第75話 職人の世界、深すぎる
忍者の父親が鍛冶屋で、鍛冶屋の娘が忍者? うん、よくわかんない。
頭の中がぐるぐるしている私の隣で、サビーと鍛冶屋が話をしている。
「俺は合格ってことでいいんだよな?」
「ああ。娘から話は聞いている。お前は戦況を見極め、仲間を守り、さらに俺が差し向けた連中とも打ち解けたと」
サビーが得意そうに鼻の下をこする。
「敵に剣を振るうのではなく、仲間のために剣を振るう。それこそが、俺が打つ武器を持つにふさわしい者の振る舞いだ」
鍛冶屋のおじさん、すごく立派なことを言っている。
言っているんだけどー、さっき正座でお説教されていた姿を見たあとだと、なんともむずがゆい。
「約束どおり、お前の武器を鍛え直してやる。二か月ほどかかるが、いいか?」
「二か月!?」
私は思わず声を上げた。
うーん。武器を鍛えるのに時間がかかるのは、なんとなくわかるけど……。
私たち、早く王都にいかなきゃいけないんだよね。
「あのー、もうちょっと早くなったりしないですか?」
「それは無理だ。手を抜いた仕事はできねぇからな」
「ですよねぇ」
困った。
この街で二か月は、さすがに長すぎる。だからといって、サビーだけをここに残していくわけにもいかない。
サビーは、机の上に置かれた短剣を神妙な顔で見つめている。
「で、どうするんだ?」
鍛冶屋が少し語気を強める。
黙って下を向いていたサビーが、顔を上げた。
「こっちから頼んどいて悪い。一度、茉歩瑠たちと相談させてくれないか」
うーん、今はそれしかないかも。
ラセンも含めて、一度ちゃんと話し合おう。
「すみません、また来ます」
そう言って鍛冶屋を出ようとしたところで、黙って話を聞いていた彼女が口を開いた。
「それなら、鍛え直した短剣を私が届けましょう」
「えっ?」
彼女のほうを振り返る。
「届けるって、私たちのところまで? その頃には、けっこう先まで進んでるよ?」
「問題ありません。私の足なら、そう時間はかからないでしょう」
彼女はあっけらかんと答えた。
「でも、私たちがどこにいるかわかんないでしょ?」
「それも問題ありません。情報をたどれば容易です」
なにそれ怖い! 個人情報だだ漏れじゃん!
「いや、それでも……あっ! もしかして、配達料がものすごく高いとか?」
「無論、お金はいただきません」
「……なら、なんでそこまで」
彼女は顎に手を当てて、少し考える。
「あなたに興味があります。不思議な料理を作りながら、仲間と共に旅をしているあなたに」
「私に興味?」
メリアといい忍者といい、なんでみんな私に興味を持つの?
ご飯作ってみんなに食べさせてるだけなのに。
……まあいいや。
これで納期の問題は無事解決! いやー、よかったよかった!
ひとり納得している私の隣で、サビーが浮かない顔をしている。
「けどさ、武器が届くまでの間、俺は丸腰になっちまう」
「あっ、そっか! サビーが二か月間も丸腰なのは、さすがに困るよ!」
すると、鍛冶屋は壁に掛けられた武器の中から一本の短剣を取った。
無造作に、サビーに差し出す。
「その間は、これを使え。お前の短剣ほどじゃないが、悪くはねぇはずだ」
サビーは短剣を受け取ると、鞘から刃を引き抜いた。
磨き上げられた刀身に、サビーの顔が映り込む。
素人の私が見ても、かなり立派なものに見える。
「いいのか? 売り物だろ?」
「かまわねぇさ。お前の短剣に比べりゃ安物だ」
私は短剣が飾られていた場所を見た。
そこには、金貨百枚と書いてある。
え……? 金貨百枚!?
それで安物!? っていうか、サビーの短剣ってそれよりも高いの!?
私が二つの短剣を交互に見比べていると、サビーは借りた短剣を腰に差した。
「それじゃ、俺の短剣をよろしく頼むぜ。で、代金はいくらだ?」
「いらねぇよ。昨日の迷惑料も込みだ。それに、こんな短剣を鍛え直せる機会なんて、めったにねぇ。むしろ、こっちが金を払ってでもやらせてもらいたいくらいだ」
「そうか。悪いな」
え? 何? 今ので納得するの?
無料で短剣を鍛え直して、無料でお届け。さらに金貨百枚の短剣まで貸してくれて……それでいいの!?
私は二人の会話にまったくついていけなかった。
職人の世界、深すぎる。




