第8話 第一回、作戦会議!
夕食を終えて部屋に戻るなり、私はステッキを問い詰めた。
「王都がすっごく遠いこととか、あと、お金がないことにも気づいてたでしょ?」
テーブルの上で、乙の字みたいに正座しているステッキ。
「ねぇ!」
「ああ、気づいていた」
「なんで黙ってたの? もっと早く言ってくれればよかったじゃん!」
「……話す機会がなかったのだ。王都への転移に失敗し、魔物に追われ……。それに、お前は部屋のベッドの上で、ずっと天井の木目を眺めていただろう」
「……眺めてた」
確かに、ステッキの言うとおりだ。
こっちの世界に来てから今まで、ステッキとじっくり話す機会なんてなかった。
うん、全然なかった。
「あなたの言うとおりかも。ごめん、ちょっとカリカリしすぎてた」
「いや、無理を言って、お前をこの世界に連れてきたのは俺だ。お前が木目に夢中のときにでも、はっきりと言うべきだった。俺のほうこそ、すまなかった」
そうだよね。
今のところ、私の唯一の仲間はこのステッキだけなんだし。
腹は立つけど、これからはもうちょっと対話を大切にしよう。
椅子に座り、乙の字みたいに折れ曲がったステッキと向き合う。
「それじゃ、改めまして。第一回、目指せ王都! 止めろ王様! 作戦会議!」
ぱちぱちぱちと、乾いた拍手が部屋に響く。
「本日の議題。どうやって旅費を稼ぐか。はい、ステッキさん!」
「……いや、さっき、ランドルフが仕事を斡旋してくれただろう」
「はい、正解。答えは労働です」
異世界まで来て、労働。
しかも私、魔法使いなのに、また物理。
魔道具を作るとか、ギルドで依頼を受けるとか、そういうファンタジーっぽい展開を想像してたのに。
現実は、収穫のお手伝い。普通の労働。
いや、別に収穫のお手伝いが嫌なんじゃない。
むしろありがたいし、ちょっと楽しそうでもある。
けど、理想と現実のギャップって言うか、これでいいのか? っていうか。
魔法使いとして、この世界に来たはず。
それなのに、全然それっぽい展開にならない。
初日だから、こんなもんかもしれないけど……。
「もういいや。答えは出たし、会議はおしまい」
ぶっきらぼうに言うと、私はベッドへダイブした。
ひとまず、完全に詰んだ状態から、多少詰んだ状態にはなった。
仕事にもありつけたし、頑張れば旅費も稼げる。
今は、やれることをやるしかない。
今日は早く寝て、明日に備えよう。
◇
カツン! と、空になった木製のカップを勢いよくテーブルに置く。
「たはーっ! 労働のあとの一杯はたまんないね!」
椅子に深くもたれ掛かり、天井を仰ぎ見る。
一日中畑でクワを振るった疲労困憊の体に、冷たい野菜ジュースが染み渡っていく。
ようやく遅めの夕食にありつけた私が、ふと視線を横に向けると、部屋の隅でランドルフさんが黙々と支度をしていた。
丈夫そうな革製の上着をはおり、籠手のように分厚い革手袋をはめている。
「……今夜は来そう?」
ヘイゼルさんは両手を胸の前で握り、ランドルフさんを見つめている。
「今夜は満月だからな。魔物の動きも活発化するだろう」
「そう……。ちょっと待ってて、今、夜食のお弁当作るから。今日の夜警は何人かしら?」
「俺を入れて五人だ。すまないな」
小走りでキッチンへと向かう彼女。
ランドルフさんは険しい表情で、窓から外の暗闇をうかがっている。
私はその様子を見ながら、晩ご飯のサラダを口に運んだ。
張り詰めた空気に、シャクシャクという咀嚼音がやたら大きく感じる。
さっきまで「労働のあとの一杯は最高!」なんて言っていた自分が、なんだか場違いに思えてきた。
「……私だけ晩ご飯食べてていいのかな?」
なんだかいたたまれなくなり、腰のステッキに小声で話しかける。
「魔物の襲来に備えての夜警か……お前は戦闘向きじゃないからな。それなら、弁当作りの手伝いでもしたらどうだ?」
「それ、いいじゃん!」
私は急いでサラダを飲み込むと、席を立ってキッチンへと向かった。




