第10話 不審な行動者、修也
面倒事が過ぎ去れば、世界はこんなにも時が早く進むのか、そう思わせるほど時間の進みが早く感じられた。
時は5月17日の金曜日。
反省文を思い出したその日、思ってもいないことを用紙に適当に書き連ね、そして今、俺は字で埋め尽くされたその紙を提出していた。
「ふむ……ざっと見た感じ、字を大きくしたり余白を多くしたりでズルしたような感じは無いな!」
軽い確認をし終えた後、鬼山先生はその紙をファイルの中に差し込むように中に入れながら、続けて言った。
「これに懲りたら、もう休み時間にゲームとかやってんじゃないぞ? 俺も面倒なんだから」
最後の愚痴は余計な気がしたが、指摘する勇気なんて無いし、指摘したところで面倒なことになるのは火を見るより明らかだ。
俺は一言「すみませんでした」と言い、席に戻らずそのまま帰ろうとした。
「月島く〜ん? こっち向〜いてっ☆」
俺が教室をでるところを、待ってましたよと言わんばかりに、ドアの影から修也が飛び出してきた。
さっきのセリフを修也が言っていたと考えると、こびりつくような不快感と胃液を押し出すような吐き気がしてくる。
「なんだよ……気持ち悪い」
「え、最初の一言それ? 酷くない?」
まぁいいや、と気を取り直した修也が続けた。
「22日と23日のテスト、ガチピンチだから教えて欲しいなぁ〜……なんて」
顔の前に手を合わせ、ウインクしながら頼む修也。だが、こいつが成績悪いという話は聞いたことがない。なんなら、本当にたまにだが、成績上位者TOP30に載るくらいの頭の良さだ。
なら、返答は決まっている。
「お断りします」
「即答だなぁ……いや、俺は諦めん!」
「なんで俺なんだよ、俺よりお前の方が頭いいだろ? お前、本当は何がしたいんだ?」
チャラいくせして頭はいい。
今回のテストだって、難なく平均点以上を取れるだろう。なのに、なぜこんなにも教えてくれ、と迫ってくるのだろうか?
「何がしたいかって……ただお前に勉強教えてもらいたいだけなんだけど……」
「修也、さっきも言ったがお前の方が頭良いだろ。校内順位に載る時だってあるのに」
「まぁ、そうだけどさぁ?」
天狗のように鼻を伸ばしているところを見ると、別に謙虚なわけでは無さそうだ。じゃあ尚更なんで勉強を教えて貰いたいのだろうか?
……ええい、埒が明かん。
はっきり言おう。
「自分が頭いいってわかってんのに、なんでお前より勉強出来ない俺に、勉強教わろうとするんだよ!」
ちょっとキレ気味になってしまったが、修也は「付いてくればわかる」と言うだけで理由は言わない。
スタ〇ド使いのような顔で言うにが、地味に鼻につく。
面倒だ。
そう思って、俺はずっと修也の意味不明なお願いを断り続けた。
こいつに限って無意味なことをし続けることはないだろう。何か裏があるに違いない。
そう思いながら俺はしつこい修也のお願いを断る。
断り続けるのが面倒になってくる。
だが、ここで折れたらさらに面倒なことになるかもしれない。
だから、断り続けろ! 月島 風音!
★★★
「いらっしゃいませ〜! 空いてるお好きな席どうぞ〜!」
前回来た時とは違う女性の声が店内に響いた。
修也は店内を見渡すように見る中、俺はなぜこうなった、と思いながら、修也の後について行くロボットと化していた。
なぜこうなった——————とは言ったものの、答えは分かりきっている。俺がただただ折れただけだ。
だからこそ、意志を貫き通す力の無さに、悲しみと悔しさを覚えてしまう。
一通り店内を見たのか、修也は一直線にすぐ近くの4名席へと腰掛けた。
「おい、2人なのに4名席使っていいのかよ?」
立ったままの俺の問いに、修也は少し考えた素振りをした後、絵に書いたような間抜け面で言った。
「他のお客さん、全然いないしだいじょーぶだいじょーぶ! たぶん!」
今日の修也は何かおかしい。
その違和感が、なんだか気持ち悪かった。
メニューを見始める修也に不信感を覚えながら、俺は修也と向かい合わせになる形で席に座った。
2名様席は沢山空いている。
なのにわざわざ4名様席を選んだ。
これは何か意図があるからなのか——————
それとも、ただ単に近かったからなのか——————
修也のことだ。
後者の考えなんじゃないか——————そう考えている。
次の瞬間——————
「いらっしゃいませ〜! 空いてるお好きな席どうぞ〜!」
また誰か来たのだろう、店内で店員の声が響いた。
コツコツと足音を立てながら歩いている。そして、その足音のはなぜだか俺たちの今いる席の近くで消えた。
後ろが気になり、俺は後ろをチラッと見た。
その時、俺はなぜ修也がしつこく俺を誘ったのか——————それの答えが、わかった気がした。
俺が振り向いた先にいたのは——————神野さんだった。




