第68話 うな重じゃなくて?
「お前、こいつに頼りすぎだ」
「……」
鍛冶屋の言葉に、サビーの表情がこわばった。いつもならすぐに言い返すところなのに、何も言わずに立ち尽くしている。
返事を待たず、鍛冶屋が言葉を続ける。
「そんな戦い方をしてりゃ、刃が折れたとき、お前も死ぬことになるぞ」
「……」
サビーは黙ったままだ。
私とラセンは、二人のやりとりを無言で見守っていた。
鍛冶場の熱気のせいか、それとも張り詰めた空気のせいか。私の額を、ひとすじの汗が伝った。
鍛冶屋はサビーの短剣をテーブルに置くと、再びハンマーを振るい始めた。
鍛冶場に、鉄塊を叩く音だけが響く。
サビーは、テーブルに置かれた短剣を、黙って見つめている。
このまま無言の時間が続くのかと思った、そのとき。
鍛冶屋が背中越しに口を開いた。
「だが……その短剣は相当なものだ。一度、お前さんを試させてもらおうか」
思いがけない言葉に、私たちは顔を見合わせる。
「夕方、炭焼き小屋へ来い。街を出た先だ。煙が上がっているから、すぐわかるだろう」
「そこで何をすればいいんだ?」
険しい表情でサビーが尋ねる。
「来ればわかる」
「……わかった」
サビーはそう答えると、テーブルに置かれた短剣へ手を伸ばした。
「短剣は置いていけ」
その一言で、サビーの手がぴたりと止まる。
指先が短剣の柄に触れたまま、ほんのすこしだけ迷う。
それきり、鍛冶屋は何も言わずにハンマーを振るい続けた。
サビーは無言で短剣から手を引くと、そのまま鍛冶場を出ていった。
私たちは慌てて鍛冶屋に頭を下げ、その後を追った。
「どうするの?」
早足で先を歩くサビーの背中に声をかける。
「どうするもなにも、行くしかねぇだろ」
サビーは振り向きもせずに答えた。
「あ、あの、サビー……」
少し息を切らしながら、今度はラセンが声をかける。
「い、行くのはいいけど……一度、落ち着こう。今のサビー……サビーらしくないよ」
その言葉に、サビーの足がぴたりと止まった。
握りしめた拳が、小さく震えている。
重くなりかけた空気を振り払うように、私はわざと明るい声を上げた。
「あーっ! 私、おなか減っちゃったよ! もうお昼すぎてるじゃん! ごはん行こ! ごはん!」
目についた飯屋に飛び込んだら、まさかの鰻屋だった。
この世界にも鰻っているんだ。
店内には香ばしい煙がふわりと漂っていて、私のお腹を容赦なく刺激してくる。
「ここは私のおごり! 好きなもの食べて!」
そう言ってお品書きを開くと――
なう重・竹、銀貨五枚。
なう重・松、銀貨六枚。
うな重の相場、私の世界とあんまり変わんないじゃん!
って、ん? なう重? うな重じゃなくて?
「それじゃ俺、なう重、松で」
「わ、私は……竹で……」
うわぁ、それだけで金貨一枚超えてるよ……。
こうなったらもうやけだ!
「私も松で!」
「奢ってもらっていいのか? けっこう高いぜ?」
「いいのいいの! 今日は景気づけだから!」
「そうか。なら、遠慮なく食わせてもらうぜ!」
サビーが、にっと笑った。




