第67話 カンカンっとはいかないか……
刀を交差させた看板の下に、〝口入れ屋〟の文字。
口入れ屋ってなんだろう? ギルドの和風版ってことかな。
目の前の建物は、冒険者ギルドというより、観光地で見る武家屋敷そのものだった。
風格がありすぎて、ちょっと入りづらい。
「いこうぜ!」
ためらっている私をよそに、サビーはずんずん中へ入っていく。
慌ててその後を追う。
中は、意外にもちゃんとギルドだった。
受付のお姉さんが着物だったり、依頼の掲示が瓦版だったりはするけど。
掲示板を眺めている冒険者たちも、もちろん――いつもどおりの鎧やローブ姿だった。
「そこは侍でしょ!」
ひとりでツッコんでいる間に、サビーが空いているカウンターへ向かう。
「依頼の受注ですか?」
「いや、短剣を鍛え直したいんだ。腕のいい鍛冶屋を紹介してもらいたくて来た」
「鍛え直しですね。刃を見せていただけますか」
サビーが腰から短剣を外し、受付のお姉さんに差し出す。
お姉さんは慣れた手つきで短剣を受け取った。
着物姿なのに、動きは完全にギルド職員だ。
刃を確認したお姉さんの表情が、少しだけ曇る。
「なるほど……。この刃、かなり無理をさせていますね」
「最近、強敵とやり合うことが多くてな」
「そうなんですね」
お姉さんがサビーに短剣を返す。
「わかりました。鍛冶屋の紹介はできます」
「そうか! それなら――」
サビーが言いかけたところで、お姉さんが静かに遮った。
「ただし、この街の鍛冶屋は客を選びます。お金を積めば誰でも打ってもらえる、というわけではありません」
「どういうこと?」
私は思わず横から口を挟んだ。
「はい。武器は、それを持つ者の心を映します。自分の打った武器を持つにふさわしい者だと判断したときだけ、鍛冶屋は槌を振るうのです」
なんだか面倒な話になってきた。
カンカンって叩いてもらって終わりだと思ってたのに。
「わかった。とりあえず、鍛冶屋を紹介してくれ」
「サビー、大丈夫なの?」
「あとは俺の問題だ。なんとかするさ」
サビーはいつもの調子で笑った。
紹介された鍛冶屋は、街のはずれにひっそりとたたずんでいた。
煤で黒ずんだ平屋の建物。
格子戸の向こうには、見たこともない形の道具がいくつも吊り下げられている。
開け放たれた入り口の奥からは、赤々とした火の光が漏れていた。
中から、カン、カン、と高く澄んだ音が外まで響いてくる。
「ここだな」
サビーはまったく動じた様子もなく、入り口をくぐっていく。
サビーって、ほんと度胸あるよね。
私とラセンも、サビーに続いて中に入る。
その瞬間、すごい熱気が肌を撫でた。
中では、鍛冶炉の前で大柄な男が巨大なハンマーを振るっていた。
はだけた上半身には汗がにじみ、炎の光を受けて鈍く光っている。
「何の用だ?」
男は鉄塊を叩く手を止めず、こちらを見もせずに言った。
「ギルドに紹介してもらって来た。俺の武器を鍛え直してもらいたい」
サビーが腰の短剣を抜く。
「紹介? 口入れ屋か……。なら、聞いているな?」
「ああ。簡単には鍛えてもらえないってやつだろ?」
「そうだ。……だが、見るだけは見てやる」
鍛冶屋はようやくハンマーを置くと、サビーから短剣を受け取った。
炉の炎にかざして、刃の状態を確かめる。
ほんの少し角度を変えただけで、表情が険しくなった。
「お前、こいつに頼りすぎだ」




