第82話 王宮魔術師見習い?
ガークが、だるそうに肩を回しながら続ける。
「結界なんて張ってねーでよ、さっさとツラ見せろって!」
なんでここにガークが?
それに、いつもの僧侶の子は?
「思った以上に結界が強力だな……」
黒ローブの人物が、ガークに言った。
低く、喉の奥でうなるような声。
この声は、男? いや、そもそも……人間なの?
「ちっ! しゃーねーな……。おーい、ばあさん! また来るわ!」
ガークが振り返った。私たちは慌てて身を低くし、藪の中に隠れる。
二人の足音が、少しずつ遠ざかっていく。
そっと顔を上げ、二人の姿が完全に見えなくなったのを確認すると、私たちは急いでルルさんの家に向かった。
「ルルさん! ラセン!」
私は叫びながら玄関の扉を開けた。
そこには、椅子にぐったりともたれかかるラセンの姿があった。
そばでは、ルルさんが心配そうに濡れたタオルでラセンの額を拭っている。
「ラセン!」
慌てて駆け寄る。
「ま、茉歩瑠ちゃん……おかえり……」
ラセンが力なく私に視線を向けた。
「おかえりって、それどころじゃないでしょ! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫……ラ、ラムネのせいだから……」
見ると、壁にはラセンの杖が立てかけてあった。
「さっきの攻撃を防いでたのって、ラセンの魔法ですか?」
ルルさんに尋ねると、彼女は静かにうなずいた。
「ああ、そうさ。あたしの結界だけじゃ耐えられなかっただろうね」
それでラムネを使ったんだ。
とにかく、ラセンをベッドに寝かせないと!
「サビー! 手伝って!」
私とサビーでラセンを抱え、部屋へと向かった。
ラセンをベッドで休ませてから、私たちはリビングでルルさんと話をしていた。
「ガークたち、いったい何をしに……?」
「あの連中のことは、あたしは知らないね」
ルルさんが目を伏せる。
「ただ、目的については心当たりがないわけじゃない。……けど、今はお前さんたちには言えない。悪いがね」
そう言われてしまうと、もうそれ以上は聞けない。
「けど、また来るって言ってましたよね。どうするんですか?」
「身を隠すさ。明日お前さんたちが出たあと、あたしもしばらくこの家を離れるよ」
「そうですか……」
だんだん腹が立ってきた。
ガークが絡むと、毎回ろくなことがない!
ただ、問題なのはガークだけじゃなかった。
一緒にいた、あの黒ローブの人物。
「さっきの爆発なんですけど……黒いローブ姿の人が、杖も詠唱もなしに手から炎を出してたんです。それって、普通にできることなんですか?」
ルルさんが、目を丸くする。
「……」
けれど、答えは返ってこない。
私も、何かまずいことを聞いたのかもしれないと思って、そのまま黙ってしまった。
その空気を変えるように、サビーがぽつりと言った。
「それにしてもラセンのやつ、すげーな。あんな攻撃を何発も防ぐ結界を張れるなんてさ」
ルルさんが、ラセンの眠る部屋のほうをちらりと見た。
ひと呼吸置くと、私たちに向き直る。
「……あの子は、王宮魔術師見習いだったからね」
「王宮魔術師見習いだったのか!?」「王宮魔術師見習い?」
私とサビーの言葉が重なった。
「王宮魔術師見習いって、なに?」
私はサビーに尋ねた。
「お前、魔法使いのくせに、なんも知らねーんだな。王宮魔術師は、魔法使いの中でもエリート中のエリートだ。最上位の魔法使いしかなれねぇ。見習いって言っても、そう簡単になれるもんじゃないんだ」
「そうなの!? そんなにすごいのに、なんで私とパーティー組んでるの!?」
自分で言っていて情けないけど、これは紛れもない事実だ。
普通に考えたら、私なんかじゃつり合わない。
それに、ギルドもBランクって……どういうこと?
すると、ルルさんが静かに話し始めた。
「その様子だと、本人からは聞いていないようだね。……この話をあたしから聞いたことは、ラセンには黙っておいておくれよ」




