第5話 レーナ! クーシ! イオ!
「どういうこと?」
「俺は、この世界に魔法使いを探しに来た。そして、お前を見つけた」
あ、わかった。私、疲れてるんだ。
店は連日超満員だったし、ステッキを振ってばかりだったし。
そりゃ幻聴のひとつくらい聞こえるよね。
明日、店長に「お休みください」って頼もう。
よし、解決!
「おい、急に黙ってどうした?」
はい、未解決。
やっぱり喋ってる。
「えっと、さっきから話が飛びすぎてて、正直、全然ついていけてないんだけど」
「魔法国家イグラルトは、こことは別の世界にある。そうだな……異世界にある、と言えばわかるか?」
「異世界ね。うん、それならわかる。ラノベとかでよくあるやつでしょ?」
「ラノベ? まあいい。イグラルトは魔法使いの国だ。だが、その国の王が、世界中の〝魔力〟を奪った」
「……え? 魔力を?」
「そうだ。みな魔力を奪われた」
魔力って、RPGとかでいうMPってやつだよね?
MPがなくなっちゃったら、魔法使いの人たち、困るんじゃ?
「魔法使いたちはみな、まともに魔法を使えなくなった。――国王ただ一人を残してな」
王様がMPを独り占め!?
なんか、思ってたより十倍くらい重いぞ、これ。
ただ事じゃない感じが、ステッキの語り口調からひしひしと伝わってくる。
「なんで、そんなことしたの?」
「わからん」
ステッキがしゅんと力なく傾く。
「けど、なんでその話を私に?」
「さっきも言っただろう。お前が魔法使いだからだ。今、王を止められるのはお前だけだ」
「私が? 魔法使い?」
「さっき、飯を旨くする魔法を使っていただろう」
「魔法……それって、オムライスが美味しくなるやつのこと?」
「そうだ」
あー。やっぱり、あれか。
「えっと、あれは魔法っていうか、〝おまじない〟なんだよ。メイドカフェで定番のやつ。『おいしくなーれ!』って」
「いや、あれは魔法だ。お前が魔法をかけたオムライスを、客がうまそうに食っていた」
「うん、みんな喜んでくれてたよ? だけど、それが魔法だって言われてもさー」
「信じていないようだが、お前は本物の魔法で料理を旨くしていたんだ。試してみるか?」
「……う、うん。そこまで言うなら……」
半信半疑のまま立ち上がると、ステッキがふわりと浮き上がり、すぽりと私の右手に収まった。
「呪文を唱えろ」
ステッキを握り、何もない壁へ向ける。
そして、いつもパフォーマンスで唱えている呪文を叫ぶ。
「レーナ! クーシ! イオ!」
先端の宝石が輝き、ピンク色の光がふっと灯る。
次の瞬間、それは細い光の筋になって放たれ、壁にぶつかってぱっと弾けた。
「これ……オムライスに向けて撃ってたやつだ」
手からするりとステッキが抜け出し、ふわふわと浮く。
「この光が当たった飯は、格段に旨くなる」
「それ、日常使いにめちゃくちゃ便利じゃん!」
昨日の残り物とか、冷凍ご飯とかに使いたいんだけど。
って……、あれ? ちょっとまって。
ここで私は、さっきステッキが口にした言葉を思い出した。
『王を止められるのはお前だけだ』
「あのー……もしかして私、王様と戦わなくちゃいけないんですか?」
思わず敬語になる。
「そうだ」
「料理を美味しくする魔法で?」
「そうなるな」
「そうはならないでしょ!」
そもそも私は、ついさっき魔法使い認定されたばかりの初心者だ。
どう考えたって勝てる気がしない。
「一応聞くけど、王様との戦いって、料理対決じゃないよね?」
「違うな」
「だよねー」
相手は魔法国の王であって、料理界の王じゃない。
料理対決なわけがない。
これはダメだ。異世界に行く前から負け確だ。
「ごめん。誰かほかの人に頼んで。たぶん私じゃ勝てないや」
私の言葉に、ステッキはなにも返さなかった。
くにゃりと曲がって、黙り込んでしまう。
私はすとんと椅子に座ると、膝の上で両手を握りしめた。
重たい沈黙。
やがて、ステッキが静かに言った。
「それでも頼む。俺と一緒に来てくれないか。残された魔法使いはお前しかいない。経験を積めば、能力がさらに上がる可能性もある。そうなれば、いずれ攻撃魔法が使えるようになるかもしれん」
ステッキは一呼吸おいて、落ち着いた声で続ける。
「――国を救ってくれたら、報酬を出そう」
「報酬!?」




