第69話 もっと味わって食べなさいよ!
鰻が焼けるまでのあいだ、私たちは今夜のことを話していた。
「夕方に来いって、何をやらせる気なんだろう、あの鍛冶屋のおじさん」
「さあな」
サビーは湯呑みを両手で持ち、ふーっと息を吹きかける。
「ぶ、武器も、取られちゃったし……」
ラセンが不安そうな表情を浮かべながら、お茶をすする。
そうなんだよね。
サビーの短剣は、今も鍛冶屋にある。
丸腰のサビーに、いったい何をやらせるつもりなんだろう。
こんなとき、私にできることはひとつだ。
「サビーにお弁当作るよ。バフたっぷりのやつ!」
「わりいな。頼むぜ」
もし戦うような試練だったら、サビーは短剣なしで挑むことになる。
それなら、素手でもなんとかなる系のバフ飯を作らないと。
私はいてもたってもいられず、かばんから食材辞典を取り出した。
ステッキと一緒に読み込んでいるせいか、最近はひとりでも少しずつ読めるようになってきている。
さてと、短剣がなくてもなんとかなりそうな食材は――
「お待たせしましたー。なう重の松ふたつ、竹ひとつです」
店員さんが、私たちの前に重箱を並べていく。
ふたを開ける前から、香ばしい匂いがふわりと立ち上る。
うわっ、いい香り! やっぱりスタミナの代表格といったら鰻だよね!
って、これじゃん!
急いでページをめくる。
魚の項目、う、う、う……あれ? ないな。
「これ、うなぎじゃないんですか?」
配膳している店員に尋ねる。
「うなぎ? これは〝ナウーギ〟ですよ?」
ナウーギ? うなーぎ、じゃなくて?
……そっか! だから〝なう重〟か!
てっきり、お品書きが間違えてるんだと思ってた。
ナ、ナ、あった!
ナウーギの効果は〝持久力を大幅に強化〟。
ぴったりじゃん!
「おい、何ひとりで興奮してるんだ? 冷めちまうぞ?」
すでに半分近く食べ進めているサビーが、なう重を頬張りながら言った。
ちょっと! 高いんだからもっと味わって食べなさいよ!
「なにって、あなたのために調べものしてたの!」
食材辞典をかばんにしまうと、ようやく重箱のふたを開けた。
ふっくらしたナウーギの身に、つやつやのタレがたっぷり絡んでいる。
ひと口食べた瞬間、甘辛いタレと香ばしい脂が口いっぱいに広がった。
「うまっ!」
サビーにあんなことを言っておきながら、結局私も、もりもりと完食してしまった。
「美味しかったな……」
「うまかった……」
「お、おいしかった……」
私たちは、至福の表情でほっこりと湯呑みを傾けた。
さてと。
「すみませーん!」
私は店員を呼ぶと、持ち帰り用にナウーギのかば焼きを包んでもらった。
もちろん、サビーのお弁当の材料ね。




