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料理魔法のバフ飯屋台~食べた仲間が強くなるごはん、作ります~  作者: たこやき風味


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第7話 ここから王都までほぼ一年だよ!

 スプーンが手からすり抜けた。

 からん、と音を立てて、ミネストローネのボウルへと落ちる。


「ん? どうした?」


 完全に固まった私を、ランドルフさんがのぞき込む。


 私は目を閉じて、無言で「うんうん」とうなずく。


「すみません、ちょっとお手洗いへ……食事中に失礼します」


 二人に頭を下げて席を立ち、私はトイレへ向かった。



 トイレのドアを後ろ手に閉める。

 すぐに腰のステッキを外して、両手でぎゅっと締め上げた。


「どういうこと!? ここから王都までほぼ一年だよ! 一年!」


「らしいな。ということは、この村は王都からかなり遠いようだな」


「そんなこと私でもわかるって! 近かったら一年もかかんないって! どうするの!?」


「お前の世界のように、空を飛ぶ乗り物はない。歩いていくしかないだろう」


「『歩いていくしかないだろう』じゃないんだって! 私は自分探しで日本一周する人か!」


 異世界、いったいどうなってるの?

 いきなりハードモードの連続なんだけど!


 魔物にお尻を突かれたと思ったら、次は王都まで三〇〇日。

 体力はあるほうだと思うけど、その距離は無理だって!


 トレーナーもいない。

 沿道に応援もない。

 ひとり(+ステッキ)で、こつこつ歩いて三〇〇日の旅。

 考えただけで、くらくらしてくる。


 私はすとんと腰を下ろした。

 うつむいて、体がぺったんこになるくらいのため息をつく。


 ――コンコン。


 ノックの音。

 続いて、外からヘイゼルさんの声がした。


「大丈夫ですか? 大きな声が聞こえましたけど」


「だ、大丈夫です! すぐ出ます!」


 扉に向けて返事をして、すぐにステッキに顔を戻す。


「続きは部屋に戻ってからだからね!」


 ドスの利いた小声で言い捨てて、私はトイレを出た。



 リビングに戻り、うつむいたまま椅子に座る。


「大丈夫か?」


 今度はランドルフさんが心配そうに声をかけてくれた。


 全然大丈夫じゃない。

 けど――


「大丈夫です。すみません、ご心配をおかけしました」


 カゴからパンをひとつ取ってちぎり、口に運ぶ。

 口の中の水分が持っていかれたので、スープをひと口。

 ……美味しい。


 もぐもぐしながら、考える。


 ステッキを締め上げたところで、王都までの距離が縮まるわけじゃない。

 ここは、ランドルフさんから詳しく話を聞いたほうがいいかもしれない。


 私は、野菜スティックをぽりぽりとかじっているランドルフさんに尋ねた。


「あの、王都まで徒歩で三〇〇日って話だったじゃないですか。王都って、どのへんにあるんですか?」


「王都は、この村から見て北東の方角だ。距離もだが、途中に山越えもある。なかなか大変だぞ? なにせ、この村には王都に行ったことのある者はいないからな。かくいう俺も、行ったことがない」


 山越え……。


 三〇〇日の行程に、登山までセットってこと!?

「たとえハイキングでも、山をなめちゃなんねぇ。羊羹は持ってけ」って、田舎のじっちゃんも言ってた。

 登山の装備なんて持ってないよー。


 ……ダメだ。無理だ。完全にやる気なくした。


 スープを飲み、パンを食べ、またスープを飲む。

 心を失った私は、からくり人形のようにスプーンを往復させた。


 スープ、オイシイ、オイシイ……。 


「あ、だが、町から乗り合い馬車が出ているから、そいつを乗り継いでいけばもう少し早く着くかもな」


 スープ、オ……おっ!?


 ランドルフさんの思わぬ一言に、人の心を取り戻す。


 なーんだ。それならそうと早く言ってよ。

 この世界って、徒歩以外の交通手段がないんだと思ってた。


「ただ、運賃はけっこう高いぞ」


 スープ、オイシイ……。


 再び、人の心が離脱した。

 やっぱりダメじゃん。だって私、お金持ってないもん。


 ……今更ながら気がついた。私、お金持ってない……。


 乗合馬車の運賃が高いとかそんな話じゃない。

 そもそも、旅費がない。


 ゆっくりと、腰のステッキへと目線を落とす。ステッキがピクッと動き、沈黙した。


 これ……絶対に気づいてたやつだ……。


 攻撃魔法もなし。

 王都は遠い。

 お金もない。

 詰みすぎてる……。


 私はぐったりとため息をついた。


「お前さん、もしかして、金が足りないのか?」


 テーブルに突っ伏す寸前の私に、ランドルフさんが声をかけた。


「あー、はい。足りないっていうか、まったくないというか……」


「そうだったか……それなら、この村で手伝いをしないか? もちろん賃金は払う。部屋も、そのまま使ってもらって構わない」


「えっ! いいんですか?」


 食卓の灯りに負けないくらい、まぶしい笑顔を放つ。


 その変わりように、ランドルフさんが苦笑する。


「農作業の人手が足りなくてな。ぜひ、手を貸してくれ」


「はい! よろしくお願いします!」


 ランドルフさん、いい人だ。

 異世界に来て、初めてちょっと救われたよ……あ、泣きそう。


 ――いや、泣いてる場合じゃない。

 まだ問題はまだ山積みだ。


 王都は遠いし、お金は一枚もない。


 それに、ステッキめ……。

 たぶん、いろいろわかってて黙ってたよね。


 あとで絶対に問い詰めてやる!

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