第76話 デバフ料理のこと!?
鍛冶屋の帰り道、彼女が途中まで送ってくれた。
「今回の一件、本当にすみませんでした」
彼女は立ち止まり、頭を下げる。
「いえいえ。なんか、全部無料でやってもらっちゃって、こっちこそ申し訳ないっていうか」
彼女は少し黙ったあと、意を決したように私を見た。
「それなら、お願いがひとつあります」
「お願い?」
なんだろう、お願いって。
「私にできることなら、いいけど」
「あの夜にごちそうになった料理を、もう一度食べさせてもらえませんか」
あー、あの料理ね。そんなことならいくらでも――って。
「デバフ料理のこと!? またあれを食べたいの!?」
彼女は恥ずかしそうに視線をそらすと、こくん、とうなずいた。
宿の隣にある空き地に停めたまんぷく号で、私は鍋を煮込んでいた。
あの夜と同じ、あの料理を……。
生の兵悶ダコはもうないから、魔法道具を扱う店で売っていた乾燥兵悶ダコを使うことにした。
……このタコ、やっぱり食材じゃないんだな。
水分を吸ってぷるぷるに戻ったタコが、鍋の中でくつくつと踊っている。
その様子を、忍者の彼女がきらきらした目で見つめていた。
「ごめんね。生のタコが手に入らなかったから、あのときとはちょっと味が変わっちゃうかも」
「いえ、大丈夫です。とても楽しみです」
とても楽しみ……。
まあ、好みはそれぞれだから。
無理やり自分を納得させて、慎重に味を整えていく。なにせ、味見できないからね。
あっ、そうだ!
「あのさ、私の美味しくなる魔法をかけると、もっと美味しくなるんだけど、どうする? ただ、デバフの効果も強くなっちゃ――」
「ぜひお願いします!」
彼女が食い気味に答えた。
いいのね? 本当にいいのね? 唱えちゃうからね!?
「レーナ! クーシ! イオ!」
ピンクの光が鍋に当たり、ぱっと弾ける。その勢いで、タコがぽちゃんと跳ねた。
「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね」
大きな器にたっぷりとよそったスープを、彼女に差し出す。
クールな彼女の目元が、ぱっと明るくなった気がした。
彼女は口元の頭巾を少しずらすと、器を両手に持ち、一気に飲み干していく。
その豪快な食べっぷりに、見ているこっちまで口がしびれてくる。
「あ、あの……大丈夫……?」
「はぁぁぁぁ……」
私の心配をよそに、彼女が恍惚の表情で器を口から離した。
「これです。この味です。そして、あとからくるしびれ……。やっぱり最高です」
「あー、うん。ありがとう……」
なんだろう。
料理を喜んでもらえてるのに、なんでこんなに複雑な気持ちになるんだろう。
彼女は空になった器を置き、丁寧に両手を合わせた。
「ごちそうさまでした。……短剣を届けた際には、ぜひまたごちそうしてください」
「それは、別にいいけど……」
「それでは、失礼します。道中お気をつけて」
彼女は丁寧にお辞儀をすると、次の瞬間つむじ風が巻き起こり、忽然と姿を消した。
そこはちゃんと忍者なんだよなぁ。




