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料理魔法のバフ飯屋台~食べた仲間が強くなるごはん、作ります~  作者: たこやき風味


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第65話 あれは正当防衛だから!

 暗闇に溶けるような濃紺の忍び装束に身を包んだその姿は、どう見ても忍者だった。

 っていうか、異世界にも忍者っているんだ!?


 頭巾の隙間からのぞく目が、私を鋭く捉えている。

 けれど、その視線はすぐに私から外れ、焚き火にかけられた鍋へと向けられた。


「……その鍋」


「え? この鍋?」


 あっけに取られたまま、焚き火の鍋を指さす。


「いい匂いですね」


「これが? いい匂い?」


 別に臭いわけじゃないけど、いい匂いかと聞かれれば、そんなことはないような。

 まあ、好みは人それぞれだけど……。

 

 私は、ぽこぽこと泡が弾ける鍋を見下ろした。


「その鍋には、何が?」


 忍者が一歩、鍋に近づく。


「えっと、これはデバフ料理だけど……」


「でばふ?」


「食べると調子が悪くなる料理、って言えばいいかな。これは、口がしびれるやつ」


 私の「しびれる」という言葉に、彼女の目がぴくりと反応した。


「すみませんが、それをひと口いただけませんか?」


「いただくって……。これ、食べたいの!?」


「ええ、ぜひ」


 格好からして変わってるなとは思ったけど、食の好みも変わってるのかな?

 疑問符を浮かべつつ、器に料理をよそい、スプーンと一緒に彼女に手渡す。


「ありがとうございます。それでは、さっそく……」


 彼女は頭巾を少しずらして口元を出すと、スープをタコごとすくい、口に運ぶ。


 いやいやいや!

 ちょっと含んだだけでも口の中がしびれるのに、そんなにいっぺんに食べたらダメだって!

 心の中で叫びながら、もぐもぐとかみしめる彼女を見守る。


「ん? んんんんん!? く、口の中が、しびれて……」


 ほら! いわんこっちゃない!


 私が慌てて水を用意しようとしたとき――


「噛めば噛むほどに、しびれが広がる……舌の奥が熱い……。美味……」


「へ……?」


 彼女は恍惚とした表情で、ぷるぷると肩を震わせている。


 え? これって、助けるべきなの?


 私がおろおろしていると、彼女がすっかり空になった器を置き、きちんと両手を合わせた。


「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」


「え、あ、うん。おそまつさまでした……」


 平気なのか……。


「突然押しかけて、料理までごちそうになってしまい、申し訳ありませんでした」


 彼女がぺこりと頭を下げる。


「いや、全然いいんだけど……。あなた、何者なの?」


「立場上、詳しく説明することはできません」


「立場上?」


「ですが、ご馳走になった手前、何も話さないわけにはいきませんね」


 彼女が少しだけ間を置く。


「私は、あなたたちの様子を確認するように言われて来たのです。変な荷車を引いた一行が街に向かっている、と」


 変な荷車って……。

 もしかして、まんぷく号のこと!?


「あれは〝まんぷく号〟っていって、私たちパーティーの大切な荷車なの!」


「まんぷくごう?」


 彼女が、怪訝そうにまんぷく号へ視線を向ける。


「武装した荷車ではない、ということですね」


「武装って、そんなわけないでしょ! あれは料理ができて、しかもシャワーまで浴びられる、すっごく便利な荷車なの!」


「それは……もはや荷車ではないのでは?」


「だから、まんぷく号って言ってるじゃん!」


 彼女はしばらく考えたあと、小さくうなずいた。


「わかりました。では、その荷車……まんぷく号は危険ではないと報告します。ただ、あなたについては、少し判断に迷います」


 彼女の視線が、今度は私のステッキへ向けられる。


「先ほどの妖術。あまり見ない術でした」


「あ、あれは正当防衛だから!」


「はい。暗闇から突然現れた相手に術を放つのは、当然の判断です」


 そこは認めてくれるんだ。


「ですが、あなたが妖術使いである以上、やはり無害であるとは断定できません」


「妖術使い……」


「しかし、こうして話している限り、あなたに敵意はなさそうです。よって、判断がつくまでは、監視を続けます」


 監視を続けるって……。こそこそ見られるってこと? なんかやだなー。


 そのとき、まんぷく号のシャワーの音が止まった。

 彼女はちらりとそちらへ目をやると、再び私に向き直り、ぺこりと頭を下げた。


「長居しすぎました。それでは、失礼します」


 そう言ったかと思うと、突然つむじ風が吹いて、焚き火の炎が消えた。


 私は慌ててランタンに火を入れた。

 けれど、そこに忍者の姿はもうなかった。



 あの人、いったい何だったんだろう。

 デバフ料理をあんなに食べて、全然平気とか。

 あっ! もしかして、煮込みすぎてデバフ効果が薄れたのかも?


 気になった私は、スプーンでスープをタコごとすくい、一気に口に放り込んだ。



「ふぅ、さっぱりしたぜ……って、茉歩瑠、お前何してんだ?」


 全身にしびれが回って地面の上でぷるぷる震える私を、サビーが呆れた目で見下ろした。

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