第93話 報酬増やして
私は宿のベッドに転がって、天井を見上げていた。
お風呂に入って体はさっぱりしたけど、心のほうはまったくさっぱりしていない。
何日も前のことなのに、いまだに目を閉じると、黒ローブが一気に距離を詰めてきた瞬間が何度も浮かんでくる。
私に向けられた剣先。まったく動かなかった足……。
「ねぇ」
テーブルの上のステッキに話しかける。
「なんだ?」
「報酬増やして」
「突然どうした!?」
ステッキがぴょこんとこちらを向く。
「あなたも間近で見てたでしょ? 彼女が助けてくれなかったら、たぶん私、ゲームオーバーだったよ?」
「それは……そうだが」
まさか、あんなにはっきり殺意を向けられるなんて思ってなかった。
偶然出くわした魔物とは訳が違う。
相手は完全に私を認識していて、敵視している。
たぶん、この先も狙われる。
「王様を止めに行くはずが、私が止められそうになってるんだけど」
「うまいことを言うな」
「いや、うまいこと言ってないし」
ごろんと寝返りを打って、ステッキのほうを向く。
「けど、このまま帰るわけにもいかないし。だから、危険が増えた分、報酬増やしてほしいんだけど」
「……わかった。考えておく」
「ほんとに? 期待しちゃうからね?」
報酬は欲しい。普通にいっぱい欲しい。
でも今はそれだけじゃなくて……。
こんな冗談でも言っていないと、心がどこかへ行ってしまいそうだった。
「……そろそろ集合の時間だね」
むくっと起き上がり、「ふぅ」と大きく息を吐く。
それからかばんを背負って、部屋を出た。
私が宿のロビーに降りると、すでに三人がそろっていた。
「ごめん! 遅くなった!」
「遅せぇぞ。俺、腹ぺこだ。行こうぜ!」
私たちは夕食を食べるため、街のレストランへ向かった。
元気よく、私の前を歩くサビー。
サビーにつられてか、さっきまで食欲なんてなかったのに、少しだけお腹が空いてくる。
……どんな時でも、お腹は空くんだな。




