとした小さな歩きから、目的地に急ぐような早歩きに切り替えようとしたその時、いつから後ろにいたのか分からない女子生徒が、俺を追い抜くように横を通り過ぎて行った。


 左手に持つ小さな青い紙を見て、保健室を出ていった人だろうと思った。大方、仮病で学校をサボろうとして成功したのだろう。


 仮病――――――?

 修也――――――?


 修也の顔が思い浮かんだ。

 ニヤニヤとしながら、こちらを嘲笑うかのような表情だ。

 ……見たことないが。

 だけど、なんかムカつく。

 そういえば、今ここにいる元凶がこいつじゃないか!


 ……いや、いかんいかん。

 落ち着け、月島 風音。


 忘れようとしていた修也の顔が思い浮かぶと同時に、先程までの怨念が溢れそうになるのをこらえた。今度こそ大丈夫。そう思った瞬間、ふとあることに気づいた。


 あれ、そういえばさっきの人、最初に無罪放免になった人じゃ――――――?


 現在俺がいるフロアには、2年生の教室しかない。奥の階段を使うのなら、1年生や3年生のフロアに行けるが、それなら俺のすぐ近くにある階段で昇り降りをするはずだ。


 同じ学年なんだな。


 そう思いながら俺は、なんだか授業を受けるのが――――――教室に向かうのが面倒になり、トイレの個室に向かうことにした。



 ★★★



 気づけば翌日。

 あれ以降、なにか気になることや面倒なことは起きなかった。


 今日も一日、あっという間に終わるんだろうな、という根拠のないことを思いながら、俺は白紙の反省文片手に朝のホームルームの開始を待っていた。


「おっはぁ! 月島、一昨日ぶりだな」


 突然後ろから話しかけられた。

 が、クラスで俺に話しかける奴など一人しかいない。

 振り向く先にいた金髪の男子生徒。

 彼こそが、笹原 修也だ。


 耳にピアス。

 左腕には銀色の光沢を放つ高級そうな腕時計をつけている。

 一見チャラいが、悪いやつではないのも知っているし、高級そうな腕時計に見えて、実は100均産のちょっと高めの代物だということも知っている。

 その容姿が校則に引っかかっていないのかは知らないが。


「いやぁ、昨日は急に連絡して悪かったな。起きたらもう昼休みだったからさ」


 寝すぎだろ。

 そう思いながら、俺はこっそりと左手に持つ反省文を机の中にしまった。


 昨日の出来事は修也には話していない。

 面倒だし、恨み言を言っても意味が無いからだ。

 それに、そのことを知られて別の意味で面倒なことが起きるのも厄介だ。


「別にいいけど、あんまり学校の時間中に連絡すんなよ?」


 昨日のようになるから。


「あはは、わかったわかった」


 ヘラヘラと笑う修也だが、本当にわかってくれているのだろうか。

 不安要素しかないんだが。


「あ、そういえば」


 修也が何かを思い出したかのように、右拳で左の開かれた手をポンと叩いた。

 そんな動作、今更やるヤツいるんだな、と思っていると、修也が話始めた。


「そういえば、そろそろ課外活動の班決めじゃね?」


「課外活動? なんてあったか?」


「……お前、冗談だろ?」


 めちゃくちゃ引いている修也には悪いが、本当にそんなものがあっただろうか。言われてみれば、たしかに一年の頃のこの時期、どこかの施設で班別行動をした気がする。


「2年生の班別行動は確か、修学旅行の時に集合する空港の下見をして、その後はチェックポイントの場所に行くだかなんだか……」


「詳しいな」


「いや、正しいかは分からないぞ? 去年、その時2年生だった部活の先輩が言ってただけだし。そういえば、3年生の先輩も、懐かしいだかなんだか言ってたな」


 どうやら、学年で課外活動は決まっているらしい。

 まぁ、3年がどんな課外活動をするのかを聞いても、多分来年も今のように忘れてるだろう。

 どうでもいい。


「な、どんな条件で班を作らなきゃいけないかは分からんけど、俺と班同じでいいよな?」


「いいけど、お前は大丈夫なのか?」


「? どゆこと?」


「いや、お前には他に友達いるだろ」


 そうだ。

 俺と違って、コイツはいい奴だし、コミュニケーション能力も高いし、そうなると俺以外の友達もいるだろう。

 俺は別に1人でもいい。

 どうせ時間はいつかは過ぎ去る。

 俺のせいで、コイツの交友関係に傷をつけるのは、なんだか嫌な気がする。

 だから——————


「え? いや、このクラスで友達って呼べるやつ、あんまいっていうかお前しかいないけど?」


「…………」


 さっきまでの時間を返せ。



 ★★★

 


「よぉし、再来週の班別行動の班決めをするぞ!」


 朝から時間が経ち、今日最後の授業であるホームルームの時間、鬼山先生は何故か少しドヤ顔気味でそう言った。


 班別行動。

 俺のような他人とコミュニケーションを取るのが苦手な人にとっての、学校行事上位の嫌なイベント。


 普段話さない人との交流の場、そういう認識なのだろうが、普段話す人と同じ班になってしまっては意味が無いのではないかと毎度思っている。

 まぁ、修也がいないと多分、歩く仏像状態になるだろうから、そうなっていないのはありがたいが。


「今回の班別行動の目的、なんだか知ってるか? 笹原」


「え!? 俺!?」


 白羽の矢が立った修也は、あまりの驚きに席からずり落ちそうになっていた。

 昨日の出来事の一件から、俺はざまぁみろ、と少しだけ思ったが、流石にこの不意打ちは可哀想だ。


「修学旅行の集合場所の下見っていうか……どこに集まるのかの確認っていうか……」


「そうだな。それと、まだ話したことのない人との交流目的だ」


 やっぱり交流目的も含まれていた。

 ただ、こっちには修也がいる。

 アイツさえいれば、別に周りが誰であろうと構わな——————


「今回の班は俺が決めてきた」


 ……は?

 ドヤ顔気味だったのは、まさか今の爆弾発言のせいだったのだろうか。


「いや……やっぱ不満か? でも、こうでもしないと仲いいヤツで固まっての行動になっちゃうだろ? な?」


 自由に編成させると仲良いやつだけで固まってしまうだろうから、まだ話したことのない人との交流ができるように勝手に編成した——————といったところだろうか。

 ただ、鬼山先生考案の班が発表されるまではガヤガヤとしていた教室が、こんなにも静かになるなんて鬼山先生は思っていなかったのだろう。その証拠に、弁解するように目を泳がせながらそう言った。


「と……とりあえず、この班で集まって班の役割を決めてくれ」


 多分、クラス全員があまり納得してないだろう。

 俺だってそうだ。

 歩く仏像状態が確定したわけだからな。

 だが、やっぱり先生の決定にイチャモンをつける勇気のある人はいないようで、クラスメイトたちは黒板に貼られた紙を見ながら黙々と移動し始めた。


「月島」


 移動してきた修也が俺の肩に右手を置いた。


「ドンマイ!」


 ニッコリとした笑顔に、おまけ程度に作ったであろう左手のグッドサインは、どんな煽りよりも強い煽りなのではないかと思わされるほどだった。

 後でぶん殴ろう。

 そう決意しながら、俺の班が集まるであろう場所まで移動を開始した。

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