第79話 ここでお目にかかれるとは!
話は弾み、気がつけば窓の外は薄暗くなっていた。
外からは、鳥なのか獣なのか、よくわからない鳴き声が聞こえてくる。
「茉歩瑠。このまま暗くなったら、野営の準備ができなくなるぞ?」
サビーが窓の外を見る。
「うん。そろそろ行かないと……」
私が立ち上がりかけると、ラセンがしゅんと目を伏せた。
その様子を見ていたルルさんが、小さく息をつく。
「野営はやめたほうがいい。このあたりは夜になると魔物が出るからね。お前さん方、今日は泊まっていきな」
するとサビーが、自信ありげに胸を張った。
「大丈夫だ。俺たち、今までも魔物が出る森で何度も野営――」
「はい! 泊まります! ありがとうございます!」
私はサビーの言葉に速攻でかぶせた。
ラセンがぱっと顔を上げる。
うん。久しぶりに会えたんだもん。まだまだ、いろんな話したいよね。
夕食は、ルルさん特製、森の具だくさんスープだった。
なみなみとスープがよそわれたカップが、私の前に置かれる。
かなり強い香草の匂いに、見たこともない肉まで煮込まれていて、思わず身構える。
ちらりと横を見ると、ラセンは平気そうな顔でスープを飲んでいる。
サビーは……まあ、いつもどおり、がつがつと食べていた。
私は覚悟を決めて、スープを口に運んだ。
「……っ! 美味しい!」
器から立ちのぼる香りとは違って、口の中から鼻に抜ける香草の風味はとてもさわやかだった。
謎肉も臭みがなくて、ほろほろになるまで柔らかく煮込まれている。
このスープ、なんだか薬膳っぽいな……。
ここで、私の職業病がひょっこり顔を出した。
「あの、このスープ、すっごく美味しいんですけど、どんな材料が使われてるんですか? 薬草とか?」
私の質問に、ルルさんが少し驚いた顔をした。
「お前さん、よくわかったね。このスープの主な材料は薬草さ。長旅で疲れてるだろうと思ってね」
やっぱり!
具には、私がよく使うドエリナは入ってない。
ということは、私が知らない体力回復系の薬草があるってことかな。
「よかったら、その薬草を教えてもらえませんか?」
「かまわないよ。それじゃ、食事のあとにな」
「はい!」
嬉しくなった私は、カップのスープを一気に飲み干した。
食事のあと、私はルルさんから薬草について教わるため、リビングで食材辞典を広げていた。
そこへ、薬草が盛られたカゴを持ったルルさんがやってきた。
椅子に腰かけるなり、私の辞典を見て目を丸くする。
「それ、食材辞典じゃないか。どこで手に入れたんだい?」
私は、著者の息子さんから譲ってもらったことを、ルルさんに話した。
「そりゃすごいね。その本はなかなか手に入らない貴重なもんだ。大切にしな」
へぇ。この本、そんなにすごいんだ。
たしかに、食材のことはたいてい載ってるし、すごく便利だなー、とは思ってたけど。
改めて辞典の表紙を眺めていると、ルルさんが席を外した。
そしてすぐに、一冊の本を手にして戻ってくる。
「ほら、お前さんにこれをやろう」
そう言って手渡された本の表紙を見て、私は声を上げた。
「これ! 鉱物編!」
ウシカルムを調べたときに食材辞典に書いてあった〝第二巻「鉱物編」〟。
まさか、ここでお目にかかれるとは!
興奮気味にページをめくる。
ウ、ウ、ウ……あった! ウシカルムが載ってる!
「これ、もらっちゃっていいんですか!?」
「この辞典の内容はすべて覚えてるからね。あたしにはもう必要ないのさ」
いやいや、これ一冊丸暗記ってすごすぎるんですけど!
「……それに、本棚でほこりをかぶっているより、おまえさんに使われたほうが辞典も幸せってもんだよ」
「ありがとうございます! 大切に使います!」
「ああ。――それじゃ、薬草の説明をしようかね」
ルルさんがカゴから薬草を取り出し、目の前に並べ始めた。
「はい! お願いします!」
私はルルさんの説明を聞きながら、次々と辞典を引いた。
市場では見かけないものばかりで、とても面白い。
特に気になったのが、スープにも入っていた〝妃円〟という薬草の話。
ピンク色のきれいな花を咲かせる植物で、この森の奥に生えているらしい。
私はすっかり夢中になって、メモを取り続けた。




