幕間 小っちゃくてもいいから、炎を出せるといいな
「失礼いたします」
王様に朝食の給仕を終え、扉をそっと閉める。
だいぶ慣れたとはいえ、やっぱり王様と話すのは緊張する。
私は今、王宮のメイドとして働きながら、魔法の勉強をしている。
仕事自体はメイドカフェのアルバイトで慣れている。
とはいっても、本物のメイドとは少し違うけれど。
朝と夜にメイドの仕事、昼は魔法の練習。
衣食住は保証されていて、お給料も出る。
待遇は悪くない。
午前の仕事を終えて、自分の部屋に戻る。
午後からは魔法の特訓だ。
「今日は炎魔法か……。あの先生、苦手だな……」
かばんに教本を入れながら、ため息をつく。
すると、
「あの方、いちいち小言が多いんですわ!」
頭に乗せたティアラが悪態をついた。
私をこの世界に連れてきた、張本人。
あの夜。
〝プリンセスイベント〟最終日。
このティアラが突然しゃべり出して――私はこの世界に来た。
ティアラは小ぶりなサイズで、シンプルな彫刻が施されている。
銀色で、真ん中には青い宝石が輝く。
かわいいというよりは、少し気品高い感じだ。
そしてなぜか、お嬢様口調で喋る。
「あのね、ここで言うのはいいんだけど、先生の前では絶対に言わないでね」
「心得ておりますわ! 瑠璃に迷惑はかけられませんもの!」
「……本当に、言わないでね」
「……ええ、言いませんわ……」
ティアラが口ごもる。
この前、私が炎魔法の先生に叱られているとき、頭上のティアラが先生に向かって「お黙りなさい!」と叫んだ。
先生は私が言ったと勘違いして、一瞬で沸騰した。
そして、先生の放った炎魔法で私は危うくバーベキューになるところだったのだ。
あのときの先生の顔を思い出すと、今でも私の横をかすめた火球の熱がよみがえってくる。
魔法の特訓をしてくれる先生は何人かいて、熱心に指導してくれる。
なぜなら、私が唯一の魔法使いだから。
王宮の人たちの話では、この世界の魔法使いたちはみな、魔力を失っているらしい。
私がこの世界に来る前、王様が世界中の魔力を集めたのだと聞かされた。
今は、魔力石というものを使って魔力を補っているそうだ。
ただ、私だけは違った。
魔法を使っても、休めば自然に魔力が戻る。
だから私は、この王宮で〝唯一の魔法使い〟と呼ばれている。
けれど、先生たちの熱心な指導を受けても、上達したのは幻影系の魔法だけだった。
「はぁ……」
近ごろ、ため息が増えた気がする。
「また、ため息ですの? そんなときは、ご飯を食べれば元気になりますわ! 食堂へ向かいましょう!」
「そうだね。特訓の前にお昼を食べないと……」
かばんを背負い、部屋を出る。
今日は小っちゃくてもいいから、炎を出せるといいな。
◇
「ほぇー」
五階建ての建物と同じくらいの高さはありそうな、巨大な壁を見上げる。
左右どちらを見ても、壁の端は見えない。
今までも壁に囲まれた街はいっぱいあったけど、ここは別格だった。
『グラン・イグリア』
王都と姉妹都市関係にある巨大な街。
広さも、王都と同じくらいある。
おもな産業は商業で、王都との間には広い街道が整備されている。
そこを、毎日大量の人と荷物が行き来している。
って、しのぶちゃんが言ってた。
この街に出入りできる門は二つだけ。
私たちが通ってきた裏門と、王都へ続く表門。
これだけ厳重な街だから、門番にギルドの登録証を見せればあっさり通してもらえる――なんてことはなかった。
登録証が本物かどうか、照合にかなり時間がかかった。
まあ、最後には通してもらえたんだけど。
門を抜けた先は、意外にも他の街と変わらない雰囲気だった。
荷車の車輪がきしむ音。
街を行き交う人々。
威勢のいい商人の掛け声――。
最初こそ巨大な壁に面食らったけど、いつもの雰囲気に迎えられて、私はほっとした。




