第6話 なに? 転移魔法?
予想もしなかった一言に、心がぎゅんと持っていかれる。
「成功したら、王城の宝物庫から好きなものをひとつやろう。あそこには価値のある財宝が山ほどある。この世界で売れば、一生遊んで暮らせるはずだ」
「一生遊んで暮らせるお宝……」
頭の中に、欲しいものが次々と浮かんでくる。
私はその妄想を必死に抑え込んだ――つもりだった。
「どうだ?」
ステッキがこちらをのぞき込んでくる。
今の私には、ステッキの宝石さえお宝に見えた。
私はちょっとだけ考えるふりをしてから、こほんと咳払いした。
「えーっと。さっきはああ言ったけど……本当はね、あなたの国を救いたいって思ってたんだよ」
「おお! 来てくれるか!」
ステッキが跳ね上がると、くるりと宙返りした。
私は料理を美味しくする魔法しか使えない。
けど、異世界で経験を積めば、ほかの魔法だって使えるようになるかもしれない。
……うん、きっとなんとかなるよね。
報酬かぁ。なに買おう。
コスプレ衣装の材料に、コスメに、撮影機材――いっそ専用の撮影スタジオを建てちゃったりして!?
やばい、夢が広がりすぎる。
「えへ、えへへへ……」
頬がゆるみきったまま宙を見つめる。
欲しいものを指折り数えていたら両手では足りなくなって、足の指まで動かそうとした、そのとき――
ステッキが妄想に割り込んできた。
「決まりだな。さっそくイグラルトへ向かうぞ。今から転移魔法を使う。立ち上がって、俺を構えろ」
そう言うなり、ステッキはさっきと同じように私の手の中に収まってきた。
「ちょっと、勝手に! なに? 転移魔法? 私、料理魔法しか使えないんじゃないの?」
「転移魔法は俺に備わっている魔法だ。いいから早く魔力を注入しろ」
困惑する私などおかまいなしに、ステッキが急かしてくる。
しぶしぶ椅子から立ち上がり、肩幅に足を開いて、両手でステッキを構える。
「それで? どうやって魔力を注入するの?」
「そこからか。俺を握る手に、もう少し力を込めろ。自然に魔力が流れ込む」
「強く握ればいいの?」
言われたとおりに力を込めた瞬間、手元がぼんやりと青白く光りはじめた。
「えっ?」
掌がすうっと冷える。
お腹の奥から両腕を伝って、何かがステッキへ吸い上げられていく。
急に軽い貧血みたいにくらくらして、うぅ……気持ち悪い。
「よし、注入は完了だ」
手元の光がふっと消え、同時にくらくらも少し治まる。
私は大きく息を吐いた。
「オムライスのときは、なんともなかったのに……」
「転移魔法は大量の魔力を消費するからな。それにしても、これだけの魔力を使って、まだ立っていられるとは……。お前、かなりの魔力量があるな」
褒められてるのかもしれないけど、こっちは立っているだけで精いっぱいだ。
「行くぞ!」
そのかけ声と同時に、ステッキの先端の宝石が激しく輝きだした。フロアが白い光で満ちていく。
「ちょっと! 行くって、どこ――」
◇
――っていう感じで、半ば無理やり異世界に飛ばされて、気づいたときには草原のど真ん中で大の字になってた。
隣でステッキが「本当は王都に転移するはずだったが、何者かに妨害された」だのなんだの言い訳してるし、「で、ここはどこ?」って聞いても、「わからない」って返ってくるし。
そんなことある?
スマホなし、おやつなし。
極めつけに、着替えなし!
私、このままずっと魔法少女の格好で過ごすことになるの!?
コスプレは大好きだけど、それはけっこうきついって。
さっきまでモップがけしてたはずなのに、気づけば異世界のベッドの上。
人生、本当に何が起こるかわからない。
……あー、思い出したらまたちょっと腹が立ってきた。
天井の木目迷路でもやって、気分を落ち着けよう。
あてもないゴールを探して迷路の中を彷徨っていると、階下から奥さんの呼ぶ声がした。
「夕食の用意ができましたよ!」
◇
食卓を見た瞬間、私は目を輝かせた。
テーブルに所狭しと並べられた、色鮮やかな野菜料理の数々!
「いただきます!」
お腹ぺこぺこだった私は、片っ端から料理をほおばった。
「そんなにおいしそうに食べてもらえると、私も嬉しいわ。はい、これもどうぞ」
「はひがとうござひます」
ほっぺを料理でぱんぱんにしながら返事をする。
家畜が魔物にやられたせいで、今は肉や乳製品がないらしい。
でも私、野菜は大好きだから全然オッケー。
ヘイゼルさん、料理がとにかく上手。どれを食べてもすごく美味しい。
しかも全部野菜だから、いくら食べてもカロリーゼロ!(※私調べ)
ミネストローネみたいなスープをふーふーしながらすすっていると、赤い顔でお酒のグラスを傾けていたランドルフさんが尋ねてきた。
「お前さん、どこかへ向かっていたのか? 懸命に走っていたようだが」
いや、あれは目的地に向かって走ってたわけじゃなくて、ウリ坊に追われてただけだから。
ランドルフさん、私がヤツの一撃で気絶するところ見てたんだよね?
……まあいいや。
「実は、王都を目指してるんです」
「王都? この村からだと、かなり遠いぞ?」
「遠いって、どれくらいですか?」
「そうだな……歩きだと、三〇〇日以上はかかるな」




