第11話 茶髪女子は素直じゃない
なぜ、修也が半ば無理やりキャストに連れていったのか。その答えが神野さんの登場でなんとなく分かった。
「……神野さん、俺のことはともかく、修也まで巻き込むのは良くないんじゃないのか?」
修也が意味もなく、俺と神野さんを接触させるようなことはしないだろう。そもそもの話、修也と神野さんの接点はない。なら、考えられる可能性は1つしかない。
俺を利用して鳴宮と接近しようとした時と同じ、今度は修也を使って、俺を呼び出した——————なぜだかは、分からないが。
ただ、そう思っていたのだが、神野さんのリアクションに違和感を覚えた。
もし、俺の予想が合っているなら、神野さんはするとしても程々に驚く程度のリアクションを演技でするだろう。ただ、今の神野さんのリアクションは、汗がダラダラと流れ、目が泳いでいる。
「なんでアンタが居んのよ!?」
めっちゃ声裏返ってるし。
「あれ? どっかで見たことあるような……?」
修也が神野さんを目を細め、右手を顎に乗せながら言った。数秒考えたあと、修也は顎に乗せた右手を拳に変え、開かれた左手を右手で叩いた。
「思い出した! 神野だ!」
有名人を見た一般人のような反応やめろ。
それよりも、修也の反応を見ると神野さんが修也に対して何かを頼んだりはしていないようだ。
なんか、忘れかけていたようだし。
ただ、それならなぜ、こんなところに神野さんが?
なぜ、修也はしつこく俺を無理やりここに?
「——————あら? 神野ちゃん、お友達?」
声のした方に、その場にいた俺たち3人の視線が集中した。
そこには、白いシャツに黒いエプロンをしたキャストの40代半ば辺りの女性従業員がいた。俺たちや神野さんが入店した時に声をかけていた人だ。
「え……あぁ、いえ……クラスメイトです」
火曜日に呼び出された時のような、オドオドとした様子で神野さんは言った。
「あら、そうだったの? でも、神野ちゃん素直じゃないし、どうかしらねぇ?」
「ちょっ……!? 七木さん! ほんとにただのクラスメイトですからっ!」
顔を赤くしながら、ニヤニヤとした様子のキャストの従業員である七木さんの疑念を強く否定した。
「ごめんなさいね、神野ちゃん、学校で迷惑かけてない?」
「七木さんってば!」
親なのか? と思ってしまうほど、七木さんは神野さんのことを気にかけているように見える。他の従業員全員にもなのか、それとも神野さんだけこうなのか。
それは分からないが、悪い人では無さそうだ。
「いえ、俺は全然迷惑じゃないですよ! 月島もそうだろ?」
「お前そもそも接点ないだろ……まぁ、俺も神野さんとは……仲良く? やっています」
途中疑問形にしてしまったが、七木さんは気にしてなさそうなのでまぁ大丈夫だろう。
「……神野ちゃん、悪いんだけど、今日はお休みにしてもらってもいいかしら? 今日あまりお客様いらっしゃらないし」
「え……? いや、大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、店長の私に任せなさい! なんて、この店平日あんまりお客様いらっしゃらないんだけど……」
俺たちに「よろしくね!」と言い残し、七木さんはキッチンへと姿を消した。
「……バイト無くなったし、私帰るから」
そう言い残し、立ち去ろうとする神野さん。
俺は正直どうでもよかったのだが、俺の友はそうは思っていないようで——————
「神野! せっかくだし、テスト勉強でもしようぜ? 月島が教えてくれるかもだし、普段話すことがない人と話すのはいいことだし。月島も、そう思うよな?」
修也は俺にそう投げかけるが、ここで「思わない」なんて言えるわけがない。
……別に、思わないわけではないが。
俺は「まぁ……」と曖昧な返事をした。
それを聞いた神野さんは、うつむき加減で止まった後、俺の隣の席を引っ張り、そこに座った。
「勉強出来ないし……迷惑じゃないなら……でも、勘違いしないでくれる? 私がアンタたちに心を許したわけじゃないから」
そっぽを向いたままそう言う神野さんは、七木さんの言う通り、素直じゃない人そのもののようだった。




