第84話 その……友達でしょ?
「炎よ、我が杖先に灯り、仇なす者を撃て! ファイアボール!」
大鷲のような魔物が炎に包まれ、けたたましい悲鳴を上げた。くるくると回転しながら落下し、どさりと地面に叩きつけられる。
狙われていたのは、ウリ坊だった。
軽い足取りでまんぷく号の前を歩いていたウリ坊に、大鷲のような魔物が襲いかかったのだ。
鋭い爪を間一髪でかわしたものの、あと少し遅れていたら、そのまま空へ連れ去られていたかもしれない。
「助かったぜ、ラセン。俺の短剣じゃ、飛んでる魔物に届かねぇ」
空に向かってぴょんぴょん跳ねながら短剣を振るサビー。
それを横目に、私はまんぷく号の陰で震えるウリ坊を抱きかかえ、頭をなでた。
空飛ぶ魔物は、ラセンの魔法で撃退できたからいいんだけど……。
いつものように、ラセンがその場にへたり込んでいる。
「やっぱり、魔力回復料理の研究が急務だね」
「そうだな。今、あいつがもう一回来たら、対処できねぇぞ」
サビーの言葉に、腕の中のウリ坊がぶるぶると震えた。
◇
それから数日。
私たちは街の門をくぐり、大通りを進んでいた。
通りには荷車が行き交い、大きな店が軒を連ねている。
建物も三階建てが当たり前で、ここは今まで立ち寄った中で一番大きい街だった。
「すげーな。こんだけでかい街なら、うまい店もいっぱいありそうだぜ」
サビーは相変わらずだなー。
そう思った瞬間、私のお腹が盛大に鳴った。
「なんだ、茉歩瑠も腹減ってんじゃねぇか。飯にしようぜ!」
サビーにお腹の音、聞かれちゃったよ。もぅ。
「ラセンは何か食べたいものある?」
とぼとぼと後ろを歩くラセンに尋ねる。
「あ、うん。な、なんでもいい」
ルルさんの家を出てから、ラセンはずっと元気がない。
最後、あんな別れ方になっちゃったしな……。
大通りをしばらく進み、私たちは大きなレストランに入った。
カレーみたいな料理をがつがつとかき込むサビーの横で、ラセンは小さなパンをちまちまと食べている。
「……」
二人を見ながら無言でスープを飲んでいた私は、ルルさんの家で寝付けなかった夜に考えていたことを思い出す。
……よし。
私は思い切って、ラセンに尋ねた。
「ねぇ、ラセン。ここのところ、ずっと元気ないでしょ?」
「そ、そんなこと、ないよ。ほ、ほら、元気」
ラセンが困ったように笑いながら、控えめにガッツポーズをした。
うん、元気じゃない。
「無理しなくていいよ。私たち……その……友達でしょ?」
「っ!」
私の言葉に、ラセンがはっと顔を上げた。
「俺たち、仲間じゃねぇのか?」
二杯目のカレーにスプーンを突き立てたサビーが、口をもぐもぐさせながら私を見る。
私は、どうにか言葉を探す。
「も、もちろん仲間だよ。だけど仲間って、いわばパーティーってことでさ。依頼を受けるために一緒にいる、みたいなところもあるじゃん? でも私たちって、ずっと一緒に旅もしてるし、お金だけじゃなくてさ、いろんなことも乗り越えてきたわけで……」
自分でも、説明がめちゃくちゃになっている自覚はある。
でも、私が言いたいことはひとつだ。
「だから、その……友達でもあるんじゃないかなって」
「そっか。いいんじゃないか? 仲間で友達。どっちか片方ってもんでもないだろうしな」
サビーがばくばくとカレーをかき込む。
「う、うん。と、友達……いいと思う」
ラセンの顔が、ほんのりと赤くなった。
「うん! それ! 仲間で友達ね!」
私は、喉に刺さっていた小骨が取れたような、なんだかすっきりした気分になった。




