第64話 にっ、忍者!?
街を離れて、もう数日。
今夜は森の中で野営。
焚き火の向こうは真っ暗で、ときおりフクロウみたいな鳴き声が聞こえる。
夕食のあと、私は焚き火に鍋をかけ、ぐつぐつと怪しいスープを煮込んでいた。
「すげー色だな。それに、匂いも微妙だな」
サビーがしかめっ面のまま、鍋をのぞき込む。
「味見してみる? 魔法はかけてないから、デバフ効果もたぶん軽めだよ」
私は今、デバフ飯の研究をしていた。
材料は、兵悶ダコっていう、小さなタコみたいなやつ。
表面には豹みたいな斑模様があって、食べると口の中がしびれるらしい。
屈強な兵士も悶絶するから、兵悶ダコ。
「いや、遠慮しとく」
サビーが一歩後ずさる。
さすがのサビーでも、これは食べないか。
でも、作ったからには効果を試さないと意味がない。
私はスプーンの先ですくったスープを、ほんの少しだけ口に含んだ。
「んー、まずくはないけど、おいしくもな……あ、あーっ! きたっ!」
ひと口目はなんともない。
ないんだけどー、あとから口の中がぴりぴりとしびれてくる。
「水! 水!」
慌てて水筒に手を伸ばし、口をすすぐ。
もしこれに魔法をかけたら……。考えただけで、また口がしびれてくる。
そんな私を見て、サビーが呆れたように言った。
「お前が食わなくても、そのへんの魔物に食わせりゃいいんじゃないか?」
「もー! 私が味見する前に言ってよ!」
何度も口をすすいでいると、シャワー上がりのラセンが鼻歌まじりでやって来た。
「ま、茉歩瑠ちゃん……。シャワー……。控えめに言って……最高だよ」
ラセンはシャワーを浴びるたびに、毎回同じ感想を口にする。よほど気に入ったらしい。
そんなに喜んでもらえると、私も金貨二十枚を支払った甲斐があったってものだ。
「それじゃ、次は俺な」
ラセンと入れ替わるように、サビーがまんぷく号へ向かう。
「シャワーなんているか?」なんて言ってたくせに、結局サビーもしっかり使っている。
別に使わせたくないわけじゃないけど……。
どうせ使うなら、最初から賛成してくれてもよかったのに。
ラセンはテントに戻り、サビーはシャワー中。
私はひとり、焚き火の前にいた。
鍋の中で、斑模様のタコがぐつぐつと煮えている。
そのときだった。
腰のステッキが、私にだけ聞こえる声でささやいた。
「何かいるぞ……」
「えっ!?」
息をのんで、闇に目を凝らす。
しかし、その姿は見えない。
「誰かいるの!?」
私は思い切って、闇に向けて叫んだ。
「……よくわかりましたね……」
暗闇の向こうから、女の人の声が返ってきた。
ラセンはもう寝てしまったのか、テントから出てこない。
サビーも、たぶんシャワーの音で気づいていない。
ステッキをそっと構える。
美味しくするだけの魔法でも、はったりくらいにはなるかもしれない。
――なんて、考えてる場合じゃない!
「レーナ! クーシ! イオ!」
先制攻撃っ!
見えない相手に向かって、迷わず呪文を唱えた。
ステッキの先から、ピンクの光線が放たれる。
ほとんど勘で撃った光は、近くの木の幹に当たって弾けた。
「妖術ですか……」
どこか余裕を含んだ声とともに、暗闇の中から人影が現れる。
その姿を見た瞬間、私は思わず声を上げた。
「にっ、忍者!?」




