第4話 悪・霊・退・散っ!
私、秋葉原のメイドカフェでバイトしてるんだけど、その店、たまにコスプレのイベントをやるんだよね。
あの日のテーマは〝魔法少女〟だった。
私は魔法少女の衣装に身を包み、ステッキを振りながら、オムライスへ次々と〝美味しくなる魔法〟をかけていた。
そこまでは、いつもどおりだったんだけど――。
◇
モップで床を拭いていると、テーブルに置いたスマホがぶるっと震えた。
画面を見なくても、内容はわかる。
ネットニュースを見た友達からだ。
〝【検証】美味しくなるおまじないがかかったオムライス、本当に美味しいのか食べてみた〟
グルメ系で有名な配信者が投稿した動画は、あっという間にバズった。
「めちゃくちゃうまい!」を連呼する配信者の横で、苦笑いを浮かべて立つ私。
なぜかその切り抜き動画が拡散されて、ここ数日、私目当てのお客さんが店に押し寄せていた。
……まあ、人気なのは私というより〝私のオムライス〟なんだけど。
さてと。
フロアのモップがけも終わったし、着替えて帰ろう。
モップを片づけてスタッフルームのドアを開けた、その瞬間――。
背後で何かが落ちる音がした。
「っ!?」
びくっと肩が跳ねる。
しんと静まり返ったフロアに、エアコンの風音だけが、妙に大きく響く。
私は恐る恐る、ゆっくりと振り返った。
「あれ?」
床にコスプレ用の〝魔法のステッキ〟が落ちている。
「おっかしいな。さっき、小道具箱にしまったはずなんだけど」
首をかしげながらかがんで、拾おうと手を伸ばす。
ところが、指先が触れる寸前、ステッキがするりとその手をかわした。
「え?」
ふわりと宙に浮くステッキ。
左右の小さな羽をぱたぱたと動かしながら、目の前でゆらゆらと上下に揺れている。
私はかがんだ姿勢のまま、ぴたりと固まった。
やばい……。
これ、なんだっけ? ほら、あれ……そう!
ポルターガイストだ!
心臓がどくどくと胸の奥で鳴る。
視界の焦点がうまく合わなくなって、床の模様がぼやける。
今、店の中には私しかいない。
逃げようにも、通用口はステッキの向こう側だ。
どうしよう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……。
……あっ!
私の大好きな漫画。主人公が悪霊を退治するやつ。
あれをマネすれば、なんとかなるかもしれない!
(このときの私、どうしてなんとかなると思ったんだろう……)
ぱんっと両手を合わせる。
そこから右手を振り上げて――
「悪・霊・退・散っ!」
最後の「散っ!」に合わせて、私は思いっきりステッキをはたき落とした。
「あたっ!」
なに!?
今、おじさんみたいな声が聞こえたんだけど!?
ステッキは床でバウンドし、そのままころころと転がった。
けれど、すぐにむくっと起き上がり、羽をぱたぱたさせながら再び浮かび上がる。
効いてない!?
なら、もう一度!
「お、落ち着け! 俺はお前の敵じゃない!」
ステッキの慌てっぷりに、上げかけていた右手をゆっくりと下ろす。
なんなの、もう。
飛んでるし、しゃべってるし、「落ち着け!」とか言って上から目線だし……。
ふわふわと浮いているステッキをじろりと睨む。
「いや、敵じゃないって言ってもさ。ステッキが宙に浮いてるんだから、落ち着けるわけないじゃん!? それに今、しゃべったよね? ステッキにそんな機能なかったよね!?」
私の勢いに押されてか、ステッキが後ずさる。
「す、すまなかった。お前を驚かせるつもりはなかった」
そう言うと、ステッキはすーっと床に降りて、土下座みたいにくにゃりと曲がった。
あれ? 意外と素直だな。
うーん……。
危害を加える気もなさそうだし、変な状況ではあるけど、とりあえずは大丈夫なのかな。
ステッキは、曲がったまま黙っている。
なんだか調子狂うな……。
突然はたき落としたりして、こっちが悪いみたいじゃん……。
警戒しつつ、ステッキのそばにしゃがむ。
「一応聞くけど、話ってなんなの?」
ステッキがまっすぐになり、私のほうを向く。
「……俺と一緒に来てもらいたい」
「は? 来てもらいたいって、どこへ?」
「魔法国家イグラルトだ」
「イグラ……何? そんな国、聞いたことないんだけど」
地理の成績がアレだった私でも、イグラルトなんて国がこの地球上に存在しないことくらいはわかる。
「それに、なんであなたと一緒に行かなきゃいけないの?」
「それは、お前が最後の魔法使いだからだ」




