第88話 今はあなただけが頼りだ!
私たちは、討伐依頼の場所に向かっていた。
森に巣くった魔物の討伐。
ランクはB。
依頼書に描かれていたのは、蛾のような魔物の絵だった。
これを見たとき、正直「うわぁ……」ってなったんだけど、ラムネを試すのに手ごろな依頼がほかになくて、しかたなくこれに決めた。
「あの絵の感じだと、たぶんでっかいよね。採掘場のローリーみたいな……」
「でかいだろうな。そうじゃなきゃ、わざわざギルドに討伐依頼なんて出さないだろ」
「そうだよねぇ」
なんでこの世界の虫って、いちいちでっかいんだろう。
げんなりしながらまんぷく号を引いていると、やがて目的の森が見えてきた。
サビーとラセンは、状況を確認するために森へ向かった。
私は森から少し離れたところにまんぷく号を停めると、二人のためにバフ飯の用意を始める。
「いつものおにぎりは作ってきたから、あとはお湯を沸かして、と」
今日のメニューは、妃円とモウトロコシのスープ。
〝ダゴシア〟という食材でだしを取って、少し和風に仕上げる予定だ。
このダゴシア、クジライカ戦でサビーをぴょんぴょんさせた、あのバフ食材だ。粉末になっていて、いいだしが取れる。
今回の魔物は飛行タイプだから、おそらくサビーの短剣は届かない。
なら、あのときみたいに高くジャンプできれば届くんじゃない? という作戦。
「さてと、料理、料理っと」
材料を並べ、お湯がぐつぐつと沸き始めた、そのときだった。
森のほうから、何やら叫び声が聞こえてきた。しかも、その声はどんどんこっちに近づいてきている。
この声、サビーとラセン?
「うわぁぁぁ!」
「いやぁぁぁ!」
サビーとラセンが、頭を抱えながら必死に駆けてくる。
その後ろには――空を埋め尽くすほどの蛾の大群!
二人を追い立てるように、ぶわりと押し寄せてきている。
「ちょっ、なにあれ!」
ど、ど、どうしよう!? どこかに隠れないと!
私はとりあえずまんぷく号の荷台に飛び乗り、そこから二人の様子を確認した。
サビーが空に向かって短剣を振り回す。
ラセンは呪文を詠唱する余裕もなく、ただ必死に逃げ回っている。
たまに短剣が羽を捉えるけど、数匹倒したところで焼け石に水だ。
大群は、まったく減っているように見えない。
このまま見てても仕方ない。なんとか料理を仕上げて、二人に食べさせないと。
そう思って、私はそっと荷台から降りようとした。
ふいに、頭上を何かがかすめる。
すぐそばで聞こえる、ばさばさという羽音。これって、もしかして……。
恐る恐る頭を上げる。
そこには、数匹の蛾がふわふわと浮いていた。
「なっ……!」
いつの間にか、まんぷく号まで囲まれていた。
「なんでこっちにまで来たの!?」
「恐らく、食材の匂いにつられてきたんだろう」
慌てふためく私の腰で、ステッキが冷静に言った。
「答えを聞きたいんじゃないから! 今は冷静な分析とかいいから!」
これじゃ、料理なんてできない。
こうなったら、サビーに直接バフ食材を食べさせるしかない。
でも、まだ魔法をかけてない!
呪文を唱えるためにも、なんとかしてこの群れを追い払わないと!
そう思ってあたりを見回すと、ウリ坊が蛾にむかってぴょんぴょんと跳ねていた。
これだ!
「ごめん! 今はあなただけが頼りだ!」
私はウリ坊にダゴシアの粉をぱぱっとまぶした。
「ぷい!」
ウリ坊が勢いよく荷台の外に飛び出す。
匂いにつられた蛾たちが、一斉にウリ坊へ群がる。
「ぷいっ! ぷいっ!」
たまらずウリ坊が逃げ出す。
群れがその後ろを追いかけていく。
今のうちに!
「レーナ! クーシ! イオ!」
私は呪文を唱えると、用意していた食材に向けて魔法を放った。
食材はピンクの光に包まれ、ぱっと弾ける。
よしっ!
「サビー! こっちにきて!」
私は棚からおにぎりを取り出すと、ダゴシアの粉をまぶした。
蛾を斬り払いながら駆けてくるサビーに向かって、そのおにぎりを投げる。
「食べて!」
サビーはおにぎりを片手で受け取ると、そのまま口いっぱいに頬張る。
ごくりと飲み込んだ次の瞬間、サビーは地面を蹴って大きく跳ね上がった。




