第77話 お世話になった人?
翌日、私たちは鍛冶屋の街をあとにした。
まんぷく号を引く私の横で、サビーが鍛冶屋から借りた短剣をくるくると手の中で回している。
「ちょっと、そんな雑に扱って大丈夫なの!? 金貨百枚なんだよね!? もっと大切に扱わないと!」
ひやひやする私をよそに、サビーはあっけらかんとしていた。
「大丈夫だって。こうやって手に馴染ませてるんだ。いざ戦闘になって、落としたりしたら大変だろ?」
「そういうものなの?」
「そういうもんだ」
ふーん、まあいいけど。落としても知らないからね。
丘の上に差しかかると、鍛冶屋の街が遠くに見えた。
街のあちこちから、黒い煙が細く空へと上っている。
昨夜、しびれるタコのスープをごちそうしているとき、私は彼女に目的地を伝えた。
情報をたどるとは言ってたけど、さすがにノーヒントじゃ大変だろうしね。
それと、彼女に私を見張るように指示した人物は、鍛冶屋のお父さんじゃなかった。
なんでも彼女は、あの街の当主に仕えているらしい。それで、街に近づく怪しい者を見張るように命じられているんだとか。
「そういえば、名前を聞きそびれちゃったな……」
私はまんぷく号の引き手をぎゅっと握ると、地面を踏みしめながら坂道を登っていった。
◇
鍛冶屋の街を出てから、一週間ほど。
私たちは、うっそうとした森の中を進んでいた。
なんだか、ひたすらキノコ狩りをしていたあの森のことを思い出す。
少し道を外れたところにある広場に、まんぷく号を停める。
「ひと休みしよっか」
かまどに火を入れ、お茶の準備を始めたところで、ウリ坊が林の中に入ろうとしているのが見えた。
「おーい」
慌ててウリ坊を抱き上げると、荷台に置いてあるクッションの上に戻す。
「今日はキノコ狩りじゃないから、そこにいなさい」
ウリ坊も、あの森のことを思い出していたに違いない。
今度、久しぶりに採取の依頼でも受けてみようかな。
お湯が沸く間に、荷台からテーブルと椅子を下ろす。
「サビー、テーブルと椅子、セットしておいて」
「おう!」
セッティングはサビーにお願いして、私はお茶の用意をした。
テーブルにお茶を並べ、お皿に焼き菓子を盛り付ける。
今日は移動がメインだから、お菓子を作る暇はなかった。
なので、これはお店で買ったやつ。これはこれで、もちろん美味しい。
サビーがぼりぼりと焼き菓子を頬張っている横で、ラセンがなんだかそわそわしていた。
焼き菓子にも手をつけず、あたりをきょろきょろと見回している。
「ラセン、どうかした?」
「あ、うん……なんでもない……」
あー、これ、嘘だ。
絶対なんでもなくない。
「遠慮しないで言ってよ。本当にどうしたの?」
ラセンの顔をのぞき込む。
「え、えっと……」
ラセンは困ったように視線を泳がせた。
「じ、実は……この近くに、昔お世話になった人の家があって……」
「お世話になった人?」
「う、うん。できれば……少しだけ、顔を見せに行きたいな、なんて」
ラセンが、上目づかいで指先をもじもじさせている。
なーんだ。そんなことか。
「いいよ、寄っていこうよ!」
「い、いいの……?」
「いいに決まってるじゃん! サビーもいいよね?」
「ああ、もちろんだ。世話になった人なんだろ? なら、顔ぐらい見せとかないとな」
ラセンの表情が、ぱあっと明るくなった。
さっきまで手をつけていなかった焼き菓子をつまみ、ざくっとかじる。
それを一気にお茶で流し込むと、勢いよく立ち上がった。
「そ、それじゃ、いこう! こっち!」
ラセンは弾むような足取りで、森の奥へ駆け出した。
「ちょっと、気が早いって! 今、お茶の途中だから!」




